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大好きな幼馴染兄妹は今日も麗しい

「ヴィア!」


 視界に飛び込んで来たのは、栗色の髪の少女。ヘーゼルの瞳が嬉しそうに笑みの形になる。


「久しぶり!キャシー。会いたかった!」


 私は、ギュッと彼女を抱きしめる。初めて出会ってから6年半。あれから毎年、夏の休暇は共に過ごしていたけど、こうして冬の季節に会うのは初めてだ。

 私と誕生日の近いキャシーは、年末に12歳になったところ。私と10日ほどしか違わない。エディ様とルイス兄様も2ヶ月程しか誕生日が変わらないから、すごい偶然!


 キャシーの栗色の髪には、私とおそろいの意匠で、色違いの石がついている髪飾りが挿されている。

 エディ様が贈ってくれた誕生日の贈り物で、今日は二人共その髪飾りを着けていたのだ。

 銀色の細工にキャシーのものは蒼い石で、私のは、翠の石。簪のような造りになっていて、少し大きめの丸い石がついた留具から、キラキラと雪の結晶を模した繊細な造りの飾りが幾筋か揺れている。


 キャシーはすっかり丈夫になって、新学期が来週に迫った王立学園の中等科4年生に編入予定だ。

 今日はノルディック辺境伯領から王都にやってきたところで、入寮する前にエディ様と一緒にうちに遊びに来てくれた。今日はうちで一泊して、明日ルイス兄様も一緒に王立学園へと向かう予定。


 王立学園は9年制の、貴族を中心とした裕福な家庭の為の教育機関で、10歳になる年齢で1年生初等科に入学する。1年生から3年生までが初等科。4年生から7年生までが中等科、8年生と9年生が高等科で、高度な教育を行っている国の最高学府だ。

 貴族といえど入学の為には難しい試験があり、それは学年が上がる毎に更に厳しくなる。入学後も年度末には進級試験が課せられているので、高等科まで進級するのは入学時の4割弱になると言われていた。また、数は非常に少ないが、飛び級も認められている。


 キャシーは幼い頃は病弱だったけど、健康を取り戻してからはすごく頑張って、中等科への編入を勝ち取った努力家だ。エディ様や私達と学園に通いたかったらしい。


「相変わらずの美少女っぷりだわ、キャシー。それに、うん、抱き心地も最高」


 キャシーはまだ12歳だというのに、すでにお胸も結構育っていて、ギュッとくっつくと柔らかくてほっとする感じ。でもウエストは細くて、女子にも男子にも憧れのプロポーションなのだ。


「何言ってるの、ヴィアったら。貴女のほうがずっと綺麗じゃない。それにその華奢な感じが妖精みたいで、素敵だわ」


 ありがとう、キャシー。彼女はいつもそうやって私を慰めてくれる。

 私達は、顔を見合わせてクスクスと笑う。きっとお互い無いものねだりなのね。


「ヴィア、先月ぶりだけど、会いたかったよ。髪飾り、着けてくれたんだね。かわいい、よく似合ってる」


 兄様達との挨拶が終わったエディ様が、私達の方へとやってくる。今年17歳を迎えるエディ様は、背も高くてとっても素敵な貴公子になっていた。短く切り揃えた艷やかな栗色の髪は、キャシーと一緒の色。柔らかく微笑む瞳は、いただいた髪飾りと同じ翠でまるでエメラルドのようだ。

 昔から美少年だったけど、すっかりイケメンになっちゃって、と若干おばちゃん思考で見守ってしまう。

 でないと、兄様達同様に甘い言葉を垂れ流すエディ様に、何かが削られていきそうな気がする。きっと学園では、ご令嬢方からすっごい人気なんだろうな……

 そんなことを考えながら、軽くハグを交わした。


「エディ様、ありがとうございました。キャシーと石違いのお揃いで、嬉しいです」


 今日はちょっと複雑なハーフアップにして、この髪飾りを挿しているけど、年齢が上がれば髪を結い上げることも多くなるから、大切に使おうと思う。

 軽く髪飾りに触れてそうお礼を言うと、エディ様は、私の下ろした部分の髪を一筋掬い取り、軽く唇を落とした。

 近い距離で、エディ様が流した視線とバッチリ目があってしまった私の心臓が、思わずドキリと跳ね上がる。すっごい色気。恐るべし貴族男子。


「エディ様!? あの……」


 多分真っ赤になってアタフタしている私に、エディ様はクスリと笑う。


「ごめん。あんまりかわいいから、つい」


 と、スッと離れていった。

 はあ、本当に、心臓に悪い。私が見た目通り本当の12歳だったら、気絶していたかも。


「ヴィア、大丈夫?」


 何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせた私は、キャシーから覗き込まれて、大丈夫と頷いた。

 そして兄妹を応接室へと案内したのだった。




 応接室には、ロッドフィールド家とノルディック家の子供達が、全員揃って腰掛けていた。お茶とお菓子をいただきながら、ここだけの話で、と断った上で、アルディオ殿下のことと私が学園に通えなくなった事情を話していく。


「じゃあ、その王子様に魔法を教えることになったから、ヴィアは学園に行けなくなったの?」


 キャシーが軽く首を傾けて、私を見た。


「後期からにしたの。魔法を教えるのは、私じゃなくてもいいんでしょうけど、アルディオ様のこと放っておけなくて」


 頷いて答えた私に、クロード兄様が舌打ちを打ちそうな感じで続けた。


「シルヴィーが前世持ちだからと、王家も良いように使ってくれる」


「クロード兄様、アルディオ様が落ち着くまで側にいることを決めたのは、私です。それに、彼だって王家の一員。健やかに育てば国の力になりますわ。来年度には、学園に編入出来るくらいまで、力をつけられれば、と思っています」


 王家は親戚ですからね? いいように使われているなんて、人聞きが悪いですよ、お兄様。それに、アルディオにも立派に育ってもらわなくては!


「でも、残念。シルヴィーと一緒に、来週から学園に行けるの楽しみにしてたのに。せっかく同じ高等科に飛び級編入出来たのにさ。秋までお預けかあ……」


 うん、ルイス兄様。それは私も残念だけど。


「ルイス兄様とは専攻が違いますよ? エディ様と兄様は、魔法騎士科の士官コースでしょう?」


 そもそも高等科は、将来の進路に向けての専門科目の履修になるから、私とは専攻が違うのだ。ちなみに私は、魔法研究科の医療コースである。これ、前世と一緒だけど、やっぱり好きなのよね。でも今回はバリバリの理系でなく、これまで充分リベラルアーツ的な学びをやった結果、選んだ進路だ。

 すると今度はエディ様が、仕方なさそうに笑って、


「それでも、同じ校舎だし、いくつかは授業も重なるから、俺は楽しみにしているよ?  ……ところでヴィア、アルディオ殿下は君を傷つけたりはしない?」


 後半は、かなり心配そうに聞かれた。


「心配ありませんよ? お母様を亡くされたばかりで、一人で生活にも困っているところを暴動に巻き込まれて、王宮に連れてこられたんです。今、少し落ち着いて、前向きになったところです。賢くて優しい子なので、きっとこれから見違えると思いますよ」


 意外な心配をされたけど、ああ、確かに最初は暴言吐かれたっけ? かわいいものだったけど。でも、根は優しくて、いい子だと思う。だから、大丈夫ですよという気持ちも視線に込めて、エディ様に答えた。


「そう……あ、そうだヴィア。高等科になったら、外出が比較的自由になるんだ。中等科も親族が付き添いの外出は許可が出るから、時々はこちらにキャサリンを連れて遊びに来られると思うよ?」


 あからさまな話題転換をちょっと不思議に思いながらも、私は思い出す。

 そういえば、クロード兄様が高等科に進級してから、ルイス兄様と一緒に時々週末に帰って来くるようになったんだった。エディ様も高等科になるから、キャシーと外出が出来るようになるのね?

 それは嬉しい!

 でも、あれ? 秋から私も高等科ってことは、一人で外出出来るのかな?


「シルヴィー、一人での外出が許可されるのは、高等科で16歳以上って条件だから」


 私の考えを読んだように、クロード兄様が呆れたような声で言った。


「う〜厳しい」


 頭を垂れた私に、キャシーも追い打ちをかける。


「そもそも高位の貴族令嬢は、一人で外出なんてしないわよ?」


 そうでした。めちゃくちゃ高位の貴族令嬢でした、私。


「ねえねえ、私、ヴィアのお部屋に行ってみたいな!いい?」


 突然、キャシーが私の手を取って立ち上がる。期待の籠もった視線に、私は、もちろんと頷いて、席を立った。


「女の子同士ゆっくりしておいで。僕たちも、久しぶりに三人でゆっくり過ごすから。夕食の時にでもまた会おう。キャシーも楽しんでくれ」


 クロード兄様が穏やかに笑って、退室を許してくれる。


「はい。そうします。ではエディ様、また」


 私は、エディ様に目礼すると、キャシーと一緒に自室へと向かった。





「わあ!素敵ね、ヴィアのお部屋!」


 2階にある私の部屋は、ここで勉強することも多いため、実は兄様達の部屋よりも広めだ。

 二間続きになっていて、廊下からの扉を開けてすぐには、二人用の可愛らしい応接セットがあって、その奥には壁にそってキャビネットが置かれている。キャビネットの向こうは大きな窓で、整えられた庭が見渡せる。キャビネットの向かい左側の窓の側には大きなベッド。ベッドの横は充分なスペースを空けてドレッサーがあるのだけれど、その奥はカーテンで仕切られた衣装部屋があり、更に奥はバスルームだ。

 一方、ソファセットの右側の壁には中扉があって、扉を開けると文机と椅子と本棚が置かれたいわゆる勉強部屋。

 兄達は図書室で勉強することが多かったけれど、私はこの部屋で家庭教師の先生から学んでいたので、かなりの文献も揃えてもらっていた。


 キャシーは、私と一緒にはしゃぎながら、衣装部屋やドレッサー、キャビネットを見て回り、最後に勉強部屋に来ると、並べられた本を見ながら、感嘆のため息をついた。

 医療関連の本棚の前に来ると、その背表紙の文字を指でそっと撫でている。


「ヴィアが前世持ちで、とても優秀だって知ってはいたけど、本当にすごい!

 まだ小さかった頃、私の病気を治してくれたことを2年前に初めて両親に明かされたとき、私やっぱり!って思ったの。

 ヴィア、改めて本当にありがとう。私が今こうしていられるのはヴィアのおかげ。私初めてヴィアに会ったときから、ずっとヴィアのこと大好きよ? だから、いつだってどんなときだって、私はヴィアの一番の味方だからね!」


 キャシーにギュッと抱き締められる。

 本当に柔らかくて優しくて、頑張り屋さんで、ステキな女の子だ。私もそんな彼女が大好きで、元気でいてくれて嬉しい。


「私も、キャシーが大好き。元気になってくれて、本当によかった!ずっと一番のお友達でいてくれると嬉しい」


 言葉を惜しまず好意を伝え合う。そして、私も抱き締める。

 前世での最後のように、後悔しないように。

 大切な人にはちゃんと思いを伝えて生きていこうと思う。12歳の大親友にそれを教えてもらいながら、私の前世の心残りが一つ昇華した気がした。




「……で、アルディオ殿下って、どんな方?」


 一通り部屋を探検して、今キャシーと私は、応接セットで向き合っている。

 お茶を飲みながら、どういう訳かアルディオについて、聞かれているところだ。私達の2歳下にあたるアルディオは、第三王子でもあるし、高位貴族令嬢からすれば魅力的な結婚相手の候補ではあるけれど、キャシーが彼を知りたい目的は、なんだかちょっと違う感じだ。


「どうしたの? キャシーが男の子に興味を示すなんて珍しいわね?」


 私は素直に尋ねてみる。するとキャシーは、驚いたように私を見ると、次の瞬間笑い出した。


「やだ、ヴィア!男の子だから興味があるんじゃないわよ? ライバルにならないかの事前調査よ!」


「ライバル?」


 首を傾げた私に、キャシーは続けた。


「だって、アルディオ殿下は、半年間もヴィアを独り占めするんでしょ? ヴィアは編入を遅らせてまで、殿下の側にいるって言うし……心配になっちゃったの」


「キャシー!かわいい!」


 キャシーの台詞に思わず声を上げる。隣にいたら、絶対抱きついていた。


「もう!それで、どうなの?」


 顔を赤くしたキャシーが、早く話せと急かす。

 私は、アルディオを思い出しながら、ゆっくりと自分の気持ちを言葉にする。


「賢い方よ。だから、多分この短い間にいろいろ有り過ぎて、考え過ぎてしまって、足が竦んでいたのだと思う。言葉とか態度とか、ちょっと乱暴なところもあるんだけど、基本的には優しくて素直な方だから、心を許して信用した人のことは、とても大切にされると思う。

 艶のある黒髪でね、瞳は紅玉なの。顔立ちは陛下に似ていて、きっと将来とんでもなく素敵な紳士になると思うわよ?

 私に出来ることは、少しだけ彼の背中を押してあげることなの。彼がちゃんと前を向いて、自分で進んで行けるように。半年間だけ、見守ろうと思って……」


「本当に、半年だけ?」


 真剣な表情で、不安そうにキャシーが問う。


「もちろん!私も自分のやりたいことがあるから、後期こそちゃんと学園に行くわよ。だから、キャシー、待ってて?」


「うん。ヴィア、約束ね? あと今晩は一緒に寝ましょう?」


 私は笑顔で頷いて、そうして、互いの右手の小指を絡めあった。


 夕食の前にそれぞれ入浴を済ませ、晩餐の支度をするために、一度キャシーとは別れる。

 今晩はうちの両親も揃って、皆で夕食を取ることになっていた。

 明日にはルイス兄様も家を出て、明後日からは新学期も始まる。クロード兄様も魔法師団に入団し、王太子殿下の側近としてのお役目も始まることになっていた。


 ノルディック辺境伯家の兄妹も、お客様とはいえ、すっかり家族のようだ。皆がいつもより少しだけ着飾って、新年度を祝い、和やかな食事会となった。

 そうやって、家族揃っての週末が過ぎていく。


 夜キャシーが寝入った後、そういえば、アルディオの家族とのお茶会は上手く行ったかな?と気にはなったけど、陛下とセドリック殿下にあれだけ言ったのだから、大丈夫か……と、キャシーの温かさに誘われて、そのまま眠りについたのだった。


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