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救出 エディウス

 ヴィアが拐われてから、王国軍やノルディック領軍や魔法師団、王家の暗部まで動員して、国境封鎖の上、徹底的に彼女の捜索を行っていた。

 ガンクルドの聖騎士や聖魔導師達は、目眩ましのためか纏まっては行動しておらず、だが、集まってくる情報を分析すれば、王都の南部アーダインとの国境近くサザランド領に潜伏している可能性が高い。襲撃時、飛行船は王都の西側から飛ぶルートを取っていたから、計算上敵は昼夜ぶっ通しでかなりの距離を移動したことになる。法皇直属の聖騎士と聖魔導師なら、回復魔法や回復薬を使いつつ不可能な移動ではない。


 俺とアルディオ様は、2機の飛行船を往復させ、50程の騎士を連れてサザランド領の軍の駐屯地にやってきていた。


 ヴィアが連れ去られて3日目になるが、彼女の意識がないのか? 厳重に結界魔法で隠されているのか? 伝達魔法のやり取りも出来ていない。どれだけ魔法を飛ばそうとしても彼女の魔力を目標に飛んでいくはずの魔法は、その場に留まったまま発動しないのだ。

 未だに決定的な手掛かりや安否の確認が出来ないまま3日目を迎え、俺はジリジリとした焦りと不安のネガティブな感情を必死に押し殺し、判断力が鈍らないよう冷静になる努力をし続けている。


「エディ、大丈夫だよ。情報も集まってきている。シルヴィーはサザランド内に必ずいる。あの子なら隙を見て必ずお前に連絡を寄越すはずだから」


 軍の駐屯地に協力者としてやってきたルイスが、そう言ってサザランド領内の捜索の指揮を取ってくれていた。サザランド伯爵家の長女に婿入りしたルイスは、将来当主としてこの領土を統治していく為に、学んでいる最中だ。忙しい日々を送っているらしいが、「うちの領内で良かったよ。絶対に国境は越えさせないから」と全面的に協力してくれるのがありがたい。


「いつでも出られるように準備しとけよ。何かわかったら、まずはお前に知らせるから」


 と、馬や装備も準備してくれていた。



 その日の夜。

 突然俺の下に飛んできたヴィアからの伝達魔法は、彼女の無事を知らせるもので、協力者と敵から逃亡中という内容だった。


「ヴィアからだ! 出撃準備を! 今、詳細な場所を確認している」


 駐屯地の基地内が、一斉に沸き立つ。ヴィアが無事だったことに、安堵と、二度と敵の手には渡さないという緊張感に気分が高揚する。


「目標は、イビサの街の北側だ! 協力者1名とこちらに向って敵から逃亡中。追手がいる。急げ! 合流するぞ!」


 アルディオ様率いる国軍の近衛部隊と魔法師団、ノルディック領軍の魔法騎士達が、一斉に基地を飛び出す。


『シルヴィーを頼んだ。何かあれば知らせろ。すぐに対応するから』


 ルイスからの伝達魔法に、『了解』と短く答えて、ヴィア達が逃亡に選んだ街道目掛けて、馬を駆る。


 ヴィア達も、かなりの速さで移動したのだろう。合流まで後10分程のところで、「敵に追いつかれたので交戦する」と連絡が来た。

 ヒヤリと背筋が冷たくなる。


「アルディオ様、ヴィアから交戦すると」


 隣を並走するアルディオ様に告げる。アルディオ様は小さく舌打ちするが、


「作戦通りでいいんだろう?」


 と一瞬こちらに視線を投げて確認された。


「ええ、協力者がこちらの魔力をギリギリまで隠蔽してくれるそうです」


「へえ、なかなかの魔法師だな」


 魔法師としても優秀なアルディオ様が、感心したように言って、続ける。


「シルヴィアも普段は医療や研究主体だが、それなりに戦えるんだろ? 協力者もかなりの使い手みたいだし、俺達と合流するまでは持ちこたえるだろ?」


「ええ。どんな奴かは知りませんが、ヴィアはそれなりに信用しているらしい。まあ、会えばわかりますし、彼女を守ってくれることには、感謝しますよ」


 確かに、一緒に逃亡している協力者の存在に俺は引っ掛かっている。つい先程まで連絡のつかなかったヴィアに、協力者? 状況が不自然だ。敵の中からの裏切りか? 偶然に出会った協力者か? どちらにしろヴィアが信用して共に逃亡し、敵と対峙しているのに、一抹の不安を覚えている。

 だが、この状況は間違いなく協力者のお陰だ。俺はヴィアを無事に取り戻す。彼女がこの腕の中に戻ってくるなら、他のことは些細な顛末だ。


「牽制は程々にな? 直前で馬を降りて、シルヴィアの安全を確認次第、近衛達は敵の背後に回り込ませる。シルヴィアの保護は頼んだ」


「もとより。彼女は俺の伴侶ですから」


 少し呆れたようなアルディオ様に、俺は口角を引き上げて応えた。



 そして、俺はヴィアを取り戻した。


 腕の中に抱きしめた彼女が、ほっとしたように俺を見上げて微笑む。その表情に、彼女が心も身体も傷付けられていないことがわかって、やっと心から安堵した。

 よかった……いつものヴィアだ。

 それを確信した俺は、アルディオ様や部下達に敵を全て捕らえるよう指示を出していく。


 と、ヴィアの傍らに歩み寄って来た青年が、彼女に気安い様子で話しかけた。彼が例の協力者らしい。ヴィアも笑顔でそれに答えている。しかし、その内容が全く理解できない。二人は聞いたこともない言語で会話していた。しかも、かなり親密な様子だ。


 黒髪に黒瞳、俺よりも少し年嵩の男。この国では見ない異国風の顔立ちだが、涼やかに整っている。

 なんとなくざわつく心を抑えつつ、俺は思わずヴィアを引き寄せて、訝しげに尋ねた。


 すると、ヴィアから返ってきた答えは、彼女の前世で縁のあった人物だという、俄には信じがたい内容だった。だが、彼女が嘘をついている様子は当然ないし、男が否定する様子もなく、それはきっと事実なのだろう。

 諸々を飲み込んで、俺は取り敢えず彼に感謝を伝えた。彼も何かを言いかけたが、今この場で話す内容ではないとヴィアに一蹴されてしまう。


 そんなとき、ケインから現況の報告があり、追加の指示を出していたときだった。



 いきなり腕を引かれ、俺に抱き着いてきたヴィアの背に刺さった、3本の氷の刃。

 崩れ落ちるヴィアに思わず手を伸ばし、咄嗟に抱き留める。


 何が起こった???


 心が、目の前の光景を拒否して、認識できない。だが、身体は反応して彼女を腕に抱き、その名を呼ぶ。

 周囲がざわついているが、俺の視線は彼女に固定されて動かせない。


「……エディ……ぶじ?」


 ヴィアがその瞳に俺を映して、辿々しく言った。同時にコポリと赤い血を吐く。


「喋るな、ヴィア。誰か!」


 彼女が死に瀕しているのを理解した俺の心臓が、苦しい位に脈打ち始める。そして、誰でもいい、彼女を助けるために力を貸してくれ、と声を上げた。


「クソッ!大血管の損傷か?出血量が多い」


 トードーがヴィアの身体に手を翳しながら、治癒のための魔法を使う。だが、その表情に浮かぶのは絶望だった。


 ヴィアの身体から失われていく血液と体温。血の気をなくすその顔に、彼女の生命をそこに留めようと俺は必死で彼女を抱き締めた。


「ヴィア!駄目だ!目を開けてくれ!」


 死ぬなんて、許さない。俺を残して逝かないでくれ。


「逝くな!頼む……」


 必死に願ったのは、それだけ。ヴィア、君がいなければ、俺は……


 何も答えないヴィアを胸に抱き込んだとき、胸元のブルーダイヤが熱を持つ。

 強烈な、だがどこまでも優しく穏やかな魔力。これは、ヴィアの魔力だ。


 思わず顔を上げてヴィアを見る。彼女を包み込む治癒の光。それは膨大な魔力を使って成される絶対治癒。

 月明かりが照らすまだ明けぬ夜の中で、浮かび上がる奇跡の光。


「凄い、こんな完全な治癒魔法……初めて見た。医学の常識じゃ考えられない」


 トードーの呆然とした声が聴こえる。


 少しずつ戻って来るヴィアの身体の温もり。消えていく傷。頬にも僅かに赤みが指す。枯渇していた彼女自身の魔力も徐々に回復していく。


「……いったい……」


 信じられない光景に、思わずこぼれた一言。誰もが無言で固唾をのんで見守っている。


 しばらくしてそれに答えたのは、紛れも無いヴィアの声だった。


「前に、貴方のブルーダイヤに、一度だけの絶対治癒を仕込んだの。私がそれに触れたことで、発動したのね」

 

 少し掠れてはいるものの、はっきりと話す声が、これは夢ではないと教えてくれる。


「……え?」


 信じられない事実に俺は目を瞠る。確かにブルーダイヤからは、いつも仄かにヴィアの魔力を感じてはいたけれど、こんな膨大な魔力で展開される絶対治癒が内包されていたなんて、予想外だ。いったいどれだけのものを、彼女は俺に贈ってくれていたのだろう。


「貴方に万が一のことがあっても、ちゃんと私のもとに帰ってきてくれるように。まさか、私が使うことになるなんて」


 しっかりと目を開けた蒼い瞳に、俺が写る。申し訳無さそうに笑ったヴィアに、俺はもう一度彼女を抱き締めた。


「何でも良い。君がちゃんと生きてる。君の生命を救ってくれたってことは、同時に俺の生命も繋いでくれたってことだ」


 彼女の手が、俺の背に回った。


「ごめんなさい。思わず身体が動いてしまって」


「二度としないでくれ。俺を殺す気か」


「うん。気をつける」


 全く信用できないヴィアの返事に、これから先、どうやって彼女を守ろうかと考える。


「シルヴィア、エディウス殿、大丈夫か?」


 アルディオ様が騒ぎを聞きつけてこっちにやってきたようだ。俺はヴィアを抱き上げ、立ち上がる。

 今は、彼女をこの腕から離すことなんて考えられなかった。

 俺達の様子を見たアルディオ様は、ほっとしたように表情を緩めた。


「ルイスには、これからシルヴィアを連れて戻ると伝達しておいた。陛下や今回の関係者にも俺から連絡を入れて、国境封鎖も解くから、一足先に駐屯地に戻れ」


「感謝します、アルディオ様。うちの騎士達を半数程残していきますので」


 俺は素直に彼の好意に甘える。今は、少しでもここから離れたかった。


「ああ。気をつけて行け」


 手を払うようにさっさと行けと合図したアルディオ様に、ヴィアが声を掛ける。


「アルディオ、ありがとう」


「無事でよかったよ、シルヴィア。後でまたな」


 ヴィアにはにこやかに笑いかけるアルディオ様は、相変わらずだ。


「ええ。蓮くんも一緒に行きましょう」


 ヴィアは手を振って彼に答えると、今度はトードーに向かって声を掛けた。


「ケイン、彼を頼む。お前と半分は俺について来い!」


 俺は、ケインにトードーのことを頼むと、ヴィアを馬に乗せ、駐屯地へと向かった。


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