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襲撃 エディウス

「エディウス様!シルヴィア様は?」


 それまで少し離れた所で、敵の狼の群れと戦っていたアベルの焦ったような声に、俺はハッとして後ろを振り返った。

 そこには、俺の取り零した兵士の1人と切り結んでいたケイトが倒れており、既にその敵は姿を消していた。

 そして、彼女の側にいたヴィアの姿も見当たらない。俺の背に冷たい汗が流れ落ちる。


 ヴィアが声を上げる間もなく、連れ去られた。

 彼女は武器こそ持たないが、全く戦えないわけではない。その強大な魔力と巧みな魔法のコントロールで、状況によっては複数の騎士だって一気に無力化することが出来る。確かに飛行船のコントロールで魔力は削られていたが、彼女の魔力量ならまだ余裕はあったはずだし、近接戦や乱戦には確かに不向きだが、周囲に助けを求めることも出来ずに連れ去られたというのは、信じ難い。

 俺は、これまで相手をしていた眼の前の3人の敵達に一瞬で視線を戻すと、1人でもいい……仕留めるべく魔法を練り上げる。殺すわけにはいかない。ヴィアの情報を吐かせなくては。


「ノルディック、用は済んだ」


 だが、敵もかなりの手練れ。3対1とはいえ俺と渡り合っていた男たちだ。一瞬で俺の剣の攻撃範囲から離脱すると、結界魔法を張り散開する。


「引かせてもらう」


 男は律儀にもそう宣言し、別のリーダー格の男が笛を強く吹き、共に身を翻した。高音で響いたそれに、これまで戦っていた兵士や魔法師それに狼の群れが、一斉に四方八方に散っていく。


「クソッ!待て!」


 敵を追おうとしたラッセルを、俺は止めた。


「ラッセル、無理だ!立て直すぞ」


 そして、倒れているケイトを助け起こす。脈も呼吸も問題はない、外傷はなさそうな様子にほっとして声を掛けるが、目覚める様子がない。ヴィアを連れ去られ、刻々と過ぎる時間に内心焦りながら、それでも確実に彼女を取り戻さなければ……となんとか心を落ち着けながら、部下に声を掛ける。


「ルード、見てくれ」


 光属性持ちでヴィアから一通り医療魔法の手解きを受けているルードに、ケイトを託す。


「……薬を使われているようです。深く眠っているようで、生命を脅かすものではありません」


 しばらくケイトを診察していたルードは、そう結論を出した。

 一瞬にして意識を落とす薬。ヴィアにも使われた可能性がある。

 確かに魔力が膨大で強力な魔法師であるヴィアの意識を奪うなら、魔法を使うより薬の方が確実だ。華奢な彼女を運ぶことも、抵抗がないならそう難しいことではない。そして、魔法を使えず意識のないヴィアを探すのは、困難を極める。


「謀られたな」


 ノルディックや王都での数多くの侵入や襲撃は、おそらくこちらの戦力分析と陽動。つまりこちらの攻撃力や魔法騎士達の戦闘能力、防御パターンを測り、同時に敵戦力をこちらに過小評価させるための、狂信者を使った捨て駒攻撃だったのだ。全ては、この機会にヴィアを奪い去るための下準備。

 どれだけ前からガンクルドがこの計画を立てていたのか不明だが、敵戦力を見誤らせ、こちらの魔法騎士を確実に足止めしつつ、ヴィアだけを攫うこの作戦に、まんまと引っ掛かったことになる。不幸中の幸いだったのは、こちらに重傷者がいなかったことくらいだ。

 だが、敵がガンクルドであることは確実だ。彼の国なら、これだけのことをやってのける人材も資金も動機も充分にある。

 ただ……今回の襲撃犯達は今までの奴らと違い、妙な統制が取れており、高い攻撃力の割には、俺達を殺すつもりは無かったようなのが気にかかる。飛行船への攻撃ですら、墜落させるというより、この場所に不時着させるよう誘導されていたようだ。


「エディウス様、大丈夫ですか?」


 ケインが隣に立った。俺は頭を振り、気持ちを切り替える。


「ヴィアの命が脅かされることはない。わざわざこんな大掛かりな誘拐を仕掛けたんだから、それは確かだ。国外に出る前に彼女を取り戻す」


 俺は自身にもそう言い聞かせて、冷静な判断を心掛ける。

 彼女を奪われ、ヴィアが傷つけられたり、不安な思いを抱えたりしていないだろうか、と心配でどうしようもない。必ず助けに行くから……どうか無事でいて欲しい。

 同時に、俺の知らない誰かがヴィアに触れているかもしれないことに激しく怒りを覚える。

 彼女が殺されることは無いという希望が、かろうじて俺をこの場に踏み止まらせている。

 俺は彼女を失ったわけではない。だから、大丈夫。ヴィアを無事に取り戻せばいいだけだ。ヴィアの意識がこの世界から消えたあの時とは、違う。


「飛行船が襲撃された際、陛下と殿下方、ロッドフィールド侯爵に伝達魔法を送った。先程ヴィアが敵に攫われたことも追加で送ってある。ノルディックの研究者達にもだ…………これは、セドリック殿下からだな」


 俺の下に届いた伝達魔法の返事を確認する。


「陛下の命令で国境を封鎖した。国境線には結界も張られ、厳戒態勢が敷かれるそうだ。同盟国であるデンファーレとアーダインへの国境にもだ」


 ノルディックの騎士達から小さな安堵の息が漏れる。これで敵は簡単には陸路でも海路でも国外に出られない。不法に国境を超えるにしろ、準備や時間が必要になる。


「近くの軍駐屯地から馬を連れてこちらに迎えが向かっている。一旦王都に戻り、体制を整えるぞ。

 ジェイドは、迎えに来た者とここに残り、技術者が到着するまで飛行船を頼む。おそらく夕方までにはアーベル達が充填用のガスを持ってくる。明日には仮修理して飛べるようになるだろう。お前はそのままアーベル達とノルディックに戻れ。いざというときの為に飛行船はいつでも飛ばせるようにして、向こうで待機だ。

 陸路でノルディックに向かっている領軍の騎士達は、王都に戻るように伝えた。ヴィアを取り戻すぞ!」


「はい。必ずや!」


 騎士達は声を揃えて敬礼した。




 王都に戻った俺達は、王宮へと向かった。

 俺は陛下の執務室に呼ばれ、早速報告となる。

 陛下はもちろん、殿下方と王宮筆頭魔法師ロッドフィールド侯爵、そしてルーベンス王国軍のトップであるシャーウッド軍総帥閣下が揃っていた。


 早速俺から、今回の一連の事件の報告をし、セドリック殿下が取った緊急措置の説明が行われた。

 その後、地図を見ながら敵を追い詰めるための作戦を立てていく。軍や魔法師団が集めたこれまでの調査結果の報告も上がってくる。統制の取れた今回の襲撃犯は、おそらくガンクルド国法皇直下の聖騎士団と聖魔導師達らしい。

 早速行方を追ってくれており、各所から次々と情報も集まってきていた。

 一通りの方針が決まり、ヴィアの救出へ向かおうと席を立った俺は、ロッドフィールド侯爵である義父に呼び止められた。


「エディウス君、シルヴィーは大丈夫だよ。あの子は無事に戻って来る。気を張りつめすぎずにね」


「ありがとうございます、義父上」


 ヴィアをみすみす攫われてしまった申し訳なさもあり、深く頭を下げる。だが、義父は優しく肩を叩くと、もう一度「大丈夫だ」と言う。ヴィアと俺を信じていてくれるようで嬉しくなる。


「エディウス殿、俺も一緒に行こう」


「そうだね、アルディオ。お前が共に行けば多少の無理も通る。エディウス殿上手く使ってくれ」 


 アルディオ様も立ち上がり、俺に並んで申し出てくれた。陛下も快諾してくれる。


「陛下とアルディオ様にも、感謝致します」


 俺は義父と陛下達に、再び頭を下げて感謝を伝えた。

 そして、もう一人。


「今この場でする話ではないかもしれないが……」


 と前置きしたシャーウッド軍総帥閣下が、続ける。


「ノルディック殿、シルヴィア嬢は、私達家族にとっての恩人であり大切なお嬢さんだ。息子は彼女に心底惚れ込んでいてね。ああ、君達が仲睦まじい事は私もよく知っているし、邪魔するつもりはない。だが、息子にシルヴィア嬢を諦める機会を与えてやってはくれないか? 彼女が戻ったら、ぜひ一度我が家に来てくれないだろうか? そろそろ息子も結婚に前向きになって欲しいのだよ」


 総帥閣下は、7、8年前に奥方の病を癒やしたヴィアをいたく気に入り、俺との婚約前に、嫡男とヴィアの婚姻を強く希望していた例の公爵家の当主だ。俺に対する視線は厳しいが、公正な人柄ではあるので、俺を責めるようなことはなく、捜索にも協力的だった。


 俺は、公爵の言葉に目を伏せた。

 ヴィアが無事に戻って来るなら、腹立たしいが公爵家嫡男とヴィアが会うことなど些細な出来事だ。彼女の俺への愛情が変わることは、決してないのだから。


「承知しました。閣下、今回の件、ご協力いただきましてありがとうございます。妻が戻りましたら、嫡男との面会をお約束いたします」


 俺はそう言って頭を下げると、今度こそ部屋を後にした。

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