10/24 日本中央野球リーグ新人選手選択会議
都内でも一、二を争う大きなホテルの会議室を張り詰めた空気が支配する。
京央ネイビークロウズ編成部アマチュアスカウティングチームの3名と、編成部長である勧修寺、新監督の吉永、GMの扇が一堂に会してのすり合わせや意思確認・決定が行われる訳だからある意味当然と言えるだろう。
「では、最後の会議を始めましょう。泣いても笑ってももう少しでドラ1の初回入札。今後10年20年を左右しかねない大きな一瞬、決断となります。覚悟と責任を持ってこれに当たりましょう。よろしいかッ」
扇の喝にその場にいる全員がうなずくと、西日本チーフスカウトの久我が口火を切った。
「ではお西の私から。一位入札候補としては、高校生ですと近江清澄の宮部、白雲の本城、大高坂の中島あたり。大学生は上都大の芦名、泉商科大の大谷、隈府学院の飯田が候補と考えています。社会人については、三興商船瀬戸内の金山とエネワークかごしまの八島。これらを推したいと思っています」
続いて、東日本チーフスカウトの古川が負けじと声を張る。
「えー、続いて我々東の担当より!まず関秀大学の妻木!次に北涼の沼田!そして常大の岡本!この3名が不破関より東では抜けていると考えてます。ただ、もう1人!不破関より西におりますよね、エラいのが」
「福井英林の堀江秀。…何チームくらい来ますかね今日の空気感で」
扇の問いに、両チーフが答える。
「少なくて3でしょう。ショートっていうのが良くないですね。あんなのみんな欲しいですよ」
「古川さんが下限を答えたので私は上限を…。まぁでも行って7だと思います。高卒ショートっていうカテゴリで、何もなければ10年15年は使える選手と見えますし。大社の大物内野手が少ないものあって人気しそうですから」
「ハッハッ…。7も大概おかしいですがねぇ…。堀江君、確かにいい選手ですがウチは取りません。合議するまでもなく、我らにはスターターが足りていませんから。それも左腕がね。故に質のいいサウスポーの獲得こそが至上命題。堀江君に票が集まるならこれほど好都合なことはありません。1〜2球団の競合は許容します。誰ぞ、推挙を」
扇の問いかけに、中部地区担当の斉藤が手を挙げる。
「担当地区より、妻木を推します。最速150、今季リーグ戦で8試合2完投。コマンド能力は今年の候補の中でもずば抜けていますし、スライダーを軸として、三振を取れるピッチングができる投手です。頭もいい。既に古川チーフとのクロスチェックも済んでいて、東日本エリアからはこの選手を是非に」
熱を帯びつつも努めて冷静に話す斉藤に、扇は少なからず好感をもった。
西日本勢に水を向けると、久我はかぶりを振った。
「即戦力性の高い左腕、となると飯田なんですが…。妻木と比べるとやや落ちます。高卒投手に生きのいいのが多いので、下手するとスリップして2〜3位での指名が可能かもしれません。妻木も例年なら競合する選手ですが、今年は一本釣りすらあり得ます。ま、いずれにしろ一位入札権を使うなら妻木でしょうなァ」
議決。意思統一が図られたと皆が思ったところで、吉永が口を開いた。
「堀江に入札したい人は挙手を」
吉永の言葉に皆が顔を見合わせ、ややあったあと、一つ、また一つと手が上がる。
その中には、扇だけでなく吉永自身もいた。
「よろしい事と思います。野球が好きな者たちとして今我々は堀江の才能をしかと認めました。ですが、我々が勝つために、優勝するために必要なのは妻木である。この決定に異論も後悔もない。そうですね?」
全員がこれに首肯し、入札会場である大ホールへと向かった。
12の円卓のうちの割り振られた一つに全員が腰掛けたあと、スカウトの1人が端末を操作し、入札意向を送信した。
時計の針が進む。多くの人の運命を乗せたアナウンスが、会場内に響く。
今年の一番手は我らネイビークロウズだ。
「…第一巡選択希望選手、京央ネイビークロウズ」
アナウンサーの響く声が止み、場内が一層の緊張に包まれる。
わずかな動きも許されないようなそんな空気の中、全体指名一位の名前が轟いた。
「妻木、光太郎。投手。関秀大学」
ギャラリーからおおっ、という声と拍手が起こる。しかし、そんな様子を意に介することなく粛々と指名は進む。
「…第一巡選択希望選手、武蔵コマンダーズ。堀江、秀。内野手、福井英林高校」
「…堀江、秀」
「…堀江、秀」
「…堀江、秀」
堀江は結局久我が言った通り7球団の指名となり、抽選の末帝東ブレイブスが交渉権を獲得した。
一方の妻木は浜名タイダルウェーブの入札が予想されていたものの、指名はなく、ネイビークロウズが一本釣りに成功。
選択の明暗は定かならざるが、少なくともネイビークロウズの編成チームは今この時これを大いに喜んだ。