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戻ってきたノルディック夫妻の日常 シルヴィア

後日譚最終話です。

ここで、完結表示します。たくさんの方に読んでいただけて、嬉しかったです。

ありがとうございました。


「帰ってきましたね」


「ああ」


 眼下に広がる風景は、暖かな日差しの下、春風が穏やかに吹くノルディック領。私達は、約半年ぶりにここに戻ってきた。


「自然豊かな良いところだな。なんとなくスイスのレマン湖を思い出すよ」


 蓮くんも窓から景色を見下ろして、どこか懐かしげに言った。昔、学会でジュネーブに発表に行って、彼と偶然に会ったことを思い出す。

 ああ、でもあれは偶然じゃなかったのかな? 確かに、言われてみれば、海岸線から領都、そして険しい山々が、なんとなくレマン湖を臨むジュネーブに似ているかも、と今更ながらに思う。


 蓮くんは王都で別れてから陸路でロッドフィールド領に入り、そこで合流して、一緒に飛行船に乗ってノルディックにやってきた。

 乗り込んだ時は興味津々で、いろいろ質問攻めにされたけど、やっと落ち着いて景色を見られるようになったらしい。もう到着するけどね。

 やがて飛行船は高度を下げて、ノルディック邸のドッグに到着する。

 そこには、ノルディックのご両親や、使用人、そして研究棟の職員が、総出で出迎えてくれていた。


「エディウス、シルヴィア、よく戻った。大変だったね。大丈夫だったかい?」


 お義父様が、軽い抱擁で私達を労ってくれる。お義母様は、私をしばらく離してくれず、


「どこも何ともないの?大変な怪我をしたと聞いたわ」


 と、何度も確認され、


「父上、母上、ヴィアは大丈夫ですよ。心配かけて申し訳ありませんでした」


 エディに言われて、やっと解放してくれた。



「よお!無事のお帰り、待ってたぜ!」


 アーベルがエディの背を叩きながら、声をかけている。ジルベスターもやってきて、


「お帰りをお待ちしていましたよ。シルヴィア姫が無事で良かった。貴女に万一のことが有れば、冗談ではなく戦争になりますからね」


 と洒落にならないことを言う。


「そうそう。エディウス様はもちろん、君のご家族や王家の皆さんも、君を溺愛してるから、国や民を守りたいなら、御身大事にするんだよ?」


 グレッグにも釘を刺されてしまった。


「ご心配おかけしてすみませんでした。でも、皆さんには一体どんな風に伝わっていたんですか?」


 なんだか、皆の様子にどれだけ大事になっていたんだろうかと、少々不安になる。戦争だなんて、いくらなんでも大袈裟だ。


「飛行船が敵に攻撃されて破損して、不時着。シルヴィアが攫われて行方不明。で、国境封鎖して、大捜索の上、発見されたシルヴィアが瀕死の重傷を負ったけど、奇跡的に治癒魔法で無事だったってとこかな?」


 アーベルの解説は、間違ってない。ほぼ正確だ。それで、戦争???どうしてそうなった。


「シルヴィア、君は自分がこの国や皆にとってどれだけ大事な人物なのか、自覚が足りないようだ。戦争は、冗談でもなんでもないよ。君が他国に害され、攫われたりしたら、我がルーベンス王国は戦争を起こしてでも、君を取り戻す。そのことをちゃんと自覚しておきなさい」


 ニールセン先生に諭されて、その重さに血の気が引く。


「大丈夫だよ、ヴィア。そんなことにならないよう、俺が君を守るから」


 エディが私を支えてくれて、そう言ってくれたけど、


「エディウスがそうやって甘やかすから、シルヴィアの自覚が足りないんだろ?」


 と、アーベルにもダメ出しされて、私は申し訳なくなって、改めて皆に頭を下げた。


「本当に皆様にはご心配をおかけしました。これからは自分の行動には、もっと、気をつけます」


 私の安全が皆の平和に繋がるのなら、あんなふうに攻撃魔法の前に飛び出すなんてこと、二度としないようにしないと。エディのことも、もう悲しませたくない。


「ヴィア、もういいよ。大丈夫だから、頭を上げて。トードーを紹介するんだろ?」


 エディの優しい声と背に添えられた手が、私を許してくれる。

 頭を上げた私は、蓮くんを振り返った。


「蓮くん」


「ああ」


 頷いて隣に並んだ蓮くんを、皆に紹介する。


「今度うちの研究棟に来てくれることになった、藤堂蓮太郎さんです。彼は、私の前世の同郷の人。いろんな偶然と、ガンクルドの法皇の魔法に巻き込まれて、この世界にやってきました。医療の知識や科学技術に関する知識は、私と同等です。きっと皆さんの好奇心を刺激して、この世界の為に、素晴しい研究成果を出してくれると期待しています」


 蓮くんとは、素性を隠さずに皆に伝えて、研究内容は平和的な技術開発に特化することを決めてあった。蓮くんの人となりも充分知っている。彼の知識や技術やその可能性も、信じてる。


「藤堂だ。名が蓮太郎。訳ありだが、シルヴィアの前世からの知り合いだ。専門は医療職だが、まあ、飛行船のことや、液化ヘリウムの生成程度なら行ける。よろしく頼む」


 彼がこの地で、新たにやりがいや生き甲斐を見つけて、幸せに生きてくれればいいと思う。その為に出来るだけのことをしたい。それが、少なからずこの世界へと巻き込んでしまった私の、彼への償いだと思うから。


「マジか! 液化ヘリウムの生成は助かるぜ! 俺は、アーベル。よろしくな」


「異世界の医療知識には、興味がつきませんよ。ニールセンです。よろしく」


「科学技術と魔法技術を併せて、これからも面白いものが出来そうだな。私は魔法技術者のジルベスターです」


「グレッグだよ。もと王宮魔法師で魔法研究をやっていた。君とチームを組めるのが楽しみだ。早速、住まいと研究棟を案内しよう」


 そう言って、研究棟の面々が、賑やかに蓮くんを囲んで、研究棟へと連れて行く。


「トードーが上手くやっていけそうで、良かったな」


 エディが彼らの後ろ姿を見送って、私の頭を軽く撫でながら言った。


「そうですね。研究を彼に引き継いで、私はエディの奥様業に専念できそうですよ?」


 私は彼のエメラルドの瞳を見上げて答える。エディのブルーダイヤにも、また魔法を付与しないといけないし、領地の視察や慰問、社交もして、研究成果や我が領の特産物の売り込みもしないと……やることはたくさんだ。


 私を見る優しく穏やかに緩んだ彼の瞳が、嬉しそうに笑う。そして、私の耳元に唇を寄せて、囁いた。


「では心置きなく、子作りも出来るね?」


 昼間から、なんてことを言うのだろう、この人は! 思わず顔に血が昇り、頰が火照る。


「え? あの、それは、程々で、お願いします」


 たどたどしく言い返した私に、エディは今度は声を上げて笑った。


「ありがとう、ヴィア。俺は君と結婚出来て、本当に幸せだよ」


 心から幸せそうにそう言ったエディに、私もつられて笑う。


「私もですよ。エディ、私もとっても幸せです」




なんとか完結まで漕ぎ着けました。

私なりに皆を幸せに出来たかな?と思っていますが、読んでいただいた方に楽しい時間となったなら、嬉しく思います。

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