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それから4年が経ちました

 エディ様の社交界デビューから、4年。


 ちょうど今から1年前の昨年の11月、16歳(17歳を迎える直前)でキャシーと私も社交界にデビューして、なんと!キャシーとクロード兄様、そして私とエディ様が正式に婚約した。

 クロード兄様は、キャシーの16歳のお誕生日に晴れて恋人同士になって、私とキャシーの社交界デビューと共に、両家から二組の正式な婚約届けが国に提出された。

 結婚後は、クロード兄様は我がロッドフィールド侯爵家を継ぐ予定なので、キャシーは侯爵家夫人。エディ様は、ノルディック辺境伯家の跡継ぎなので、私は辺境伯夫人になる予定。


 結婚は、私とキャシーが成人の18歳を迎えた後の夏、互いの領地で行う予定となった。

 誕生日は、キャシーが12月、私はその翌月の1月なので、あと8ヶ月後には結婚式である。

 ルイス兄様は私達が結婚式を挙げた後、メイベル様とサザランド伯爵領に行き、入婿としてサザランド伯爵家を継ぐことになっている。

 来年はまさに両家とも結婚ラッシュ!


 そして今日は、私3回目の王宮主催のデビュタントの舞踏会に出席している。

 何故か、3回目!

 先日16歳になったアルディオの社交界デビューのパートナーに指名されたのである。

 この舞踏会では、リズ……エリザベス王女殿下と隣国デンファーレ王国の王太子殿下との婚約発表を兼ねているため、アルディオ殿下のデビューのパートナーとして一番近い血縁が私ということになり、白羽の矢が立ったのである。


 このお話が実家経由で来たとき、当然私はエディ様に報告したのだけれど……


「……やだ」


「エディ様ったら」


 エディ様の腕の中に閉じ込められて、頭の上に顎を乗せられてグリグリされながら、嫌だと言われた私は、不謹慎ながらもかわいらしいエディ様に、思わず笑ってしまったのである。


「君が彼に一番近い血縁者だって知っているし、彼を弟のように思っているのもわかってはいるけど、婚約者が他の男のパートナーになるのは面白くない……」


 エディ様は、笑った私にちょっと拗ねたように文句を言った。

 私達が婚約してから、エディ様は時々私にも甘えてくれるというか、ちょっと情けないところも見せてくれるようになって、私の隣で気を抜いているエディ様を見ているのも幸せなのだけれど。

 こんな風に拗ねたように甘えられると、なんだか嬉しくて。

 その後、笑った私にお仕置きと称して、ぐったりするまで散々口づけされたのは、今思い出しても恥ずかしいけれど、結局は、了承してくれた。


 アルディオは、私の学園時代に再会してから、時々会いに来てくれていて、忙しかったり休暇などで間があくときは半年位会わなかったりもしていたんだけど、ここ最近は毎週のように顔を見ている。

 すっかり背も伸びて大人びたアルディオは、魔法騎士を目指して学園の高等科の最高学年に在学中だ。将来は王家の軍事部門を指揮していくことになるのかな? 魔法の才能もあって、武の才能もあって、もともと綺麗な顔立ちをしているし、身分もあるので、ご令嬢方にも大人気らしく、お見合いの申込みも後を絶たないらしい。

 まあそれで、身内の婚約者もいる私に今回の話が来たんだろう、と思う。まだ、婚約者を決める様子もなさそうだしね。

 平民として育ち、母親を亡くして王家に入ったアルディオ。辛かったり、苦しい想いもたくさんしただろうけど、いじけることなく、努力を重ねて、立派な第三王子として、王家の皆にも国民にも認められている。弟子のようでもあり、弟のような彼の成長が嬉しくて、どうか幸せになって欲しいと、心から願っている。


 舞踏会当日、王族であるアルディオは、侯爵家まで出向くことはしないので、私の今日の支度は王宮で整えられている。

 朝から王宮侍女達の手で磨き上げられて、アルディオに合わせた衣装を着せられた私は、いつもエディ様と並ぶときとは、雰囲気も印象も違って見える。上半身は黒が中心に細身にデザインされて、膨らんだスカート部分やレースは白、髪飾りはパール、耳と首元を飾る宝石は深い紅のルビーである。


 迎えに来たアルディオは、しばらく入り口で立ち尽くしていたけれど、隣にいたユリウス殿下に肩を叩かれて、ハッとして言った。


「シルヴィア、すごく綺麗だ」


「ふふっ。ありがとうございます。アルディオもとても素敵です。立派になりましたね。今日は、よろしくお願いします」


 エスコートの手を差し伸べられて、立ち上がる。

 私達は会場へと歩き出した。

 反対側を歩くユリウス殿下が、


「従姉妹殿、いつもお美しいですが、アルディオの色もよくお似合いですよ」


 とからかうように笑う。私は一つ溜息をつくと、言い返した。


「あら、ユリウス殿下。殿下はいつもお色味が違いますけど、どれもよくお似合いですわよ?」


 ユリウス殿下もまた婚約者を定めず、いろいろなご令嬢との噂が絶えない。外交官として飛び回っている彼の場合は、情報収集も兼ねているのだろうけど、若干軽めの物言いが誤解を招いて、恋多き王子として社交界では有名である。


 ちなみにセドリック王太子殿下は、2年前に南隣のアーダイン国の王女様とご結婚されて、王太子妃は現在ご懐妊中である。

 北東のザルディア王国の国王が崩御し、王太子が即位したのとほぼ同時期で、我が国と隣国の同盟強化の一つだった。今回のデンファーレ王国とのリズの婚約もそうである。


 デビュタントが入場し、アルディオが最後にコールされ共に会場に入場する。

 私も3度目ともなればもう緊張することもないが、アルディオもこれまで何度も公務をこなしてきたお陰で、堂々としたものだった。

 その後はリズの婚約発表があり、いよいよデビュタントのファーストダンスである。


「シルヴィア?」


 アルディオに手を取られ、音楽が鳴り始める。アルディオを見上げると、一瞬幼い頃の面影が重なった。クスリと笑いが漏れたのをアルディオが聞き咎める。


「出会ったときを思い出していました」


 正直に言うと、アルディオが心外だというように目を細める。


「もう、子供じゃない。シルヴィアのことだって、抱き上げられる」


「そうですね……うわ」


 いきなりリフトされて回転する。片手で軽々持ち上げられて、キレイにアルディオの腕の中に下ろされた。

 アルディオの口角がいたずらっぽく上がる。


「とても軽いよ?お姫様」


「はい。王子様。子供だとは思っていませんよ。先日行われた魔法・剣術大会でも、強くて驚きました」


「シルヴィアの婚約者殿には、かなわなかったけど」


「本職の魔法騎士相手にすごい活躍でしたよ?」


 年に一度、軍の各地の魔法騎士団対抗の大会があり、個人戦枠では学園の魔法騎士コースの学生にも出場権がある。

 今年は最高学年でトップのアルディオが出場して、5位入賞の大健闘だった。

 ちなみに今年の優勝はエディ様。エディ様は学生時代も3位入賞で、入団以降も優勝か準優勝で騎士団でもトップクラスの実力である。

 今回実際に剣を合わせて、アルディオが2年飛び級にも関わらず5位だったのを称賛していたし、将来が楽しみだと言っていた。

 あ、ルイス兄様は、3位だった。


「うん、ありがとう。でも、勝ちたかったな……」


 そう呟いたアルディオがなんだかひどく寂しげで、私はそっと目を伏せた。


 デビュタントのダンスが無事に終わって、王家の皆さんにもご挨拶して、舞踏会もそろそろ最高潮というあたりで、私は退席することにした。この後、アルディオはご令嬢方とも踊らないとね。

 馬車止めまで送ってくれると言うので、私達は廊下に出た。


「ザルディアの動きが怪しくて……今年農作物が不作だったらしい。流行り病の流行の兆しもあって、不穏なんだ」


 アルディオが歩きながら口を開いた。


「心配ですね。うちはワクチン開発が上手く行って、昨年くらいからは流行り病の発生率も重症度もだいぶん低下しましたからね。ザルディアは、国が荒れないといいんですけど」


 そう。私が4年程前から進めていた予防接種ワクチンの開発が上手く行って、2年前から国全体で接種を始めたので、感染症の流行はだいぶん抑えられていた。


「うん。ユリウス兄上が穀物の援助も考えたらしいけど、ザルディアの困窮している国民に上手く配分されなさそうで、中止になった。軍に行ってしまえば逆効果だ」


「ザルディアの現王家は、かなりの圧政の上、軍備も増強していますものね」


 ザルディアの国王が代替わりして以降、軍事費に多くの予算をかけ、魔法師を徴兵し魔法騎士の養成に力を入れ、攻撃魔法の開発も続けているという。

 そこへ来て、不作と感染症の流行とはあまり良くない流れだ。

 生活が苦しくなった国民の不満を、外国や他民族のせいにすり替えて、敵対心を煽るやり方は独裁国家がよくやる手だ。


「シルヴィアは、来年の夏ノルディックに嫁ぐと聞いた……」


「ええ」


 私が頷いたところで、ちょうど馬車止めに着いて、アルディオの足が止まる。エスコートされて彼の腕に回していた手を取られて、私達は向かい合った。

 紅玉の瞳が真剣な表情で私を見る。


「万が一戦争が起これば、ノルディックが最前線になる」


 知っている。もう、何度もノルディックに行っているのだ。彼の地がどういう場所か、私はちゃんと理解していた。


「そうですね。覚悟の上です」


 その上で、私は決めたのだ。

 アルディオの顔が歪み、私の手を強く握る。


「俺は……」


 アルディオが意を決したように口を開いたとき、側に誰かが立つ気配があった。


「ヴィア、アルディオ殿下」


 私達は揃って振り返る。エディ様だ。


「ノルディック卿……」


 アルディオがエディ様の名を呟いて、彼に向き合った。

 エディ様は微笑みを浮かべているけど、目が笑っていない。アルディオとエディ様の間に緊張した空気が流れる。

 こらこら、エディ様?アルディオは16歳ですよ。

 私の視線に気がついたエディ様は、息をつくと視線を緩め、胸に手を当て頭を下げる。


「この度はデビューおめでとうございます、アルディオ殿下。婚約者を迎えに参りました」


「ああ……シルヴィア、今日はありがとう。この礼は、また後日に」


 アルディオは私の背をそっと押す。エディ様の隣に並んだ私は、アルディオに向き直り彼を見上げた。


「アルディオ、私は大丈夫ですよ? 私が望んだことなんです……さあ、もうお戻り下さい。私達は失礼します」


 心配しないでと笑って、アルディオに会場に戻るよう促し、私は足を引き腰を落とす。顔を上げたときには、アルディオの背中が去っていくところだった。




「ヴィア、冷えるからこれを」


 肩に掛けられたのは、エディ様が腕に持っていた大判の緑色のストール。上半身がすっぽりと覆われて、付与魔法も施されているので温かい。デコルテが開いているドレスなので、冷たい外気が遮られて、ほっとする。

 そのまま肩を抱かれて、馬車に乗り込んだ。


「エディ様、ありがとうございます」


 お礼を言って隣に座ったエディ様を見上げると、不意に抱き上げられて膝の上に横座りに乗せられた。そのまま腕の中に閉じ込められる。


「うん。会いたかった、ヴィア。ごめん、外すよ?」


 そして、ルビーがついた耳飾りとネックレスをさっと外されて、雑に座席に放り投げた。


「エディ様!」


 高価なアクセサリーを投げたエディ様に思わず抗議の声を上げる。


「あの男の色を身に着けている君を見ているのは嫌なんだ。ごめん、ヴィア。君に対してだけは、俺は結構心の狭い男なんだよ?」


 と、エディ様は悪びれずに言い切った。


「エディ様、アルディオは私にとって、生徒で弟みたいな子なんです。エディ様が妬くことなんて何も」


 エディ様はアルディオに対して、時々こうやって嫉妬するけど、本当にそんな心配なんて全く無い。


「うん、君の気持ちは、わかってる。でもヴィアは今やこの国にとって、とても大事な失えない女性で……王家だけが俺と君の婚約に干渉出来ると思うと、不安になる」


 確かに王家は婚約に干渉出来るけど、うちの家族相手にそれは悪手だ。うちと王家は血縁的にもかなり近く、王家の意向を汲んで政治面でも社交界でも陛下と王太子殿下をバックアップしている。エディ様と私の婚約は家族全員が賛成して望んでいることで、無理に解消させるようなことをすれば、王家との間に修復できない軋轢が生まれる。王家にとってメリットは何も無い。

 だから、エディ様が不安に思うことなんてないのに。私はエディ様の頬に手を伸ばし、しっかりと視線を合わせる。


「好きですよ、エディ様。例え何があったとしても、来年の夏にはちゃんとエディ様のもとにお嫁にいきます。だから、機嫌を直して?」


 そうして、エディ様の口元にそっと唇を寄せる。彼の唇に軽く触れて、急に恥ずかしくなった私は俯向いてエディ様の胸に顔を埋めた。


「ヴィア」


 だけど今度は彼に顎を掬い上げられて、強引に唇を合わされた。何度も角度を変えて、口づけは深くなっていく。


「……も、無理……」


 ぐったりした私が解放されたのは、馬車が屋敷に着いた頃だった。





 そして年が明け、私は18の誕生日を迎えた。

 家族と、エディ様もうちに来て、皆で誕生日を祝ってくれた。

 昨年いっぱいで王都の魔法騎士団を退官したエディ様は、この後、ノルディック辺境伯領に帰って、領主となるべく学び、領軍を率いていくことになる。

 夏の結婚式まで、しばらくのお別れだった。


 ロッドフィールドの家族に別れの挨拶を済ませたエディ様を、玄関まで見送りに出る。


「エディ様、ネックレスありがとうございました。私からも、こちらを」


 エディ様から誕生日に贈られたものは、エメラルドがついた普段使いができるかわいらしいネックレス。先程直接エディ様に着けてもらった。

 私からエディ様に餞別にと用意したのも、偶然にペンダントだった。男性用なので、シックな感じのシンプルな造りなのだけれど。


「俺に?ペンダント?」


「いい石があったので、エディ様の安全を願って思いっきり魔法付与してみました。自信作ですよ。身につけていて下さいね?」


 魔法付与に最も適したブルーダイヤモンドを見つけたので、生命に危険が迫ったとき、一度だけの絶対治癒を付与しておいた。結構な魔力も使ったし、時間もかけた自信作。きっとエディ様を守ってくれるはず。

 背伸びをしてエディ様の首に手を回して、私もエディ様にペンダントをつける。


「ああ、ヴィアの瞳の色だね? とても綺麗だ。ありがとう。君も俺を忘れないようにいつも着けておいて?」


 ブルーダイヤモンドを手に取り、ギュッと握りこんで、エディ様が言った。


「はい。大切にします。夏にお会いできるのを楽しみにしています。エディ様」


「うん。ヴィアの花嫁姿を楽しみに頑張るよ。元気でヴィア」


「エディ様も。お気をつけて」


 そう言って軽い口づけと抱擁を交わし、私達は夏の再会を約束した。




 そうして翌月には新年度を迎え、メゾンに花嫁衣装をオーダーし、クロード兄様やルイス兄様やメイベルも結婚に向けて準備を始める。

 ずっと家族で過ごした王都を離れるので、少しずついろいろな物や事を整理しだした春、ノルディックでは雪解けの頃。


 ザルディア王国がノルディック辺境伯領に進軍し、我が国に宣戦布告したと報じられた。

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