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グッドバイ・ピッチ  作者: タンバ
1年目(久松プロ4年目)
24/110

8/8 ミニキャンプ④

佐多はやれる、通用する。


そう言った俺に3つの視線が集まる。

1人はより強い困惑の色を見せ、1人は本気か?と言わんばかりに片眉を吊り上げ、最後の1人は始まったぞ、と言わんばかりの好奇に満ちた表情を浮かべた。

そうして、そのうち片眉を吊り上げた津田さんが詐欺でも疑うかのようにこう言った。


「そないいうても久松。いや、俺もいけるんちゃうかなとは思うで?試すのも大いに賛成や。せやけど、なんか根拠あんのん?端からみると、なんやごっつ入れ込んどるやんとしか思われへんねん」


さて、ここからだ。さっき説明したのにも関わらず津田さんがそう言ったのは、肌感覚の話をしろという事だろう。

ピッチャー目線、データ目線と話をして佐多と蜷川監督の心を巻き取る、そういうプランだと察した。理論から感覚へ話が回るよりは、感覚から理論へと転換させた方がより説得力も増す。

口調とは裏腹に、津田さんは野手としての佐多をかなり買っているようだ。

水を向けられた俺は、津田さんにさっき話した通りのことを話し、とにかく"振れている"ことを付け加えた。

抽象的な表現だが、野球をやってる人間でこの言葉を悪く捉える者はいない。

蜷川監督の都合や好みに合う解釈がされるか、あるいは話を補強するために口を開くだろう津田さんへのアシストも視野に入れてのチョイスだった。

結果的に、先に口を開いたのは津田さんだった。


「まー確かにスイングスピードも速いし、100キロ前後のボール相手にマン振りしとるとはいえ打球速度も日本人としてはかなりのもん持っとる。やけどなぁ」


津田さんがそこまで言ったところで、蜷川監督が制すように手を前に出した。


「いいんだよ、もう。そんな腹の探り合いみてぇなことしなくて。いいものありそうだってのは分かったんだし、津田が数値やら実際のスイングやらで評価して野手転向に積極的なのは筋も通る。翻って、ヒサ。お前が佐多に野手転向を進めるのはなんでだ?そこが解せねぇんだよ俺ぁ。そもそも密談しようってんで集まったんだ。腹割って話そうや、なぁ?忘れちゃいけねぇ、結局やるのは佐多なんだよ。先輩として、同じ投手として俺らなんかよりお前の方が知ってる事があるだろ。それを加味して野手転向を勧めてる理由を教えてくれよ」


この場に居る誰よりも苦しげに蜷川監督はそう言った。そのまま、続けた。


「俺は反対してるんじゃねぇんだ。やりたくないことをやらせたくないんだよ。諦めたいならそれでいいと思ってんだよ。データ班が賢しらに数値いいです!って。先輩がトスバッティングでお!いい打球じゃん!って。そらぁ俺だって軽々しくお前らが言ってるとは思ってねぇよ。だけどプロとして野球をするってのは苦しいんだ。分かるよな?久松。転向なんてなおさらだわな。元々から野手の奴に追いつけ追い越せだ。それこそ血反吐吐くまでやっても報われんかもしれん。普通にやってたって、野球の事ばっか考えておかしくなって、野球だけじゃない、関わる何もかもが嫌になるときがある。一瞬だけ何もかも上手くいって、楽しくって、気持ちよくなって、その後地に落ちて戻って来れなくなる奴がいる。佐多がそういう時期だったら、近い未来そうなったら、お前自身嫌じゃないか?」


試すような、それでいて懇願するような口ぶりだった。

蜷川監督からすれば、俺はノリと勢いで野手転向を勧める責任感の希薄な先輩に見えなくもないのは分かる。


もし本当にそうであった場合、育成部門を預かる人間としてそれを止めなければならない、と考えているのだ。

これまで、そういう流れや、そうして潰れた人を何人も見送ってきたからだろう。選手として、指導者として。

そして、俺がこんな性格なのを理解した上で、お前に背負えるだけの覚悟あるのかと監督は問うているのだ。

だからこそ、俺は断言する。


「根拠は述べました。大丈夫です。佐多は野手としてやっていけます。無論僕も、投手に未練があるならそれはそれでいいと思いましたし、佐多が野球を続けたくないと、そう思うならそれは尊重されるべきです。ただ、高校野球を見て、バッティングをしたいと僕に言ってくるような人間が、簡単に野球全てを捨てられるとは思えません。だからこそ、どんな形であれプロの現役という立場にしがみついていて欲しい、と。プロは戻ろうと思って簡単に戻れるところではない。それは蜷川監督がこの4人の中で1番よく知っていると思います。

それに…、気持ちよさそうに打っている佐多は、ここのところで1番良い、吹っ切れた顔をしていました。仮に通用しないとしても、佐多はやれることを全てやって、燃え尽きてから辞める方がいいタイプです」


見えているものがある故に言い切れたのか、泣きじゃくっている佐多を見ていたから言い切れたのか。

もう佐多が納得してくれるならどっちでもいいと、そう思った。


「さっきも言いかけたんですけど、分からないってことは迷いがあるってことで。なら試せばいいんじゃないでしょうか。丁度ここに1週間くらいで調整が終わる一軍半のピッチャーがいますし」


そういって俺は手を挙げ、指を3本立てた。


「佐多。3打席勝負しようや」


佐多は黙ったまま、少しだけ泣きそうな顔で静かに頷いた。

話を進めるつもりで書いたのに何故か話がほぼ進んでいない…???

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