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底雪丸の過去  作者: ニビ
6/10

第五話

出会い

イラストは渦屋シュウイチ様(Twitter ID:Uzuya_syu)よりいただきました!(掲載許可済)

 

挿絵(By みてみん)



 そう長くはない今までの俺の人生で、大きな出会いは二つある。ひとつは言うまでもなく彼。そしてもうひとつは、雪柳。このおちゃらけた白い狼獣人の男との出会いはとある店が舞台だった。


「そこ、あいてる?」

 それは表通りにほど近い、食堂の中だった。食堂といっても茶店に毛が生えた程度のもので、道に面した場所に壁はなく、開けている店だった。それでもこの界隈ではそれなりに人気店で、道のそばまではみ出したガタつくテーブルに俺は座っていた。

「あいてる」

 短い答えに気を悪くした風もなく、その男は「悪いね」と断って俺の前に座った。俺も自分が食べていた熱い麺の入っている器を自分の方に少しだけ寄せて、彼のスペースを確保してやる。相席が当たり前のこの店ではよくある光景だった。

「それってこの店の名物だっけ? 米粉の麺に赤ヒラ(唐辛子のような木の実)のスープだよな。うまそう。でも俺、辛いのちょっと苦手なんだよな」

 やけに馴れ馴れしく話しかけてくる目の前の白い狼獣人の男は、俺の器を凝視していた。人の食ってるもんじろじろ見んなよ、と思いつつ俺はまた麺をすすり始めた。

 綺麗な男だった。身なりもいい。このへんではよく見る、厚い布を織って作られた服は古着ではなかったし、耳につけている鶯色の飾りも細かい縮緬細工で、手がかかっているぶん高価だとわかった。その飾りも服も、真っ白な毛と金色の瞳によく合っている。

「あー、やっぱ辛いわ! いや食べてるうちにうまくなってくんだけど、でも辛い」

 目の前の男は、いつのまにか俺と同じ料理を頼んで、すぐに出てきたそれを食べながら笑っていた。

 反応もしない俺によく笑う奴だな、と思いながら俺は汁まで飲み干して、立ち上がろうとした。そのときだった。


「底雪丸、だろ?」


 にやりとした顔で、男が俺を見ていた。金属の箸を持ったまま、まっすぐに俺を見つめている。

「そうだ」

 俺は否定しなかった。動揺を表に出してはいけない。薄ら暗い日々で学んだことのうちのひとつだ。この男の目的がわからない以上、下手に攻勢に出るのもまずい。

 俺が肯定すると、狼獣人の男はぱっと嬉しそうな顔をした。

「やっぱりか! いやー、ボスにすげー強い白イタチがいるって聞いてはいたんだけどさ。いや厳密にはあんたは一団に属してはいなくて、あのジャガーに師事してるだけってのは聞いてるけどさ。なんか、歳が近いやつがいるって聞いてつい。俺ほんとは女の子にしか興味ないんだけどな」

 ぺらぺらと喋り始めた目の前の男に呆れて、俺は何も言わずに黙っていた。

「あ、名前も言ってなかったな。おれ雪柳。見ての通り白い狼だぜ」

 よろしくな、なんて言いながら出された手を、俺は無言のまま握った。暗器がないのはわかっていたからためらいなく手を取ったが、いまだになぜ俺に声をかけてきたのか分からない。だがそれはすぐに雪柳と名乗るこの男が明かしてくれた。

「俺、これでもそこそこいい家の出でさ。ワケあってこの組織に入ることになったんだけど、裏社会のこととかよく分かんねえの。だから、俺に教えてくれねえか?」

「見返りは?」

 俺はわざと冷たい声で言ったと思う。金持ち息子の道楽に付き合うほど俺は暇じゃなかったし、初対面でこいつを信じる気にもなれなかった。

「知識、かな。俺、いちおうそれなりの学校出てるから。少しだけど医療もかじってる。一団にある本とか、あのジャガーよりはいろんなこと教えられると思うよ」

 そう言った雪柳の目は意外なほどまっすぐで、俺は少し驚いた。雪柳は彼を通して俺が一団から本を借りて勉強していることも知っているようだった。

「その条件なら、いいよ」

 間を置いてそう言った俺を、雪柳は一瞬驚いた目で見てから、ありがとうと笑った。







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