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始まった学園生活

 アルディオの家庭教師期間が終わって、王宮への用事もなくなり、私は毎年恒例の夏季休暇となった。

 今年はクロード兄様がお勤めになったので、1週間程皆で王都のタウンハウスで過ごしてから、お仕事でこちらに残るクロード兄様を抜いた全員で北部に向かい、ノルディック辺境伯領領で1週間程、その後うちの家族だけでロッドフィールド侯爵領に向かう。

 それぞれの家族だけで3週間程を過ごし、エディ様とキャシーは、休暇終わりの2週間前にロッドフィールド領で再び合流予定だ。


 ルイス兄様は、高等科に上がってからの初めての領地訪問。父様と一緒に領地の経営状態や各地の視察など、一通り学ぶことになった。クロード兄様もここ数年は、夏季休暇中一ヶ月ほど父様と同様に過ごしていて、跡取りはクロード兄様なのだけれど……ルイス兄様だって、領地持ちの貴族に婿入りなんてことがあれば、必要になることだし、私も興味があったので、ご一緒させてもらうことにした。


 我が領は、気候が落ち着いていて穏やかな地域で、小麦や野菜などの農産物の他、山間部では畜産も盛んだ。また、風光明媚で水資源が豊富、美しい湖や温泉が湧くこともあり、夏の避暑地として観光客も多く訪れる。そのため、街道も整備され、多くの宿泊施設や商業施設もあって、北部地域では最も大きな都市でもあった。


 お隣のノルディック領は、更に北部になり山を越える為、気候も少々異なる。

 夏は涼しいが、冬場は雪も多く厳しい。しかし、領地の一部が海であり、水産資源が豊富で、鉱山もいくつかあるため、金や銀が採れる。あと、名馬の産地だ。

 互いの領都自体は、魔法導力馬車で1日程度と割と近いので、交易も盛んだった。

 ちなみに、王都からロッドフィールド領都までは、魔法導力馬車で3日ほど。

 以前から、うちとノルディック領の交流があり、領主同士が行き来していたのも不思議ではない。


 そしてノルディック領は、領地の一部を隣国のザルディア王国と接している。このザルディア王国とは昔から小競り合いが絶えず、なんとか和平が成り立っているが、外交上かなり気を使う相手だ。

 おそらく豊かなルーベンス王国の北部地域を狙っているのだろうが、我が国でも最強と謳われるノルディック辺境伯軍が睨みを利かせて、領土を守り抜いている。

 基本的に我が国の国軍も相当数駐留しているため、うちの領都とは、ずいぶん趣も異なった感じだ。


 エディ様は将来そのノルディック辺境伯領で領主となる方で、学園を卒業したら王都でまず国軍に入隊し、その後辺境伯軍を指揮していくことになるという。

 現在、高等科の魔法騎士科士官コースで、戦略や軍の指揮、地理、政治学、心理学などを学んでいて常に成績もトップだというのも、この厳しい状況で将来を見据えて一生懸命学んでいるからなのだろう。


 そして侯爵領は、いざというときに、ノルディック辺境伯領をバックアップする体制を整えることも必要だ。戦時下における兵糧の確保支援、資金調達、医療支援。王都が遠い分、うちの領で備え、整えておくことも多い。


 前世で私は、直接戦争を知らずに生きていた。いくら戦争反対や平和的解決を訴えても、そんなものが通じない相手というのは存在するし、武力を持ち守ることが必要だと理解もしている。

 だけど、自分や身近な人がそこに巻き込まれることを現実としてとらえていなかった。


 私は今回父様についてロッドフィールド領やノルディック領を見て回ることで、これまで机上で学んだ知識が、目の前の現実として自分の中で消化出来たことを実感した。

 そして、自分が生まれたこの国で、私は何が出来て何をするべきか……


「ヴィア?心配事?」


 休暇の終わり王都に向かう馬車の中で、エディ様やキャシーやルイス兄様とご一緒していたときだった。窓の外の風景を見ながらいろいろと考えを巡らせていた私に、向かいに座っていたエディ様から声をかけられた。


「いえ……」


 視線を馬車の中に戻すと、三人が私を見ていた。

 私は慌てて首を横に振ると、なんでもないと笑って見せる。すぐに出せる答えではないし、誰かに相談することでもない。

 この先どう生きていくかは、自分自身で決めなくては。


「すみません。もうすぐ後期が始まりますね。休暇終わりは、なんだか寂しくなります」


「でも、ヴィア、休暇が終わっても、今度こそ私達は同じ女子寮だし、兄様達とだって学園で会えるわ!」


 と、キャシー。


「そうですね。やっと始まるんですね、学園生活」


「おう。楽しみだな、シルヴィー?」


「学園でも、君と会えるのは嬉しいよ」


 ルイス兄様とエディ様もそう言って笑う。


「はい。本当ですね」


 子供でいられるのは、そう長い時間ではない。生まれかわってから、今まで幸せな子供時代を過ごしたと思う。クロード兄様はすでに国の中枢に近いところで働いているし、エディ様やルイス兄様も将来を見据えている。

 前世持ちで、豊富な魔力を持って生まれてきた私も、そろそろこの先を考えていかないといけないのだろう。




 そうして、学園後期が始まった。


 女子寮にはキャシーと一緒に入った。

 本来高等科の学生は一人部屋なのだが、今回私の年齢と中途半端な編入時期を考えられたのか、今年度いっぱいは同室者が出来た。

 部屋まではキャシーの案内で来て、いったん彼女とは別れる。

 ノックをして入室すると、真っ直ぐな黒髪に青い瞳のスレンダーな美人が現れた。

 初対面の貴族の子女らしい同室者に、私は腰を落として挨拶をする。


「はじめまして、私シルヴィア・ヴィン・ロッドフィールドと申します。この度8年生に編入することになりました。よろしくお願いします」


 すると彼女は穏やかに微笑んで、礼を返してくれた。


「お会いするのを楽しみにしておりましたわ、ロッドフィールド侯爵令嬢。私は、メイベル・サザランドと申します。メイベルと気軽に呼んで下さいね」


 サザランド伯爵の令嬢だった。王都より南に領地を持つ、果物やワインの産地で有名な場所だ。


「私のことも、どうぞシルヴィアとお呼びください」


 そうして部屋に荷物を入れ落ち着いたところで、案内してもらいながら、彼女と一緒に寮や学園を見て回る。


 メイベルは高等科8年生の学生で、私と同じ魔法研究科の医療コースの学生だった。学園の高等科に、女子特に高位の貴族女性は非常に少ない。

 もともとこの国は男性優位の社会で、高学歴女性の働き先としては、家庭や学校での教師や、魔力のある者は独立した魔法師として働くことが主である。

 高位の貴族令嬢は、そもそも働くということはしないが、王立学園に限らず、中等教育さえ修了していれば、魔法師団に団員として所属することは可能だし、医療機関や孤児院などでも看護や保育業務などの就業は可能だ。

 高位貴族の他、一般的な貴族令嬢は、嫁入り前の社交と一般教養の修学が、学園入学の主な目的である。中等科で人脈を築き、運良く婚約者を見つけられれば、高い学費を払って王立学園に在籍した意味はある。必然的に女子の殆どは、中等科を修了して学園を去っていく。

 そして、高等科に進学する女子は、将来に対する明確な目的を持った、しっかりとした女性だけということになる。

 高等科はまた、他校からの成績上位者の編入も受け入れているので、8年生は新人にも割と寛容であるが、女子に対する偏見を持つ男子学生も、一定数はいるのだという。


「シルヴィアは年齢も若いし、侮られることもあるかもしれません。学園内といえど、充分お気をつけ下さいね」


 と、そんなことも親切に教えてくれた。

 メイベルは、歳下の私にもちゃんと誠意を持って、接してくれる。自分よりも上位の貴族だからというわけでなく、一人の人間として大切にしてくれている感じがした。

 夕食のときには、キャシーを紹介して、互いに挨拶を交わしたところで、もう一人の知り合いに捕まった。


「シルヴィー!もう!いつになったら私のところに来てくれるの? 待ちくたびれたわ! ああ、傍にいる皆様も一緒に私のところにいらっしゃい!」


 と、従姉妹殿に王族特権の豪華個室に連れていかれた。

 我が国の第一王女エリザベス殿下、リズである。


「……そう。キャサリンにメイベルね? ああ、私的な場では私のこともリズと呼んでちょうだい。 シルヴィーったらここに来たばかりなのに、もう素敵なお友達がいるのね。ズルいわ!」


 高級なお茶がふるまわれ、巻き込まれて緊張するキャシーとメイベルの紹介をすると、先の発言である。

 リズは普段、部屋の外では畏まっているのだろう。友人二人の視線がどういうことかと私を見る。

 私は溜息をついて、言った。


「リズ、はしゃぎ過ぎです。キャシー、メイベル、リズは私の従姉妹にあたるので昔からの付き合いなんですよ。こんな感じなのは、他人の目がない時だけなので、安心して下さいね? え〜とリズは、5年生でしたよね?」


「そうよ。シルヴィー、この度はアルディオをみてくれてありがとう。中途半端な時期の編入になってしまったから、私の方でフォローしようと思っていたのだけれど、良い方々が傍にいてくれてよかったわ」


 リズが微笑んで、キャシーとメイベルを見た。


「恐れ入ります」


 声を揃えて頭を下げた二人に、私も頷いた。


「リズ、ありがとう。そして、メイベルもキャシーも、改めてよろしくね?」


 小一時間程おしゃべりを楽しんで解散となる。リズには時々二人を連れて部屋を訪れるように言われ、約束して別れた。


 怒涛の1日目が終了して、いよいよ翌日が初登校となったのである。


 学園高等科の女子の制服は、白のシャツブラウスにチャコールグレーの丈の短いブレザー、黒の細身のロングフレアスカートである。8年生は臙脂のリボン、9年生は紺色のリボンを首元につける。男子学生は、白シャツに黒に近い濃いグレーのスーツで、襟元に黒の縁取りがある。ネクタイは女子のリボンと同色。男女ともに胸ポケット部分に学園のエンブレムが刺繍されていた。

 私は真新しい制服を着て、夏にエディ様から贈られた、明るい茶色に翠色で細く縁取られたリボンを纏めた髪に結んだ。

 鏡を見て、自分の姿を確認する。


「良く似合っていますよ。シルヴィア」


 メイベルが褒めてくれて、嬉しくなる。私達は、二人揃って寮を出た。


 学園後期初日の今日は、後期授業のガイダンスと時間割、研究課題についての説明、魔法研究科の医療コースの為、実験や実習などについて、午前中かけての説明だった。所々で、メイベルが私を皆に紹介してくれる。

 コース内20名のうち、女子は私達二人だけだった。魔法研究科には他にも、魔法学研究コースや魔道具開発コースなどもある。

 その他には、教養・教育科や、政治・経済・国際関係学科、経営・会計科、などがあり、ルイス兄様やエディ様は、魔法騎士科の士官コースに在籍していた。

 女子学生は、教養・教育科の半数を占めるが、他の科やコースでは0〜数名と極端に少ないか居ないかだった。

 それぞれの科には襟章があり、ブレザーの襟にそれぞれ所属のピンバッジを着けていた。


 今日は午前中で終了して、メイベルと二人、学園の食堂に向かっていたときだった。


「シルヴィー。やっと見つけた!」


 突然後ろから肩を抱かれて、声を掛けられる。隣にいたメイベルがギョッとしたように振り返った。


「ルイス兄様!エディ様!」


「やあ、ヴィア。制服姿、良く似合ってる。リボンも着けてくれたんだね?」


 ルイス兄様とエディ様が二人揃って立っていた。私の肩を抱いたのは、もちろんルイス兄様だ。エディ様は優しげに微笑んで、そっと髪のリボンに触れながら言った。


「シルヴィア?あの……」


 他にも食堂に向かう学生が多い中、すごく目立っている。メイベルが戸惑ったように、私を見た。

 私は二人の手から逃れると、メイベルに並んで、互いを紹介する。


「メイベル、こちら私の2番目の兄でルイス・ヴィン・ロッドフィールド。そしてキャシーのお兄様のエディウス・ノルディック辺境伯爵令息です。私達、兄妹まとめて幼馴染なんですよ。

 ルイス兄様、エディ様。こちらは、寮で私と同室の、コース内で二人だけの女子学生でメイベル・サザランド伯爵令嬢。昨日からとても親切にしてもらっています」


 メイベルは少し驚いたように二人を見て、綺麗にカーテシーをした。


「はじめまして。メイベル・サザランドと申します。シルヴィアと今年いっぱい同室になりました。よろしくお願いします」


 するとルイス兄様も、片足を引いて胸に手を当て頭を下げた。


「そうなんだ。俺は、ルイス・ヴィン・ロッドフィールド。妹に親切にしてくれて、ありがとう。これからも顔を合わすことが増えると思うけど、よろしくね?」


 兄様、軽い……キラキラした笑顔が、ちょっと軽薄です。


「エディウス・ノルディックだ。ご令嬢、キャサリンは私の妹にあたる。二人が世話になったようだ。礼を言う」


 こっちは、硬い。いつものエディ様と雰囲気が全然違う。どうした?

 私が首を傾げていると、ルイス兄様が笑って言った。


「シルヴィー、エディの普段ていうか、通常モードはこうだから。むしろ、キャサリンやお前といるときの方が、おかしい」


 ええっ!?そうなの? 私は目を瞠って、エディ様を見る。


「別に、意識してやってるわけでも、わざわざ態度を変えているつもりも、ないんだけどな。怖がらせたらごめん。ヴィア?」


 困ったように私を見たエディ様は、いつもの彼だった。そうか無意識なのか。


「うわ〜。わかりやすい……」


 ぼそっと隣でつぶやいたメイベルの顔が、若干引き攣っていた。なんか、ごめん。

 少々ぎこちない雰囲気になったが、とりあえず昼食に行こうと四人で歩き出す。

 食事を取って、大き目のテーブルに腰掛けた。

 私とメイベルが向かい合わせに座り、私の隣にエディ様。メイベルの隣にルイス兄様である。

 ムードメーカーのルイス兄様が話を盛り上げて、メイベルの領地のことや、学んでいることを中心に話も弾む。エディ様は口数は少ないけど笑顔だったし、食べきれない私のメインを引き受けてくれたり、私の好きな果物を分けてくれたりした。

 少しは打ち解けたのかな? よかった。


「シルヴィー、初めて学園に来た割には、ものすごく目立ってるね? ルイスも、久しぶり」


「ユリウス殿下!」


 出た、王族第二弾!

 中等科最高学年7年生のユリウス殿下だ。わざわざ高等科の食堂までやってきたらしい。こんな目立つところに来なくても、後でご挨拶に伺ったのに、と若干恨めしげに見たのは許して欲しい。

 立ち上がって挨拶しようとした私達を手で制して、


「あ、学内だしプライベートだから、気にしないで? 皆もそのままで」


 と優雅な微笑みを浮かべて、おっしゃった。そのまま私達と同じテーブルに腰掛ける。メイベルの顔が、軽く強張った。本当にごめん。


「失礼するよ。君がメイベル嬢だね? 昨晩はリズが世話になった。そして、エディウス殿、こうして話すのは初めてだね。君のことは、クロードやルイスから聞いているよ? ユリウスだ、よろしく頼む」


 兄妹揃って金髪碧眼の美男美女で、ルイス兄様ともなんとなく似ている王子様だ。温和な性格で敵を作らない性格だが、それは人間観察力が高い第二王子殿下ならでは、だ。こういうところも、ルイス兄様と立ち回りが似ていると思う。


「こちらこそ、ユリウス殿下。ご記憶に留めおいて下さり、光栄です」


「はじめまして、殿下。エリザベス王女殿下には良くしていただきました」


 エディ様とメイベルが、目礼して返す。


「どうしたのさ?ユリウス。シルヴィーに用でもあった?」


 ルイス兄様もわざわざこっちまで来た殿下に、首を傾げて尋ねた。


「ああ。シルヴィーには、兄も弟もすっかり世話になったからね。そのお礼と、アルディオからの伝言を伝えに来た」


 確かに、午前中はアルディオ、午後からは王太子殿下と、前期は二人にかかりきりだった。王太子殿下のところは、単なる相談役だけど、目を通した資料は膨大だった。専門外なのに。


「アルディオ様から?」


 なんだろう? わからないところでも、あるのかな?


「来年、頑張って学園に編入するから、待っていて、だそうだ。君の授業が終わってから、猛勉強してるよ」


 そう。学園への編入を目指して頑張っているのね……と、アルディオと最後に会ったときの顔が浮かぶ。


「そうですか……ご兄弟も仲良くされているようですね。アルディオ様も頑張っているようで、嬉しいです」


 アルディオが物事に真剣に取り組んでいるのが、嬉しい。そして、傷だらけだった彼が、家族に少しずつ癒やされているのだと窺えて、ほっとする。


「ふふっ。よかった。じゃあ、私はそろそろ行くよ。王宮にもまた遊びに来ておくれ?」


 そう言って、ユリウス殿下は戻って行った。




「ねえ、シルヴィア? 私、貴女と知り合ってこの24時間が、これまでの7年半の学園生活よりも、ずっと濃かった気がするわ……」


 メイベルは、寮に戻って来るなり、グッタリと机に突っ伏した。垂れた黒髪の隙間から私を見る青い目が、死にかけている。

 ごめんなさい。巻き込まれましたよね。


「すみません。え……と、状況説明が必要でしょうか?」


 メイベルには、知る権利があると思う。私は恐る恐る尋ねた。


「う〜ん。言いたくなければ聞かないけど……確認だけさせて? 答えたくないなら、パスしていいから」


 あ、メイベルって、いい人だ。それに、なんだか信用できる、かも。

 私は首を縦に振った。


「一応難関の編入試験を、満点でパスしたシルヴィアは、いくつ? 歳下って聞いていたけど」


 え?満点だったんだ。ああ、でも気になりますよね、そこ。特に隠すことでもないので、素直に答える。


「12です。次の年明けすぐに13になります。でも、私前世持ちなので、今まで家で家庭教師から学んでました」


「前世持ち!? 早生まれの4歳下かあ。大人びているのは、納得だわ。殿下達とは従姉妹同士って言ってたけど、かなり親しいのね?」


 驚いたけど、納得という感じで、メイベルは続けた。


「ええ、まあ。テレジア妃がうちの父の従姉妹で、私の母が王妹なんです」


 一応調べれば誰でもわかることなので、これも問題なし。


「わあ、なるほど。アルディオ様って、今年初めにうちの領地で起こった暴動で見つかった、第三王子殿下よね?」


 これも、発表済みの情報だ。そういえばサザランド領の街だった。


「そうですね。前期は、彼の家庭教師を頼まれて、編入が遅れたんです」


「ああ、だから、王女殿下も王子殿下も、わざわざシルヴィアの庇護を買ってでたのね。よかったわ。歳下の女の子が一部の男子学生から不当に侮られる心配が無くなって。

 あ、でも、他の目的で、近づいて来る男はいるかも?」


 いろいろ察してくれたらしいメイベルが、首を傾げて言った。


「え?」


 メイベルは、私の前に人差し指を立てて、顔を近づける。


「野心がある男って、結構いるのよ。玉の輿とか……でも、それでルイス様とノルディック様が、あんなあからさまに牽制したのか」


「多分、そうです。二人とも過保護なんです」


 喋りながら、一人納得したらしいメイベルに、私も同意した。


「過保護か。あ、最後に一つだけ。ノルディック様は、シルヴィアの恋人?」


「は? いえ、だから、優しくて過保護な幼馴染ですよ?」


 いや、さすがにそれは、エディ様に失礼だ。いくら優しくて、幼い頃から共に過ごしたせいで、兄様達の過保護がうつったのだとしても、こんな見た目お子様な妹分が恋人と誤解されては、エディ様が可哀想だ。


「……うん。いろいろわかったわ。これで充分」


 メイベルはしばらく私をじっと見ていたけど、やがて大きく頷いて、納得してくれたようだった。

 いろいろお世話かけます。




 そうして学園を若干騒がせた後期の始まりは、割とすぐに落ち着いて、学生達の日常が始まったのである。


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