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王宮通いの半年間

 週が明けて、アルディオの授業が午前中だけになり、私達は授業の後に軽食を一緒に取って、解散するという流れになった。

 アルディオは、朝起きたらまずは体を鍛える為の運動を行い、軽く剣を振り、朝食を取ってから、私の授業になる。ランチタイムの後は、日替わりで教科の授業と、マナーレッスン。夕食は陛下や王太子と共に取ることになったという。

 なかなか忙しい。

 私は食事をしながら、アルディオと家族のお茶会について尋ねていた。


「お茶会は、どうでした?」


「うん。兄上も姉上も、親切にしてくれた」


 穏やかな笑顔で答えるアルディオに、王家一家の団欒風景が頭に浮かんで、ほっとする。


「そう。良かったです」


 すると、アルディオはちょっと言いにくそうに私を窺い、


「……シルヴィアのことも、いろいろ教えてくれた」


 と、私に視線を合わせた。


「あ〜、まあ、皆さんとの共通の話題といえば私ですからね」


 王家一家とアルディオが話の取っ掛かりにするなら、私のことよね……何を言われたのか、気になるところだけど。


「シルヴィアは、俺の従姉だったんだ。それに前世持ちって聞いた。どういうこと? セドリック兄上が、シルヴィアは俺の2歳上だけど、精神的にはもっと上ってことだって」


「あれ?従姉だって、言ってませんでしたっけ? え〜と、前世持ちっていうのは、前の人生の記憶を持ったまま、この身体で生まれてきてしまったってことですね」


 私は、自分がアルディオの従姉だってことすら、伝えてなかったらしい。

 よくもまあ、見ず知らずの子供の私の言うことを、素直に聞いてきたなあ、と、アルディオの素直さに感心する。それでも、昨日、私の事情はだいぶん彼に明かされたのだろう。前世持ちであることも、今ではあまり隠していない。私は、魔法も能力的にも充分自衛できるようになった。簡単に誰かに攫われてしまったり、いいように利用されたりすることもないだろうと、父様の判断だ。

 周囲に事情が知られている方が、見た目というか実際12歳の子供が、飛び級編入や大人びた物言いをするのも、不自然ではない。

 おかしいのは、兄様達がいつになっても私を年相応の子供として扱うことだが、それはそれで、私は癒やされているので、素直に受け入れている。

 私の答えを聞いたアルディオは、前世持ちについて少し考えていたが、実感がわかなかったのだろう。かみ砕いて、尋ねてきた。


「前の人生の続きを生きているってこと?」


「いいえ。確かに記憶は前の人生のものを持っているのですけど、私はちゃんとシルヴィアなんです。前とは違う環境や育ち方をして、魔法も使えて……前の私とは違う選択肢も持っている。それが、私がここで貴方に魔法を教えることに繋がりました。

 ねえ、アルディオ、貴方もたくさんの選択肢を持てるように、学んでくださいね?」


 そう、有紗の記憶はあっても、この環境に生まれ、以前の生とは違う身分制度がある絶対王政の社会で、魔法が存在し科学文明とは離れた今を生きている私は、以前の私とは違うシルヴィアという人間だ。私に充分な学びの機会を与えてくれた両親が、私という人間を形成したのだと思う。


「そっか。うん、わかった。一生懸命勉強すれば、学園にも行ける? ユリウス兄上とエリザベス姉上は、今日から学園の寮で過ごすって」


「もちろんです。編入試験がありますけど、学習の進度に応じて入る学年が違いますから、飛び級と言って上の学年に編入することも出来ますよ。ユリウス様は今年から7年生、エリザベス様は5年生でしたね。お二人は1年生から学園に入学しましたから」


 アルディオが学園に興味を持つのは、良いことだと思う。行きたいと思うことが、勉強に対するモチベーションを保つことになる。


「学園は楽しい?」


「どうでしょう。私は前世持ちの関係で、これまで学園には通っていませんでしたから。ご兄弟、セドリック様にでも聞いてみたらどうでしょう? うちの兄達はとても楽しそうにしていましたけど」


「シルヴィアも通うって聞いたけど?」


「後期からですね。私も楽しみにしてるんです」


 すると、アルディオが少し申し訳なさそうに続けた。


「ごめん。俺のせいで遅れたって聞いた。エリザベス姉上に、ありがたいと思って少しも無駄にするなって言われた」


「あら、リズったら。気にしなくていいですよ。これも良い機会ですから。さて、ランチタイムもそろそろ終わりですから、午後からも頑張ってくださいね。私はこれで失礼しますわ。明日また参ります」


 昼食が終わり、私は席を立って挨拶する。


「ありがとう、シルヴィア。また明日、よろしく頼む」


 腰を上げずに、王子様らしい物言いをしたアルディオに、よく出来ましたと微笑んで、私は退室した。





「お、来たか。まあ、そっちに座ってくれ」


 アルディオと別れたあと、私はセドリック王太子に呼ばれて、彼の執務室にやってきた。許可されて部屋に入ると、セドリック殿下の他に二人程彼と歳近い男性が立っている。

 応接セットを指さされ気軽に座れと言われたけど、他人の目があるので、貴族令嬢としてきちんと挨拶をする。


「失礼いたします。御用と伺いましたけど」


「そんな畏まらなくていいぞ? ここにいる者達は私の腹心の者ばかりだ。お前の兄もそのうち加わる予定だしな。まあ、いつも通りで構わないよ、シルヴィア」


 そう言ってヒラヒラと手を振ったセドリック殿下に、じゃあ、まあいいかと、指示された場所に腰掛けた。


「恐れ入ります?」


 そして、目の前にやってきたセドリック殿下は、腰掛けるとにっこりと笑って言った。


「で、昨日の茶会のこと、気になってるんじゃないかと思ってな?」


 今日も変わらずキラキラしい笑顔である。この人の笑顔は、裏で何を考えているかわからないから、油断は出来ない。


「先程、アルディオ様から聞きましたよ? 私のことをいろいろとお話ししてくれたようで……」


「まあな。あいつお前が従姉だってことすら知らなかったぞ?」


「そのようですね。うっかりしていました。初対面でダサ女呼ばわりされたので、すっかり忘れていましたわ」


「ハハッ……なかなかやるなあ、あいつ。まあ、その格好も見慣れれば、愛嬌があって、かわいいぞ?」


 白々しく中身のない話に、若干ウンザリする。忙しい彼が、わざわざこんな話をするために私を呼びつけたわけではないだろう。


「別に何を言われても、気にしていないのでいいですけど。で、本題はなんです? 効率重視の王太子殿下?」


「いいな、やっぱり。血が近すぎなきゃ、正妃に望むところだが……」


 ニヤリと口角を上げたセドリック殿下に、その先の言葉が想像できて、私はため息をつきたくなるのを耐えた。


「あ〜、予想がついたので言わなくていいです。もちろん、お断りします。今の状況で満足して下さいよ。貴族間のバランスとか見ても、ロッドフィールド家がこれ以上王家と縁を結ぶのは、やめたほうがいいです。別に婚姻じゃ無くてもいいでしょう? 兄様だって、殿下の側近になるんだし……こちらの皆様も同じように考えていらっしゃるのでは?」


 つまり、前世持ちでそこそこ使える私を取り込みたいから、テレジア妃の息子である王子達ではなく、アルディオと婚約しろと言っているのだ。テレジア妃は、私の父様の従姉妹にあたるし、私の母様は王妹なので、セドリック殿下はさすがに私と血が近すぎる。だから、アルディオと私をと考えたのだろう。

 私も貴族令嬢だ。政略結婚を否定する気はないけれど、ロッドフィールド侯爵家は、今でも充分王家に近い。全く必要性を感じないし、アルディオと私の婚約には良い顔をしない貴族もいるだろう。

 そう言って断ったのだけど、セドリック殿下の後ろに立っていた、焦げ茶色の髪に眼鏡をかけた男性が、口を開いた。


「恐れながら、ロッドフィールド侯爵令嬢。はじめまして、マクベルと申します。

 殿下と令嬢のやり取りを拝見して、私、考えを改めました。第三王子殿下とご婚約いただけましたら、大変心強く思います。

 我が国では、残念ながら、女性が王太子や国王陛下の側近に加わることはもちろん、重要な役職に就くことは困難です。ですから、王族の配偶者かご婚約者という立場で、こちらに加わっていただけたら、非常に心強く思います」


 ああ……この場に私を引き入れたいけど、いい口実がないから、アルディオの教師が終わった後は、婚約者になって毎日王宮に登城してこいと。

 遠い目をした私に、セドリック殿下はマクベルの言葉を引き取った。


「……だそうだ。私は、能力のある者が国を動かして行けるように、制度を変えていきたい。伝統や世襲制も、まあ必要なところはあるかもしれないが、平民だろうが、女性だろうが、実力を発揮できるところで働いて欲しいと思っている。それに伴い、害悪になっている一部の貴族を排除したい」


「陛下はこのことを?」


 こんな大きな改革をこの人は考えていたのか、と初めて知ったが、陛下はどう考えているんだろう?


「もちろん知っている。協力はするが、急ぎすぎるな、と言われてはいる」


 当然だよね。陛下さすが!


「そうですね。保守的な方のお考えを変えるのは骨が折れるでしょうから。上手くやらなければ現在のような貴族制を取っている場合、国が荒れます。害悪……というのが、どの程度を指しているのかはわかりかねますが、それなりに利権も発生しているでしょうし、私の意見を申し上げれば、時期尚早でしょう。現状、上手く立ち回らなければ、外国から隙をつけ込まれて、戦争にもなりかねない」


 絶対王政は、政策決定やトップダウンで物事を進めるには良いけど、有力な貴族がそこに絡み、自分達の私利私欲を満たそうと考える人が、少なからずいる。

 そこに下手に実力主義を導入すると、優秀な人材がそのような貴族のやり方に不満を覚えて、うっかり市民を扇動したりすれば、革命騒ぎになる。

 そこを、割と豊かなうちの国を狙う北の隣国などにつけ込まれれば、戦争を引き起こすことにもなりかねない。

 幸いにしてこの王家の現国王と王太子は、優秀で善良だ。だから、あまり早急に進めず、問題のある貴族を権力から遠ざけ、優秀な人材を育てて、少しずつ他に権力を分散させて、前世でいう立憲君主制に向けてソフトランディングさせるのがいいかもしれない。

 そんなふうに考えながら言うと、


「さすがだな、よく視えている」


 と苦笑して、セドリック殿下は言った。

 私は首を横に振る。


「こことは違った世界を知っているだけですよ。

 結論としては、お断りいたします。私、やりたいことがありますので。

 アルディオ様の家庭教師を予定している夏季休暇前までなら、午後からこちらに伺うことは可能ですけど、後期からは、学園に通いますし。

 皆様優秀でいらっしゃるので、違う視点から意見を述べることは出来ますが、政策決定に口を挟むことはしませんわ。マクベル様が数年前に学園卒業時に発表された論文、予算の確保と世論のコントロールは必要ですけど、現体制の中では理想に近い制度改革だと思いますし」


 彼の論文は、絶対王政のメリットとデメリット、今後の可能性を示唆したもので、多分王太子に大きく影響を与えたのだろう。王制を維持しつつ、民衆の意見も取り入れる仕組みをつくり、政策に反映させるという内容だった。

 だけど、民衆の意見を取り入れ実現するためには、予算取りは必須だ。費用を捻出するための具体的な方法や、世論に不満が溜まりすぎず前向きに動かせるよう、絶妙なコントロールが必要だと思う。

 前世のフランス革命のような事が起こらないよう、少し意見が挟めればいいと思う。


「まあ、そこまで、か。だが、しばらくの間力を貸してくれるのは助かる。クロードには叱られそうだがな」


 仕方なさそうに笑ったセドリック殿下に、きっと最初からこういう結果に落ち着くと踏んでいたんだろうと推察する。

 全く、回りくどいなあ。まあ、あわよくば、とも考えていたんだろう。


「知りませんよ。アルディオ様にも、余計なことは吹き込まないで下さいね?」


「私からは、何も言わないよ。約束する」


 言質を取ったので、私は立ち上がる。もう帰ろうと、歩き出したところだった。


「あの!シルヴィア嬢」


「はい?」


 マクベル様の呼び止める声に、足を止めて振り返る。


「論文読んでくれていたんですね!ありがとうございます。ぜひ意見交換をお願いしたく……」


 ああ、既視感? 前世の私もそんなところがあったかも……だけど、その後の台詞が予想出来て、表情が曇る。


「マクベル、控えろ」


 すかさずセドリック殿下が止めてくれて、助かった。


「……クロード兄様にお尋ね下さいませ。許可が出れば、どうぞ兄様とご一緒に侯爵家にいらして下さいな?」


 やましいことがなくても、マクベルと二人で会うことになったりすると、かなり面倒臭いことになる。彼の気持ちもわかるし、前世の歴史の知識が、この国の役に立てるなら吝かではないのだけれど、ここは兄様を巻き込むことにした。彼もセドリック殿下の側近になるのだから。


「ありがとうございます!」


 そう明るく返事をした彼が、うちを訪ねてくるのはそれから2ヶ月後。しかもその場には、マクベル様と兄様の他に、何故かエディ様もいらっしゃるという、よくわからないメンバーでの意見交換会となった。

 エディ様が政治にも明るくて優秀な方であることを知ったのは、その時だった。




 それからしばらく経って、私の王宮通いは続いていた。


「だいぶん上達しましたね。魔法理論の理解と実践が結びついてきました?」


 アルディオの魔法への理解も、発動もずいぶんと上達してきて、夏季休暇まであと2ヶ月弱となった。休暇前には、私の授業も終了する。


「うん。魔法の発動もやりやすくなった。循環も無意識で出来るようになったし、本を読んだだけで理解出来るようになってきた。原理と法則がわかると結構面白いな」


「ふふっ。優秀です。今日は魔法付与について勉強します」


 学園の初等科では、簡単な魔法の発動と行使、魔法付与が出来れば、良いとされている。

 その先は自身の適性に合わせて、興味のある分野を学んでいけばいいだろう。

 魔力がない人々の為の魔道具も普及しているから、実際に生活するだけならそこまで高度な知識は必要ないし、学園の生徒でも魔力が無いか少ない者は、初等科で知識だけ学んで、当然実践は免除されている。

 中等科では、ある程度希望で科目も選択していくから、魔法学は適性のある者が選択していくことになるのだ。

 私はアルディオの興味を引きそうなもので、付与魔法を試してみようと尋ねてみた。


「アルディオ、剣術はどの程度?」


「結構上達したぜ? 俺、向いてると思う」


 得意げに言うところを見ると、自信もあるらしい。


「そうですか。では、剣に火の魔法を付与してみましょうか?」


「剣に? そんなこと出来るのか?」


 アルディオの表情が、パッと輝いた。めちゃくちゃ興味がありそうだ。


「ええ、部屋ではちょっと手狭ですので、外に出ましょうか?」


 私はアルディオを促して、中庭に出る。当然、護衛の近衛も一緒に出てきた。私は近衛騎士を振り返り、尋ねてみる。


「近衛の方、申し訳ありませんが、私にも持てるような小剣はお持ちですか?」


「こちらに。お気をつけ下さい」


 いつもアルディオの護衛をしてくれている青年が、にこやかに小剣を貸してくれた。注意も促してくれる。


「ありがとう。ついでに少々お相手を。アルディオ、まずは、私がやってみますので見ていて下さいね」


 私は、小剣の剣身の平らな部分に、指先に魔力を纏わせて魔法式を刻んでいく。出来たところで、片手で構えた。騎士にも剣を構えるようにお願いする。


「では、行きます」


 そして、騎士の剣に当てるように、小剣を振る。


「!?クッ!」


 当たった瞬間、騎士は思わず自分の剣から手を離し、取り落とした。彼の剣は凍りついてゴロリと落ちる。私は騎士の手や腕を確認したけど、異常はなかった。自身の腕が凍りつく前に、剣から手を離したらしい。


「大丈夫ですか?少しでもおかしいところがあれば、治療しますよ?」


「いえ、大丈夫です。それにしても、すごいですね」


 彼は苦笑してそう答えた。私は、落ちた剣を拾うと、氷を消して彼に返す。

 じっと見ていたアルディオが、思わず声を上げた。


「すごい!」


「私は水の属性持ちなので、合わせた相手の剣が凍りつく魔法を付与させてみました。アルディオは、火と闇を付与することが出来ると思いますけど、例えば水や光の属性持ち相手には、打ち消されるかもしれませんね。

 あと、練習するときは、火事ややけどに気をつけて、よく考えて下さいね? 周りに水魔法が使える人がいれば、安全かもしれません。」


 火の魔法を付与して、火事を起こしたら大変なので、注意しておく。

 更に、魔法付与そのものについても、説明した。


「魔法付与は、決めた物質に、魔法を付与しておけます。今、発動条件を剣を合わせたときに設定したので、魔力を流してさえおけば、勝手に発動してくれます。

 魔法だけなら、普通に使った方が効果も調整出来ますし、タイミングも決められますけど、付与魔法はいったん発動条件を決めてしまうと、魔力を流したタイミングで規定通りの効果が出ると思って下さい。

 裏を返せば、剣を振るいながら、普通の魔法も発動可能です。魔法騎士は、武具や防具にいくつか付与魔法を仕込んでおいて、剣で戦うことも出来ますね。剣に魔法付与がしてあっても、魔力を流さなければ普通の剣です」


 じっと聞いていたアルディオが、確認するように私を見た。


「上手く使えば、同時に二重で魔法が使えるのか?」


「ええ、貴方位魔力があれば、可能だと思います。それと魔法発動までの速さも大事ですね。ちなみに魔法師は、付与魔法を使わず同時に二重、稀に三重発動も可能ですよ?」


「え?」


 同時の二重発動のイメージがわかなかったのか、アルディオが首を傾げた。


「例えば、こんな感じです」


 私は、水魔法と風魔法をアレンジして、細かい水粒子でウォータースクリーンを作り、光魔法で星空を映し出してみた。

 前世の経験と知識があるからこその、三重発動だ。


「!?一体どうやって?」「すごい!」


 アルディオを始め、近衛騎士たちも声を上げる。ふふっ、これは私の自慢の魔法です。一通り見せて、スクリーンごと消し去り、続けた。


「適性と訓練ですかね? 向き不向きがありますよ。私運動は、ダンス以外壊滅的なので、騎士向きではありません。アルディオは、剣術と付与魔法と通常の魔法が出来れば、騎士も目指せそうですね」


「ふうん……で、どうやるんだ?」


 私はアルディオに持っていた小剣を渡してやる。

 魔法式を刻んだ面の裏側を上にして、彼に持たせた。


「利き手の指先に魔力を纏わせて、対象に付与の魔法式を刻むんですよ。魔法式の法則については勉強しましたよね?発動した際の効果と必要魔力量を計算して下さい」


 アルディオは何やら集中して、魔法式を描きながら刻んでいく。


「……こんな感じか?」


 小剣を握ったまま魔力を流すと、剣の先が赤くなりぼんやりと熱を発しているようだ。


「ああ、まあ、最初はこんなものかしら?」


 発動条件を握って魔力を流す、にしたらしい。魔力消費の割に効果が今一つのようだが、でもまあ、一応出来ている。


「うん。ちょっと勉強してからにするわ」


 アルディオはあっさりそう言うと、小剣を返してきた。


「そうですね。ちなみに付与解除は、このようにして打ち消します」


 私は、小剣に刻まれた二つの魔法式を、刻んだときよりも多目の魔力を流し、指でなぞって消していく。慣れれば手を翳すだけで、出来るようになるだろう。

 小剣は、近衛騎士にお返しした。


「これも、試行錯誤して、いろいろと試してみるといいですよ? 板でも石でも何でも付与出来ますから。」


「うん。楽しそうだな」


 どことなくワクワクした様子で部屋に戻ったアルディオは、早速本を片手に付与する魔法式を検討しはじめる。


 この分だと、予定より早目に私の授業は終わることが出来そうだ、とアルディオの成長に安心した。


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