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幼馴染が出来ました

 ルイ兄様が学園に入学したその夏、我が家にお客様が滞在することになった。


 うちの侯爵家の領地、ロッドフィールド領はルーベンス王国の北部に位置しているのだけど、お隣にはザルディア王国と国境を接するノルディック辺境伯領があり、そこの長男であるエディウス様とルイ兄様がとっても仲良くなったので、夏の休暇をうちの領地で過ごすことを提案したのだ。

 クロ兄様も、ルイ兄様といつも一緒にいるエディウス様のことをよく知っていて、ぜひにとお誘いしたらしい。

 折しも、エディウス様の妹さんが体調を崩して療養するとのことで、エディウス様は夏の休暇の前半をうちの領地で過ごして、休暇の終わりにエディウス様を領地にお送りするついでに家族でお見舞いに伺うことにしたのだ。

 辺境伯様は、国境警備の都合上なかなか王都にいらっしゃることはないけれど、うちは父様の仕事の関係で、夏の休暇2ヶ月程しかロッドフィールド領に滞在しない。しかも父様は、領地の経営状況を確認すると1ヶ月程で先に王都に戻ってしまうので、今年は、エディウス様の領地にお邪魔した後、残った家族と一緒に皆で王都に戻る予定だった。

 王立学園は、王都にある全寮制の学園なので、エディウス様も兄様達も休暇が終わればまた学園の寮に戻ることになる。



「はじめまして。エディウス・ノルディックと申します。この度はお招きありがとうございます。お世話になります。よろしくお願いします」


 お客様のエディウス様は、ルイ兄様と同じ年の10歳の少年だというのに、ずいぶんとしっかりした男の子だった。栗色の艷やかな髪にエメラルド色の綺麗な翠色の瞳をした、兄様達に負けず劣らずの美少年だ。

 私の周りにいる男の子達、皆目の保養になるくらい美少年ばっかりである。

 従兄弟である王家の三人の王子様達や、うちの兄様達、そしてエディウス様。うん。高位貴族の血って凄い!

 あ、王家はうちとすごく血縁関係が近いので、容姿が父様と母様系列なのだ。母様は、現国王の妹姫だったし、その国王の今は亡き王妃様は、父様の従姉妹にあたる元公爵令嬢だ。

 だから、エディウス様は、兄様達や王子様達とはまた違った系統の美形なのだけど、眼福だわ〜と、ちょっとおばちゃん思考になってしまった。

 でも今、私は5歳児だからね。父様と母様のご挨拶の後、私の番になりましたが、母様の教育の成果を裏切らない程度に子供らしくご挨拶しますよ?


「はじめまして、エディウス様。シルヴィアです。夏休み中兄様達とゆっくりお過ごし下さい」


 母様直伝のカーテシーと笑顔もバッチリ決めてみた!

 すると、いきなりクロ兄様に抱き上げられた。


「シルヴィー、少し背も伸びてますます可愛らしくなったね!挨拶もとても上手に出来るようになった!」


 うん、相変わらず妹バカ過ぎますクロ兄様。お客様の前でそれはちょっと……とエディウス様を見れば、驚いたように固まっていた。


 そうだよね、兄様のこの様子にはびっくりするよね。でも、すみません、うちに滞在するなら慣れて下さい。


「兄様もおかえりなさい!会いたかった!」


 とお客様に遠慮せず、ギュッとしがみつく。うん、大好き!

 と、今度はルイ兄様が手を伸ばした。


「シルヴィー、俺も!……あ、重くなった?」


 ルイ兄様にヒョイと渡されて、しっかり抱きとめてもらったけど、この一言はいただけない。


「ルイ兄様、それ禁句です!」


 思わずルイ兄様のほっぺたを引っ張った私に、


「ごめんって。すっかりレディだな? 機嫌なおせよ?」


 と謝ってくれたので、ルイ兄様にもギュッとしてあげた。

 やっと下ろしてもらった私に、エディウス様が腰を落として視線を合わせてくれる。


「クロード先輩やルイスから話は聞いていたけど、驚いた。可愛らしくてしっかりしたレディだね。俺にも君と同じ位の妹がいるけど、体が弱いせいかもっと幼い感じだよ。

 よろしくね? シルヴィア。俺のことは、エディと呼んで?」


「はい、エディ様。」


 エディ様は、早々に妹バカな兄様達を受け入れたらしい。それにしても、妹さんは私と同年代か……まあ、でも成長には個人差あるし、病気がちな妹さんなら幼いってこともあるよね? 

 そんな風に考えていた私の頭に手を置きながら、父様が言った。


「うちは賑やかだからね、エディウス君。シルヴィーもちょっと変わっているところもあるが、仲良くしてくれると嬉しいよ。ゆっくり滞在していってくれたまえ」


 あ、変わっていることにされた。でも、しばらく一緒に過ごすなら、そういうことにしてもらった方がいい。


「そうよ、エディウス君。ご自宅だと思って、くつろいでね」


 母様もにこやかにそう言って、早速彼を部屋に案内したのだった。




 夏の休暇は遊びばかりではない。

 午前中、私は王都の家庭教師に出された課題を片付け、兄様達もそれぞれ学校の課題をこなしている。兄様達は皆で図書室でお勉強だが、学習内容を知られるわけにはいかない私は自室で黙々と取り組んでいる。

 昼食には私も合流し一緒に食べた後は、外遊びに連れ出される。

 男の子達の遊びに、お子様女子が混じるのは邪魔だろうと遠慮したのだけど、兄様達もエディ様も休暇中しか一緒に過ごせないからと、快く誘ってくれた。

 時々は、兄様達の剣術の稽古を見学したり、乗馬の練習にもご一緒したけど、私は残念なことに、かなりの運動音痴だった。

 だって、前世は研究者で運動とは無縁だったし、今だって深窓の令嬢だから、柔軟やダンスやマナーのレッスンで体幹は鍛えられるけど、剣術とか乗馬とかは無理!

 ま、見学も楽しいし、乗馬は護衛の騎士に一緒に乗せてもらえるし、鬼ごっこや魚釣りや虫取りには付き合える。虫、怖くないしね。ヘビとかカエルも問題なし。エディ様にはすごく驚かれたけど、前世で解剖だってしたことあるし。

 家に帰ってきたら、入浴して夕食。

 その後は、ボードゲームやカードゲームをして、私は早目の就寝。

 すっごく健康的!

 ちなみにボードゲームはクロ兄様直伝なので、ルイ兄様やエディ様のお相手だってちゃんと出来る。


 そんな感じで夏の休暇は過ぎていく。

 TVやスマフォのない子供たちの時間は、なんだかすごく健やかで、付き合いが濃厚な気がする。学園生活もさぞかし濃密な付き合いを通して、人間関係の構築をしていくのだろう。

 私も兄様達と同じ歳には無理かもしれないけど、いつか体験してみたい。




 夏の休暇も残すところ2週間ほどになり、ノルディック辺境伯のエディ様の妹さんも病状が落ち着いたと連絡を受けたので、私達は揃って辺境伯領に向かっていた。

 魔法で重さを軽くして速度を上げられる魔法導力馬車で、馬を替えて丸1日かかる距離だ。


「ロッドフィールドと王都以外に行くのは、初めてです。楽しみ!」


 ロッドフィールド領を出ると所々、少々荒れた道を通る為、速度を上げている馬車は結構揺れる。座席のクッションは良いので、お尻が痛くないのは救いだ。ただ、体重のない私が揺さぶられて酔わないように、過保護な兄様達が順番に私を膝に乗せてくれるのだけど、何故かエディ様もそのローテーションに入っていて、今私は彼の膝の上だ。


「俺達は学園の演習旅行で、地方に行くこともあるからな。旅も悪路も慣れているが、シルヴィアにはキツイよな」


 エディ様がすまなそうにそう言うけれど、悪路なのはエディ様のせいじゃないし、むしろ私の方が世話を掛けてすみません、という感じ。


「エディ様や兄様達がこうやって膝に乗せてくれるので楽ですよ?ありがとうございます」


「本当に、エディウス君には、娘もとってもお世話になって。うちの息子達がシルヴィーに過保護だから、すっかり巻き込まれちゃったわね」


 母様も、兄様同様に過保護になってしまったエディ様に申し訳なさそうに言った。


「そんな!あの、シルヴィアと一緒に過ごせて楽しかったです。だから、もうすぐ新学期が始まるのも名残惜しくて。クロード先輩とルイスが自慢するのがよくわかりました」


 エディ様がそんな風に母様に言うから、私も嬉しくなる。エディ様の妹さんとも仲良くなって、家族ぐるみでこれからも付き合っていけるといいな!

 エディ様は、友達の妹の私にもいつも優しくて、ルイ兄様と違って5歳の私をちゃんとレディ扱いしてくれるし、本当に素敵な小さな紳士だ。だから、私もエディ様の妹さんに優しくしたい。




「お兄ちゃん!たくさんお友達連れてきてくれて、ありがとう!」


 笑顔で私達を迎えてくれた、エディ様の妹さんのキャサリンは、病弱で家に籠りがちで痩せ気味だったけれど、綺麗な栗色の髪にヘーゼルの瞳をした、薄幸の美少女風だった。

 あくまでも風ね。美少女だけど、病弱で少々顔色が悪いのだ。

 今年5歳になるというのに、なかなか外遊びにも行けないらしい。

 これにはうちの兄様達もさすがに同情して、いろいろと気を遣っていた。

 そして私は、辺境伯家に滞在中、キャサリンの部屋に入り浸りだった。

 だって、すっごくかわいい。同年代女子のお友達なんて、新鮮!病弱なため読書をすることが多い彼女は、幼いけれど、騎士とお姫様や英雄の物語が大好きな夢見る女の子だ。

 でも、目的は他にあって、キャサリンの健康を阻害している原因が小児喘息だと気づいた私は、アレルゲンの特定と治療について考えていたからだ。

 幸いにして、私には前世からの知識と光属性の魔法がある。

 父様から、魔法は具体的なイメージを魔力に乗せることで発動し、光属性は治癒とか治療、回復系に効果が高いのだということを教えてもらっていた。魔法に関する文献も結構読んでいる。

 数日滞在するうちに、これはなんとかなりそうだと確信した私は、母様にお願いして、辺境伯様に治療の許可を願い出た。

 この世界では確立していなかった小児喘息の治療。アレルギー疾患が非常に少ないこの世界では、無理もない。

 前世持ちの私の事情を話した上で、辺境伯夫妻にはそのことを口外しないよう誓約魔法を受け入れてもらった上で、辺境伯領を出発する前日に、私はキャサリンを治療することにした。


 アレルゲンに反応して気道の炎症が起こらないようにキャサリンに魔法をかけ、ご両親には部屋の換気をこまめにして、ホコリやダニを除去するような浄化魔法を指導し、少しずつ身体を鍛えて体力をつけること、部屋を冷やしすぎないようにし充分な加湿をすること、風邪を引かせないように注意することを伝えた。

 ご両親もそれなりに魔法が使えるので問題ないだろう。これでキャサリンも発作を起こさず、回復に向かえばいいと思う。


 そうして、1週間の辺境伯家での滞在を経て、私達は王都に戻ることになった。


「ヴィア、いっぱいありがとう!お手紙書くね!」


「うん。私もお手紙書くね。キャシーも仲良くしてくれてありがとう!来年の夏は、遊びに来てね!」


 私とキャサリンは互いを愛称で呼び合う、仲良し友達となって、涙ながらに別れを惜しんだのだった。


 王都まで4日程かけて戻った私に、今度は兄様達との別れが待っていた。


「また冬に帰るから、次に会えるのを楽しみにしているよ。元気でね、僕のお姫様」


「じゃあまたな。手紙書けよ?あと、いろいろあんまり頑張り過ぎなくていいからな?」


 と、クロ兄様とルイ兄様とハグして、今回はエディ様も別れを惜しんでくれた。


「シルヴィア、キャサリンのように俺もヴィアと呼んでもいいかな? 俺も手紙を書くから、返事をくれたら嬉しい」


 もちろんと頷いて、エディ様とは握手をして、お別れした。


 そうして、夏の休暇が終わり、一気に文通相手が2倍になった私は、急に寂しくなった夜の時間を、せっせと手紙を書くことで紛らわせたのだった。




 その翌年以降も夏の休暇は、キャシーも揃って辺境伯家を行き来して子供達は共に過ごすことになり、冬の休暇には、辺境伯家に帰省する前にエディ様がうちに寄って、私に早目の誕生日プレゼントを贈ってくれた。


 私は10歳を迎える年齢になっても学園には進学せず、自宅で勉強を続けていた。

 満足のいくまでいろいろな学問を修め、父様からも魔法を充分使えるとお墨付きを貰い、いくつか魔法研究の成果も論文にして、母様からも貴族社会で生き抜く淑女教育が修了したと認められたのは、私が12歳の誕生日を迎えた頃。


 屋敷からあまり出ること無く、家族や親戚(王家)、そして辺境伯家位しか交流を持たなかった私は、せめて近い世代の他人との交流を持ちたいと願い、友人を作るべく、学園に行きたいと父様に願った。


 ちょうどその頃、私の論文「親子や血縁関係を鑑定する魔法について」を読んでくれた学園の教授からの誘いが、父様の方に来ていたこともあり、私は翌月の2月の新年度から、ルイ兄様と同じ学年の高等科8年生に飛び級での編入が決まった矢先、例の騒動が起こったのである。



 私が王家に新しくやってきた王子様の遊び相手兼教育係を打診されたとき、父様は渋々この話を受けて来たのがよくわかったし、母様はしょうがないわね、と諦めの表情だったけど、クロード兄様は大変お怒りで、どういうわけか?「毎日王宮に行くなら変装しなさい」といろいろ用意してきたのだ。


「いいかい、シルヴィー。君は最近とっても綺麗になったからね。無防備に王宮に通うのはとても心配だよ。目立ってトラブルに巻き込まれないように、僕のためを思って、少しだけ美しさを控え目にするように変装しておくれ」


 と頼まれたので、過保護で過度に妹を美化し過ぎな兄の願いを叶えてみたけど、朝の支度が時短になって割と気に入っている。侍女には嘆かれたけど。


 私が前世持ちということは、家族内と王家には2年ほど前に父様からカミングアウトされていたので(兄様達にはかなり驚かれたけど、すんなり受け入れてもらえて変わらず妹バカだった)、年齢にそぐわない私の能力については隠す必要はないのだけれど、近衛とか王宮の侍女や従僕などの目もある為、身元がある程度ごまかせるのはありがたい。私は12歳にしては、痩せ気味だけど背が高いし、体の線がはっきりしないドレスを着ると、たしかに野暮ったい。

 でも、まあ、幼い王子様の遊び相手なら、汚れてもいい服のほうが気を遣わなくていいと思う。


 学園への編入が後期へと遅れたことには、キャシーとエディ様とルイス兄様に悲しまれた。

 キャシーも同時期に4年生の中等科に編入が決まっていて、学園内で会えると喜んでいたし、ルイス兄様やエディ様には、飛び級をとても驚かれたけど、同じ学年で過ごせることを楽しみにしてもらえていたからだ。


 私は、彼らと夏の再会と秋からの編入を約束して、アルディオ様に向き合うことにしたのである。


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