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グッドバイ・ピッチ  作者: タンバ
2年目(久松プロ5年目)
68/110

7/21〜24 ソーダイオールスター コンチネントVSオーシャン③

「こい握力かなんかやろか?投げ方は問題なく見ゆっけど、えらい抜けよっとさ。抜けるけんが、曲がらんとじゃなかかな」


10球程度投げ込み、ボールを受け取ろうと俺が右手をあげたところで、原さんがそう思いついたように言う。

グラブを降ろし、左手の指の腹同士を擦り合わせながら、俺は次の言葉を待った。


「カッターは、基本強度があってちょっと動くけん、ミスショットを誘いやすいんやけど、こいがまんま採用理由なはずっちゃんね。やけんが、曲がりまくる必要はなかけど、曲がらんっていうのもいかん」


出来の悪いボールを何一つ言うことなく受け止めていた芳賀さんが、マスクをとりこちらへ歩いてきて、論陣を張る。


「ふむ…。しかしだ。握力が原因だとするなら、スライダーやカーブも同じじゃないかね。ボールを曲げる、という点に関しては変化量が大きくなるほど求められそうなものだが」


芳賀さんの言に、俺は手のひらを顎に当てる。握力の不足は、十川さんにも以前指摘されているので、ここは原さんの仮説にも沿う。だが、カーブやスライダーの変化については説明がつかない。総合するなら、握力プラス何かが足りてないとかになるのだろうか。

ひとまず、自分のことなので議論に加わろうと口を開く。


「握力はもう少し鍛えろとチームで言われた事はあります。ただ、カッターの変化量や持ち球の変化との因果関係についてはちょっと心当たりがありません」

「そうよなぁ。おいも間違いなくそこか、って言われると自信はなかとさね。その、もしかしたらやけども。ストレートと同じ振りで、みたいな意識がそうさせるんかもしれん。カーブとかスライダーは球速が出らんもんやけど、カッターはそうじゃなかけん。曲げすぎず遅すぎずの塩梅がまだ取れとらんのかも」


うーん、と3人揃って唸り声をあげる。

少し沈黙があった後、芳賀さんがこう言った。


「アプローチを変えよう。今はストレートを曲げようとしているから、カーブスラ系統からストレートに寄せていくというのはどうだろう」

「それはよかですけど…。カッターてボールの採用理由から離れっしまうような」

「結局この子の切所は、対左においてパワーがあって外角に投げれるボールがストレートしかない事だ。打者からすれば、強度がない代わりに逃げていく球か強度はあるがゾーンに残ってくれる球の2択になる。そこがまずい。故に、選択肢を増やして解決する。具体的に言えば、スライダーもしくはカーブの速度にグラデーションを与えるんだ。その為に変化球側から速球へ近づけるようなアプローチをすべきだと考える。まま速度は強度と言う気はないがね。それでも球速帯に幅が出れば、バッターに対する遂行範囲も広がるだろうし、検討の余地があると思うよ」


原さんが、まぁそれは…、と納得しかかっているのを見ながら、俺は俺で思考を進める。

議論は死ぬほど有益なのだが、2人とも視点が中長期に寄ってきており、大変申し訳ないが今すぐどうこうできるものではない。握力はすぐ何キロも上がらないし、球速のグラデーションったって、腕の振りを緩めれば、なんて付け焼き刃で凌げるような世界に生きていない。

故に、ここで得るべき知見を得ておけば、ひとまず原さんのメンツは立つし、しっかりとした利益となる。


「原さんのカッターって、どう言う時に投げてます?」

「ん?まぁ割とどこでも投げられる球には仕上げとんよ。おいん持ち球は真っ直ぐ、カット、スプリットばい。もちろんこんだけじゃあなかとけど、これ以外は企業秘密っちゃんね。おいん場合は、真っ直ぐが他の左に比べたら速かけん、基軸のボールも速球系でまとめたとさ。カッターの使い所としては、大体想像通りで、詰まらせたい時とか引っ掛けさせたい時、要は早めに打ち取りたい時に投げよっとかな。場合によってはストレート代わりに投げることもあるな。それと、左の外に行けば三振にもなるけん、そういう時にも選択肢に入ってくったい。あとは、球速と変化量を弄れるようになれば幅も出る。まぁ一朝一夕には…あ」


お気づきになられましたか。


「たぁ〜!時間なかね!握力足りんちゅう話やとしても変化量調整の話やとしても今日なんとかなるこたなかっちゃん?こい無理ばい!」

「…そうだね。新球習得の為の時間としては、足りないな」


そう言って芳賀さんがグラブを叩く。

沈黙。そんなに時間をかけた訳ではないが、リーグトップクラスの選手を2人捕まえておいてこれは体たらくもいいとこだ。

そんな風に俺は思っていたのだが、芳賀さんは真面目な顔をしながらこう言った。


「なんかもうむしろ…スラかカーブをおもくそ曲げてみよう。曲げれるだけ曲げて、それをオールスターの出し物にしよう」


曲がらないカッターに、いやうそ。曲がりはしたが名前のつかなかった謎の変化球に見切りをつけた俺たちは、ひたすらに、フォームが崩れようと関係なく、カーブとスライダーだけを投げ、受け、見続けた。

オールスター、こんなにしんどいんだなぁと思った。

2連続でお待たせしてしまい申し訳ありません。

なお、謎の変化球は頑張ったり試行錯誤したりすればスイーパーという名前がつくかもしれませんが、久松的にはそのスキルツリーにポイントを振る気がないので習得はしません。

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