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底雪丸の過去  作者: ニビ
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最終話



「儀式、終わったか?」

 ふわ、とあくびをしながら雪柳が訊ねる。上着を羽織りながら、俺は答える。

「ああ。待たせたな」

 まったくよ、いつもいつも。本当に必要なのか?

 ぶつぶつと文句を言いながらも俺の儀式が終わるまで待ってくれるこいつは、いいやつなんだろう。俺は身支度を済ませると、烏の濡れ羽色の刃物をきちんと仕舞う。

「早くあっちの茶店に行こうぜ。あの店の茶は干し果物の香りがしてうまいんだ」

「そうだな」

 短く同意して、雪柳の隣を歩く。


 彼を殺してから、俺は彼の仕事を引き継いだ。正式に一団に属し、なんの因果か雪柳と組み、こうしてふたりで仕事をこなしている。

 儀式も、俺はやるようになった。彼がやっていたように、自分の手で殺した獣人と俺の血を混ぜて陣を描き、舞を行う。記憶の中の彼をなぞっているだけだから、彼のようにはいかない。だがそれでも、かみさまに届けと祈りながら毎度行っている。

 彼を殺してから、かみさまを見たことはない。あれが本当にかみさまだったのかも、今となっては分からない。だが俺は信じている。彼がいつも、どこかを見ていたのはきっと、かみさまを見ていた。

 そして、彼はきっと、俺と違ってはじめてかみさまを見た瞬間に、かみさまを理解してしまった。

 雪柳に言ってもたぶん、分かってはもらえないだろう。あいつはかみさまを見ていないし、あいつにとって彼は今でも自分で作り上げた神を信仰する精神疾患のジャガーでしかない。


「おい、行こうぜ底雪丸」

 いつのまにか足が止まっていた。雪柳が催促をする。

「ああ」

 俺はまた短く答えて、足を動かす。ぼんやりとあの日のことを思い出しながら、雪柳の後を追う。


 あの日見た圧倒的な光。無数の光のなかに、あらゆる獣人の姿を見た。だから、かみさまの中に、きっと彼はいるのだ。かみさまを追い続けていれば、彼にまた出会えると俺は思っている。


 いま思い出しても、やはり俺はあのひとが好きだった。自分の手で彼を殺したくせに。

 もしかしたら、俺も彼のように矛盾しているのかもしれない。

 気まぐれに俺を拾い、裏の道を歩ませ、敵わないと眩暈がするほど見せつけられても。

 血に塗れたその手が、優しく俺の手をつつんでくれたことを、俺は覚えているのだ。

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