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グッドバイ・ピッチ  作者: タンバ
2年目(久松プロ5年目)
74/110

8/5 人事を尽くし

「やっとやっと連敗ストップですよ」


試合後の監督室で、扇はそう言いながら手で顔に風を送る。

後半戦は2連敗から始まり、そしてわちゃわちゃしつつ直近の試合で5連敗。荒木がなんとか抑えてくれて今日は勝ちを拾う事ができた。


「負荷はかけないようにと考えて回してましたが…。やっぱり夏場は想像以上に負担が大きいですね」


妻木、古沢、飯田、十川、岡で負け続き。ローテの裏でも表でも勝ちをほぼ拾えないとは、正直2人にとって想定外だった。

特に妻木から十川の間では、全て中継ぎで落としている。リリーフ陣には明らかな疲弊と、そして、勝ちパターン組との力の乖離が見えていた。4戦目などは、十川の後を受けた久松が3イニングを無失点でしっかり抑えており、延長で大西が打たれて敗戦という形すら発生している。久松が復調気味なのはありがたいが、絶対的な頭数が足りてないのは間違いない。

故にこその緊急補強。不調で上がって来れていなかったレギュラークラスの一宮と若手でユーティリティ性ある赤澤を弾に、土井と金子、若めの左腕と取り回ししやすい中堅右腕をファルコンズから獲得し、傷口を塞ぎにかかる。

本人らの即戦力性云々は置いておく。こういうのは後詰めがあると現場とファンに思わせるのが肝要だ。

土井はともかく、金子は早めに使えるだろうと皮算用しつつ、2人は今後の事を話し合う。


「貯金はあと7。残りは40試合あると。まぁまだプレーオフ圏内ではある所ですかね」

「打線がそこまで落ちてきてないのは不幸中の幸いです。池田と佐多の安定感がかなりありがたいですね。先発は荒木、妻木、十川の3枚がかなり頑張ってくれてますから、古沢や岡あたりがどこまで踏ん張れるかってとこでしょうか」

「…禁じ手かもしれませんが、久松君を先発にって言うのは」


前も後ろも睨める手札を2枚引っ張ってきた事で可能性を持つ策ではあった。が、吉永はそれを即座に否定する。


「扇さん、それはナシです。彼を動かしたところで、余計に後ろがゴタつくだけでしょう。それに、彼は僕らの期待に応えてくれています。その手は酷ですよ」

「…えぇ、えぇ。その通りです。そうすると〜…、どうします?明日は誰か入れ替えますか?蜷川さんからは、土井君はもう少し環境に慣れるのを待ってやった方がいいと言われてますし、稼働出来そうな選手はあらかた上にいますけど」

「金子はもういけるんですかね」

「問題ないみたいですよ。本人も投げたがってるみたいです」


ならば、と吉永は手を叩き、そのままその腕を組む。


「とりあえず大きい動きとして出来るのはそのくらいですかね。後はコーチ陣から推挙と現状確認でやりくりするだけかな」

「吉永くん、大変申し訳ないけどこの後スカウティングレポートも一緒に見てもらわなきゃいけないんですよ。大丈夫です?」

「えぇもちろん。やれる事はやれるうちにやりましょう。今日は誰の映像とレポートかな。華隆大の田島とかだと嬉しいな」

「福井英林の魚住だったはずですよ。今年は高卒投手とかより、どの年代でもいいから野手を揃えたいんですけどねぇ」


時計の針が22時を指す中、2人は監督室を出て次のヤマに向かう。


「プレーオフは絶対出ます。この貯金もこれ以上減らさない。とりあえず明日の公示と全体練習から。扇さん、とにかく我らのやり方で成果を出しましょう。あと少し、あと少しです」

「えぇ、えぇ。球団の主流派達に我々のやり方と力を見せつける。もちろんそんなの副産物でしかありませんが、私たちの悲願でもある。完全に奴らを黙らせて、より強く、より良いチームに。その為には今シーズンで最低でもAクラス入りが必要ですから」


もう照明が落ちる部屋すらある球団事務所で、チームのトップは種々の感情を込めつつ、無意識に握り拳を作っていた。

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