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グッドバイ・ピッチ  作者: タンバ
2年目(久松プロ5年目)
57/110

4/1 対瀬戸急フライヤーズ 第1回戦

俺が投げた試合を含め、クロウズは開幕カードを2勝1敗で勝ち越した。

2戦目はドラ3の飯田が5回4失点と粘りながらも敗戦。3戦目は抜擢された高卒6年目の右腕、中川太一が力投。なんと7回112球1失点と飛躍を感じさせる奮戦ぶりでプロ初勝利を挙げた。

打線も今のところは良さそうで、1番に座った佐多はいわずもがな。2番には移籍覚醒を遂げたらしい野口さんが入り、ゲッツーも辞さないフルスイングで圧を掛ける。1、2番で勢いをつけ、相手の気勢を崩したら、後はアダメスと池田の大駒2枚でしばき上げるという構成だ。

5点、2点、8点と、得点力は現状申し分ないと言えるだろう。これまではリードに集中させる為、という理由で6番より上に来た事がない池田だったが、現政権下で3〜4番に据えているのが打線の回転率を劇的に上げている。

吉永監督曰く、


「得点するためには点を繋げて線にしないといけないわけだからね。簡単な話、打てるやつを固めないと線にならないんだよ。小技が出来る選手を上位に置かないのかって?いらないいらない。デカい点を集めれば立派な太い一本線になるだろう?間に小さい点を入れたら不格好じゃないか」


とのことだ。ちなみに池田のリードと打順云々の話が出た時には、首脳陣からサイン出せば終わる話じゃない?と言ってOBなどを黙らせたらしい。まぁ確かに自分で考えたら必ず成長するってものでもないし…。なお、バッテリーコーチとなった篠原さんは1年目から顰めっ面をしているそうだ。

で、こんな体制で迎えた本拠地開幕戦。誰が投げるのかという話だが。


「いやァ〜。俺も衰えたもんだわ。本拠地開幕もダメだったか〜」

「5番手で良いって言ってたじゃないすか」


すいすいと7回無失点で投げた妻木をモニタ越しに見ながら、十川さんと俺は茶をしばく。

予告先発制度に基づき、明日の先発が発表されている十川さんは、からからと笑いながら自嘲した。


「まァ言ったしありがてーけどな?勝ちはつきやすくなるだろうし?でもよォ〜。俺にも一応プライドがなァ?」

「ワガママっすねもう…。いや存外アレじゃないです?後半戦の一番手とかになったりするのでは?チーム随一の先発にふさわしい役割でしょう」


俺がそういうと、十川さんは目を丸くした後一つため息をついた。


「バッカお前、そんな先のことまで…。いや、あるか?あの監督なら考えてねぇとは言い切れん。真夏の一番手かァー!普通に嫌じゃん!」


十川さんはまだゴネる。きちんと話すようになってからそう時間は経たないが、こういう時は大抵流しておくのが吉だと学習した。

夏の暑さを想像して勝手に唸り声を上げる十川さんをよそに、俺はモニタに視線を戻す。

今日は池田もアダメスも当たっていないが、佐多と野口さん、それから5番に入る一宮が頑張っていて、なんとか2点リードで8回が終わった所だった。

このまま行けば妻木はプロ初登板初勝利。ルーキー一番乗りにもなる。

セットアッパーのフィリップも踏ん張ってバトンを繋いだ。アンカーはこの人だ。


「ピッチャー、フィリップに変わりまして、武田。背番号、22」


一歩踏み出すたび、ずん、という音が聞こえてきそうな力強さ。

怒らせた肩は風を切り、巨体はゆっくりとマウンドに進む。

グラウンドには、ヒステリックにも聞こえる女性の甲高い歌声と共に、弦楽器の音色が響く。

モーツァルト作、レクイエムを構成する曲の一つ、『怒りの日(Dies irae)』 。

味方でありながら、俺は怖気を感じた。自身の哲学の体現者、武田克虎がプレートを踏んだ。

9回が始まって、終わる。


「トラァァァァイッッ」


中継越しに判定が聞こえる。154km/hのストレート。

今日の相手、瀬戸急打線については以前述べた事がある。2塁打でぐるぐると打線を回転させるのが彼らの戦闘教義だが、それはすなわち、ホームランを打てるパワーを有していないあるいは優先しない事を意味する。

以前、武田さんが総海対俺について話してくれたが、奇しくも逆の構図が出来上がっている。

圧倒的なパワーで制圧する武田さんを前にしては、瀬戸急打線では何も起こり得ない。

俺の想像通り、今2人の打者が掠ることすら許されず退けられた。

対抗できるとすれば4番に座る駿河だろうが。


「トラァァァァイッッアウッ!ゲームセッ!」


あえなく三者凡退。そもそも9、1、2から始まる打順、駿河までは遠すぎた。


「あのオッサンやべーな。ガタイといいスタイルといいゴリラすぎね?本当に俺と同級生なんか?」


あの投球を見てこの反応な当たり、この人も大概だなと思いつつ、俺は今年もしかして結構ウチ強いか?とちょっとだけポジティブに生きようと考えた。


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