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グッドバイ・ピッチ  作者: タンバ
1年目(久松プロ4年目)
13/108

7/28 対瀬戸急フライヤーズ 第12回戦①

藤木監督の休養が発表されたのは俺に負けがついた翌日の事だった。

代役には1軍バッテリーコーチの三渕さんが抜擢、監督代行として指揮を執るとスポーツ紙やネットニュースでは報じられており、実際顔を出してみると、ミーティングに藤木監督の姿は確かになかった。

扇GMが現状説明や混乱を招いた詫びなどをして、三渕さんが挨拶をした。特に変わった様子はなかったように思う。


俺は先発登板の翌日ということもありそれが終わり次第家に帰る事にした。

古沢さんに声をかけて帰ろうかと思っていたが、その前に俺が声を掛けられた。


「ヒサさんお疲れ様です!」

「ん?あぁ佐多か。お疲れ。なんか用事か」


高卒3年目の佐多。静岡の県立高校からドラ1で入って来た期待の右腕だ。獲得の際には藤木監督が非常に高く評価したらしい。

確か甲子園でベスト4まで行ったとかなんとか。


「いやぁ今日先発なんですけど…。どうでした?瀬戸急打線」

「どう…どうってなぁ…。1割ない左専用機がスタメンで出てくるくらいだからメンツは揃ってないと思うぞ。まぁそいつにボコボコに打たれたけど」

「そうっすか〜。正直打たれる気しかしないっすけど頑張ります。球種はどんなのに反応ありました?」

「全体的に変化球を狙ってくる傾向があるような気がするな。直球押し出来るなら1、4以外は大丈夫だと思うぞ。佐多は持ち球なんだったっけか」


俺の問いかけに、佐多は苦笑いしながら答える。


「あー、真っ直ぐとスラとフォークっス」

「…だけ?」

「…だけっスね」

「マジか。セットアッパーとかクローザーの構成じゃん」

「そうなんすよねー。だから変化球習得を課題に2軍でやってたんすけど、上手くいかなくて…。しかもここんとこフォークもあんまり落ちなくなってるんです」


という事は実質ツーピッチか。

被打率が圧倒的に低いボール2種であれば、リリーフとしてなら通用する選手もいる事はいる。

しかし佐多がやるのはスターターなわけで、いくら状態が良いとは言えない瀬戸急打線とはいえ、経験値のなさも加味すると相当厳しいだろう。

右の速球派だし、球の構成も近い古沢さんならなんとかアドバイスをあげられるのだろうが俺には少々荷が重い。


「うーん、フォーク投げんからなぁ俺…。その辺り今日受ける人には話した?」

「はい。池田さんはまぁ真っ直ぐよけりゃなんとかなるわ、っつってましたね」


ば、馬鹿〜!なんとかなるか!

というか篠原さんじゃなくて池田が受けるのか…。


いや、おかしい話ではないのだ。キャッチャーとしての能力はともかく、選手としての能力を考えた時に池田と篠原さんどちらが上かという聞かれたら、俺は池田だと答える。

圧倒的な打撃力、篠原さんに負けないどころかなんなら上をいく強肩、そして一定水準の投手ならきちんとリード出来るだけの頭もあることはある。

正捕手としてのスペックは既に有しており、あやをつけるのには大分無理がある。


問題なのは、佐多が経験値含め一定水準には全く達していないという点だ。

池田の性格や傾向上、ストレートに力があると分かれば多投の上無理やり押し込ませようとするだろう。

1軍経験のない選手への教育という意味でははっきり言って下の下だ。何が足りなくて打たれるのか、2軍との違いは何かというのが有耶無耶になりかねない。

直球偏重の配球で必要以上に打ち込まれれば、"構成が物足りない"で済むかもしれないのに、"ストレートが物足りない"という誤認を与える可能性があるのだ。

直球自体は通用しているかもしれないのに。

まぁ何が言いたいかというと、状況と巡り合わせが悪い。


ベンチも普段なら若手にベテランをつけて投げさせるくらいの事はするのだが、藤木監督更迭の影響かどうもバタついているらしい。

先発が足りてない現状を考えると、出来れば佐多にはイニングを食ってもらいたいだろうがなかなか厳しいだろうな。


「池田が受けるのね。なるほどな。あー、一応古沢さんにも話聞いてみようか」


そう言って佐多の方を見ると、焦りと不安でなのか目をキョロキョロとさせていた。

高卒3年目ドラ1のピッチャー、言ってしまえば長めに面倒みてもらえそうなのになんでこんなに余裕がないのだろうと思いつつも、俺は佐多と一緒に古沢さんがいるであろうブルペンを目指した。

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