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異世界の歩き方  作者: 葉月奈津・男
12/14

キメラの研究者


 「お主、術師じゃな?」

 怪しげな爺に声をかけられたのは、従魔ギルドで受けさせられた依頼にあった町へ着いてすぐのこと。

 何はともあれ、飯屋へと入ったところだ。

 頭は見事に禿げ上がり、左右の耳元で申し訳程度に白髪が生えている。かわりに鼻の下とあごにはもっさりと、これまた白いひげを蓄えた一見気のいい「お爺さん」の風貌だ。

 ただし、その瞳には鋭すぎる光がある。

 服装からして、おそらく同業者だ。

 術師クラスなのか魔導士クラスなのかまではわからないけれど。

 「ええ、そうですけど?」

 オレは店のメニューを引き寄せながら、頷いた。

 「やはりか! 今日はついとるのぅ」

 嬉しそうに笑いながら、オレの隣に腰かけてくる。

 「うっひょっひょっ。わしの名はダレアス。この近くで魔導の研究に勤しんでおるジジィじゃ。ついては研究のため、魔力を扱える助手を募集中なのじゃ。どうかの? ちょいと手伝ってはくれんか」

 いきなりスカウトされたわけだが、実をいうとありがたい。

 依頼があっさりと片付きそうだ。

 というのも、今回の依頼というのが「魔導研究にかこつけて、奇妙な生き物を生み出している魔導士がいるらしい」との噂を確かめ、事実だったなら辞めさせることだからだ。

 噂の出どころとされる町で、この勧誘。

 この爺さんが元凶とみて間違いない。

 捜しまわる手間が省けたわけだ。

 ヒルダとキャルナを宿の部屋に置いてきて正解だった。

 連れ歩いていたら、素材として使おうとか思われたかもしれない。

 「わかりました。お手伝いしましょう」

 にこやかに頷いた。

 「おおおっ、そうか! ならばさっそく・・・」

 「その前に——」

 張り切る爺さんを抑えた。

 「食事がまだです」


 さてさて、本日のメニューはどうするか。

 メニューに目を走らせながら、食べたことのない素材を使っていそうな料理を探す。

 これが簡単なようでいて、なかなかに難しい。

 メイン食材がなじみ深くとも、副材が未知のものという可能性があるからだ。

 たとえば、ステーキの横に転がるニンジンのようなもののことである。

 これがもとの世界であれば、メニューには当然のように料理の写真が載っているので探しやすい が、この世界のメニューは文字だけ。

 料理の説明もほとんどない。

 せいぜいが、魚か肉か野菜か、それぐらいしかわからないのだ。

 こうなるともう運任せになる。

 幸運を招き寄せるべく、選択に全霊を賭さねばならんのだ。


 『ベスティアコーダ』

 『タルバの燻焼』

 『カクティシュラブ鍋』


 メニューの中から全く想像ができなかった料理三種を頼んでみた。

 とはいえ、本当にわけが分からないかというとそうでもない。

 『ベスティアコーダ』は、おそらく肉料理だ。

 この辺りでは肉が取れるモンスターを『ベスティア』と呼ぶらしいのだ。

 問題は『アコーダ』になる。

 「おー、そういうことね」

 運ばれてきたのを見て一目で理解できた。

 長細いものが皿の上で、蚊取り線香みたいな形になっている。

 尻尾だ。

 尻尾を焼いてある。

 その上からとろみのあるタレが掛けられているようだ。

 一見して「まずそう」ってことはないが、うまそうにも見えない。

 まぁともかく、食べてみなければわからない。

 フォークで抑え、ナイフで切って口に運ぶ。

 切っているときのゴリゴリ管に一抹の不安が湧き上がるが、無視して挑みかかった。

 うん。

 想像通りだ。

 ゴムより硬い肉になっている。

 歯が立たないし、顎がすげー疲れる。

 だけど・・・。

 味は悪くないかもしれん。

 こちらの世界の肉にしては脂を感じられるのだ。

 料理方法を工夫すれば、もう少しましな食べ物にできるかもしれん。

 続いての『タルバの燻焼』。

 なんのことかと思っていたが、これまた肉料理だ。

 なにかの野菜を付け合わせた大皿に、うっすらと煙の臭いを纏わせた肉がスライスされてのってきた。

 燻焼、つまり燻製ってことであるようだ。

 煙で燻して香り付けをする。

 この世界にしては珍しく凝った調理方法を用いている。

 少しだけ期待した。

 そして、裏切られた。

 燻製になっている理由が分かったのだ。

 この肉、元はモグラのようなモンスターなのだと思う。

 妙に土臭いのだ。

 土臭さをごまかすように煙の香りが付いているが、何のことはない。

 畑の土を荒らすモグラ退治で煙を巣穴に流し込んでいるだけだ。

 そうやって燻して殺したモンスターをもったいないので食用にしている。

 考えてみれば、この街に入る前の街道でも煙のにおいがしていたことを思い出した。

 肉は柔らかかったけどね。

 でも、まったく味がなかった。

 塩を振って無理やり呑み込むしかない。

 マズくもなくうまくもない。

 こういうのが一番ツラい。

 最後。

 

 『カクティシュラブ鍋』。

 

 なんか知らんが、小鍋に緑色のものがツッコまれている。

 太さは前世世界のネギくらいで、色は葉の色だ。

 フォークでつつくと、かなり固い。

 肉の「硬い」とは意味が違う。

 骨や殻の固さだ。

 摘まみ上げてよく見ると、緑色の固いものに包まれた中に、白い身が詰まっている。

 これを食べるのが正解のようだ。

 よく見ると、緑色の部分に切れ込みが入れられている。

 フォークを使って、中身を引っ張り出し口へと誘う。

 「おおっ」

 声が漏れた。

 これは。

 この味はっ。

 エビだった。

 風味といい甘さといい、間違いなくエビだ。

 さすがに磯の香りはしないが、エビといって問題がない味を出している。

 「こ、これってなんなんだ?」

 他の客の食器を片付けに出てきたおばちゃんに聞いてみる。

 「はい? ああ、カクティーシュラブっつう植物だよ。この先の岩場の隙間に生えているんだ。パッと見固そうだし、棘もあるしで放っておかれていたんだが、煮てみるとうまいってんで最近は人気があるよ」

 「へ―、そんな植物があるんですねー」

 あはははは、と笑って流した。

 さっさと食べ終えなくてはならない。

 人気が出てきて、取り尽くされたりしたら大変だ。


 あぶなかった。

 事実採り尽くされようとしていたよ。

 ギリギリで間に合って、残りは根こそぎ保護したけどね。

 生えていた岩ごとゴーレムで削り取ってプランター栽培にする。

 で、物が何かといえば。

 サボテンだ。

 前世世界にはシャコバサボテンってのがあったが、あれは葉がシャコの尾鰭に似ているからついた名だった。

 こっちのカクティーシュラブってのは、サボテンの見た目で中身がエビの植物である。

 「え、エビが見つかるなんて・・・」

 あ。目から汗が出る。

 いくらに続いての海鮮ネタ。

 ありがたし。

 思わず合掌したね。


 「わしがこの道に進んだのは、母親の影響でな」

 町から程よく離れた山荘。

 飯を食べ終え、機嫌もよくなったオレはほいほいとじいさんに連れられるまま、ここへ来た。

 じいさんの言う研究室である。

 で、腰を落ち着けた途端に年寄りが語り始めた。

 うん。年寄りってのは話が長い。

 適当に相槌を打ちながら聞き流す。

 腹が小慣れるまでの小休止にちょうどいいだろう。

 「わしの母親も魔導士でな。なかでも得意としていたのが魔導生物の作成じゃった」

 「あー、そーなんですねー」

 椅子に腰かけ、食べ過ぎの腹をさすりながら生返事を返す。

 魔導生物。

 ようは魔法で現実には存在しない生き物を生み出すというものだ。

 合成獣『キメラ』、人造人間『ホムンクルス』などがその代表といえるだろう。

 従魔ギルドで扱うのは基本的に自然に生まれるモンスターたちだが、それだと一から育てなければならなくて戦力になるまで時間がかかる。その欠点をなくそうとして生まれた魔術系統の一つになる。

 「かつては数百人に及ぶ弟子を引き連れ、王侯もかくやという権威を持っていたのじゃ」

 「おー、それはすごーい」

 軽く流す。

 ウソとは言わないが誇張であることは明白だ。

 せいぜい十数人、町の名士だった、ぐらいのものだろう。

 「しかし、時は残酷なもの。母も寄る年波には耐えられんかった」

 「そーでしょーね」

 当然である。

 「そこで、わしはこうしたのじゃっ!」

 じゃじゃーん!

 やおら、部屋の奥にあった重たそうな布が取り払われた。


 「うげっ!」


 あっぶな。

 危うく昼のごちそうをリバースしかけた。

 そこにあったのは透明な柱水晶だ。

 中には、女性の姿。

 ただし、皮膚がなく骨格と内臓しかない。

 そんな中、唯一まともなのが頭。

 20代後半か30代前半の女性のものだ。

 「ま、まさか?」

 「わしの母じゃ」

 うぐっ、やっぱりかよっ!

 こいつ、自分の母親を・・・。

 水晶の中のおぞましいものに、うっとりとした視線を送るダレアス。

 マザコンどころの話ではない。

 「わしは長年の研究により、人の皮膚や肉片から生前の姿を取り戻す技術を生み出した」

 DNAを使った複製人間を作る技術ってことだろう。

 とすると、この水晶の中のボロボロの体は、こいつの母親のオリジナル。

 遺体を保存しておき、複製を作るために切り刻んでいるというわけだ。

 「おかげで、若き日の母の体なら、いつでも蘇らせることができる」

 体なら、ね。

 この時点で話の帰結は読めた。

 「しかし、なぜか母の英知と魂は戻らない」

 なぜか、じゃねぇよ。

 当然だろ。

 DNAという設計図がある身体はともかく、その人の知識や経験までを取り戻すことは不可能。

 神にだって至難の業であるはずだ。

 しらんけど。

 「なにかが足りないのだ。そのなにかとはなんだと思う?」

 「さぁな」

 わかるかよ。

 っていうか、答えなんてあるものか。

 「わしが導き出した結論。それは魔力だ」

 「へぇー」

 わかりやすいところに答えを求めたらしい。

 単純に量の問題ってことで納得しようとしているのだ。

 「というわけで、お主の魔力をちょちょいとくれ」

 くれ、って。

 「どうやって?」

 「気合じゃ!」

 あっさりと言い切られた。

 「・・・・・・」

 いや、思わず沈黙したね。

 普通なら叫びそうなところだが、人間本気で驚くと声が出ないと初めて知ったよ。

 このじぃさん。とち狂ってるだけでなく、たぶんボケてきているな。

 自分が何をしているのか、もはや判断ができていないのだ。

 「老い先短い年寄りの頼みなのじゃ。なに、多少死ぬほどの痛みがあるかもしれんし、身体は砕け散るかもしれんが美人のためなら惜しくなどなかろう?」

 「惜しいわっ!」

 愛する女性のため、みたいな雰囲気で自分の母親を生き返らせようとすんなよ。

 だいいち、この話の展開から考えて母親を殺したのはこいつ自身のはずだ。

 そうでなければ、母親の遺体を保存しておけるわけがない。

 「なぜじゃ、なぜ嫌がる?」

 ダレアスじぃさんは驚いた声を上げた。

 「なぜって、嫌がらない理由を探す方が難しいでしょうがっ!」

 「間違っとる。せっかく若返らせようとしたのに、抵抗した母もそうじゃったが、どいつもこいつも何かを間違えとる!」

 いや、それそのまんまあんたに返すよ。

 やはり、母親を殺したのもダレアス本人だとわかった。

 若返りのためにと、何かしらの魔術を試して失敗したのだ。

 ああ、それで狂ったのか。

 狂ったまま、何とか母を蘇らせようとし続けて今に至る、と。

 話の流れは読めた。

 狂ったいきさつなど同情の余地・・・ないな。

 子供だったとしても、母親を殺してしまっている奴に同情は無用だ。

 殺された母親にもな。

 ちゃんと育ててなかったってことだから。

 それに、きっとこの数十年で殺害した人間の数もかなりのものに上ると予想できる。

 「ええい、わがままを言うでないわ!」

 怒声を上げて、どこから出したのかロープを引っ張るダレアス。

 「あー、なるほどー」

 思わず、平坦な呟きがもれるオレ。

 ロープの先には檻の開閉装置。

 檻の中には「奇妙な生き物」の群れがいた。

 人間の腕を尻尾代わりに振る犬、人間の足でのたのたと歩くムカデなどなど。

 不気味なものがうじゃうじゃいる。

 「砕け散った体も再利用してたわけだ」

 気合とやらで、魔力をくれてやる羽目になった術師様の成れの果て御一行様なのだと悟らされた。

 依頼の噂が事実だったことがはっきりしたな。

 「手伝うとの言質は取ってある。約束は守ってもらうぞっ!」

 言ってじぃさんが立ち上がる。

 当然、オレも。

 期せずして二人の間に稲妻が走り抜けた・・・気がする。

 「かくなる上は実力行使じゃぁ!」

 「させるかぁあぁぁ!」


 「やめんかっ! このアホンダラ!」


 一触即発。

 戦争が始まろうというところに怒鳴り声が響いた。

 耳が痛くなるような大声を発したのは・・・干物?

 干からびてしわくちゃ、いや、それでも人間ではあるようだ。

 腰を曲げ、杖をついているためオレの半分くらいしか身長のないバァさんである。

 頭の後ろで束ねた白髪が、地面すれすれで揺れていた。

 「まぁた、性懲りもなくわしのクローンなんぞ作りおってからに」

 旧世代の生き物が、盛大にため息を吐いている。

 「って、まて」

 慌てて「待った」をかけた。

 「ま、まさかっ?!」

 「うむ。こやつの母親じゃ」

 主語を伴わない疑念の声に、バァさんが力強く頷いてくる。

 杖の先でダレアスじぃさんを指し示して。

 指し示されたダレアス爺さんはといえば、さっき出てこようとしていた犬とムカデに殴られていた。

 「ひぃいぃぃぃぃっ! 殴るのならば自分の手でしてくれぇぇえぇぇぇ!」

 「それも、わしの手じゃわい」

 泣きわめく息子を突き放す母親。

 展開は普通のほのぼのとしたホームドラマ。

 なのに、なんだろう?

 この壊滅的にカオスな絵面は。

 いやいやいや、それよりなにより。

 「あんた、生きてたのか?!」

 「ぴんぴんしとるわっ!」

 叫び返して、ゲラゲラ笑う婆さん。

 思わず、クローンだという若き日の婆さんを振り返ってしまった。

 アレが、このひも・・・いや、婆さんになるのか。

 「時の流れとは残酷だな」

 呟くと、視界の隅でダレアス爺さんが涙流して頷いた。

 「ふん。このジジィとて、昔はかわいらしい男の子じゃった。それが今や剥げたジジィ。誰しも年を取る。それが自然の摂理じゃよ。留めるのも巻き戻すのもナンセンスというものじゃ」

 「あー。まぁ。そうだな」

 言っていることは至極まともなんだけど。

 なぜだろう?

 ものすごくいかがわしく聞こえてしまう。

 婆さんが杖を振るたびに、クローンが見事にシンクロして動くせいだろうか。

 

 「それはそうとして」

 

 やおら、婆さんがオレに向き直る。

 何か用なのだろうか?

 そう思って次の言葉を待つ姿勢になったオレを誰が責められようか。

 だって、一番の変態ジジィはキメラに殴られて泣きべそをかいていて、目の前にいるのは杖をついた婆さんだ。

 油断もしようというもの。

 「せっかくじゃ、金を置いてけ」

 にたぁっと邪悪な笑みを婆さんが浮かべる。

 「ぐっ?!」

 直後、おれは何かに羽交い絞めにされていた。

 「うぎょぉぉぉぉぉぉっっっっ?!」

 ビビったね。いやマジで。

 ワラワラと湧いて出たのは、似た姿のババアが五人。

 「ひょっひょっひょー」×6

 不気味な笑い声に本気で寒気がした。

 「うぐぅ、あの有能な母が盗賊になるとはぁぁぁぁっっっっ」

 魂からの叫びをダレアス爺さんが上げた。

 血の涙を流して、地面を叩いている。

 「もしかして?」

 邪悪なのはこのババアで、じじぃはまだマシな方だったのか?!

 信じ難い思いで婆さんに目を向けると、舌なめずりしながらオレを見ていた。

 ひぃいぃいいいいいいぃっ!

 「なぁーに、こわいのは一瞬だけさ。あとはほれ。ちゃーんと無事返してやるわい」

 そう言う婆さんの背後に術師らしき数人の男女が現れた。

 一様に壊れた笑みを浮かべている。

 それもそのはず、まともなのは頭だけで首から下は蛇の身体だ。

 どっかから拾ってきたヒドラに移植されているらしい。

 何かで眠らされ、目を覚ましたら身体が蛇になっていた・・・そら壊れるわ。

 って、待て。

 「それ、無事違うっ!」

 全力で否定した。

 「だいじょぶじゃ、天井の染みを数えているうちに終わるから」

 終わらされてたまるか!

 冗談じゃない。

 とはいえ・・・。

 現状はため息が出るほど悲しいものとなっている。

 若い女性ならともかく、ババア五人から集られているだなんて。

 これなら、蚊に集られる方がどれだけいいか。

 困ったものである。

 「はぁ」

 悲しすぎてため息。

 自分がかわいそう過ぎる。

 「あきらめがついたかの?」

 オレのため息を自分に都合よく解釈したようで、婆さんがうれしげに笑う。

 でも。

 「んなわけあるかぁぁぁぁぁあぁぁぁっっっっっっ!」

 全身全霊込めて叫んだ。

 もともと、オレはここにクエストできている。

 何の用意もしていないわけがない。

 ちゃんと事前の仕込みは済ませてある。

 「げぎゅ」

 背後から、カエルが潰れたような声が聞こえた。

 オレの叫びで起動するよう設定しておいた結界の効果だ。周囲五十センチから一メートル内を有効範囲とするドーナツ状の重力結界。

 自分を安全圏において、接近してきた敵の動きを封じるためのものだ。

 背後からしがみついてきていたババアどもなど、ひとたまりもあるまい。


 結局のところ———。

 オレはジジィとババァ双方を役人に突き出し、いくばくかの謝礼をもらった。

 従魔ギルドにも報告。これまたいくばくかの謝礼をもらってある。

 どちらもサボテンエビに比べたら、正直何の価値もないような金額だったけどな。


     閑話休題 キメラたちのその後


 そうなのだ。

 何よりも頭が痛かったのがそれである。

 ジジイとババァを縛り上げはしたが、辺りをうろつくキメラたちの処理に頭を痛めていた。

 いや、いいよ?

 手足が若いころのババァってだけのキメラなら即座に殺せるさ。

 だけど、だけどである。

 頭が人間のヒドラはさすがに躊躇いが出た。

 身体は確かに魔獣だが、頭は人間なのだ。

 なんのケアもされていないせいで、壊れた笑いを浮かべるだけとなっているが紛れもなく人間。

 それも悪人ではない。

 善意の被害者たちである。

 介錯よろしく、首を刎ねて片手拝みとはいかない。

 心臓がないんだから死体でいいんじゃね?

 なるほど、その考えはある。

 だが、それで言うとSF系の話でありがちなアレ。

 脳だけをロボットに移植して生かす、アレは人権を認めないってことになってしまう。

 ああいったキャラクター好きのオレとしては、そんなこと許せなかった。

 それに。

 「かまわず殺してくれていいわよ」

 ヒドラの頭のひとつにそう言われた。

 ババァが気を失って、使役魔法が切れたのだ。

 精神的に壊れかけているのは事実だが、完全に壊れているってわけでもないらしい。

 使役されていない間は自我が現れる。

 つまり、「脳死には至っていない」のだ。

 「きゅい?」

 頭を抱えていたところで、うちの娘とは違うヒドラが声をかけてきた。

 「あ・・・」

 ポンっ。

 ガッテンした。

 ヒルダの擬態を使うという方法がある。

 人の体を擬態してもらって分離、頭を挿げ替えるのだ。

 「どれどれ・・・」

 辺りを見渡す。

 合成獣は専門分野ではない。

 しかし、術師の端くれ。

 これだけの設備と道具、材料があれば・・・。

 うん。

 ヒルダを連れてくればできそうだ。

 大量の資料もあるしな。

 被害者たちも術師。

 ジジィとババァのやり方を観察していたようで、助言ももらえた。


 で。

 「見事よね」

 起き上がった蘇生第一号が首を振る。

 うまくいったようだ。

 結果として女性二人と男性三人が復活した。

 我ながら完璧な術を施したものと思う。

 オレは彼女らにまとまった金を渡して、自由を与えた。

 なのだけど。

 「行くとこもないし」

 「死んだことになってるからね」

 女性二人はついてくるつもりらしい。

 男性三人はそそくさと去ったというのに。

 なんで!?

 「術が時間経過で崩れたら、直せ!」

 納得の答えと、殺気を含んだ瞳に気圧されてしまいましたよ。

 こうして、旅の仲間が増えたのだった。


名前:シェルフ・ボードフロント。

種族:人間(異世界転生者)。

職業:冒険者(冒険者ギルド所属の結界師、メインスキルは『調理』)。

スキル:1、『調理』。2、『境界』。3、『収穫』。4、『釣華』。5、『土操作』以下『?』。

手に入れた食材:竹モドキのダイコン、イモしょうが、ニンジンセロリ、チューリップに見えて花がピーマン、バラツタネギ、稲に見えて黄色いイクラ、鶏のむね肉、ヒドラの首ウナギ、木の実だけどエンバク。黄色くて地下になるナス。白い根キュウリ。緑色のカブ。落花生みたいなカボチャ。キノコの牛筋肉。臭い消しの野草と『メーメー』の血で作った『赤コンニャク』。見た目がナスのオレンジ色のはんぺん。青味の強い緑色水草昆布。木になる緑の白身と茶色の黄身卵。木の皮で鰹節、でかすぎシイタケ、束状エノキにヒマワリの種的胡麻。ツタジャガイモ。アジマグロ。タタラウマヅラハギ。サボテンエビ。

使い魔:闇属性のリクガメ『アントン』、ヒドラ『ヒルダ』、砂金シジミ五匹。ハーピー『キャルナ』。

同行者:トレフール、トーア母子。女性術師2名。




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