第9話 完成されたS/探求心のレール
「翔太郎! 資料の穴埋めが終わったよ。さすが僕の捜査力といったところだ」
放課後。俺とシェリフは事務所の裏の部屋で会議をしていた。
シェリフの作成した資料を渡され、俺はページを開いた。
「じっくり見たまえ。もしわからないことや気になることがあればすぐに僕に聞いてくれ」
「ありがとな、シェリフ。でもまさか数日で作るとは思ってなかったぜ」
俺たちが転校してきてまだ数日しかたっていないのにもかかわらず、俺が百瀬の配信に出たり柳と雑談している間にシェリフはちゃんと捜査を進めていたらしい。
資料を見ると、最初に百瀬についての情報がまとめられていた。
百瀬心音。今回の捜査の依頼人だ。高飛車なお嬢様なところがあり、最初に会った時から無理難題を押し付けてきた。
表は普通の高校に通う学生だが、裏の顔は巷で話題の配信者のこころももである。表の顔の方がよっぽどツンデレなのに、裏の作った性格でツンデレ系配信者を自称している。
今回の捜査の目的であるストーカーの疑いがある龍馬とは幼馴染の関係で、昔から家族ぐるみの付き合いがあるらしい。
途中に『軽量物語犯罪の耐性がある可能性あり』と記述されている。
耐性がある、というのは主人公である龍馬の物語に振り回されることなく自分の人生を歩むことができるという意味だ。
他のヒロインはおそらく自分が気づく前に主人公のことを好きであると認識させられているが、百瀬にはそれがない。
幼馴染という最も近しい存在であるのにもかかわらずだ。
「ここちゃんは実に興味深いね。配信者というのはなかなか見ないし、面白い少女だ」
「あいつの自己満足の配信に俺が巻き込まれたのは納得いかないけどな」
俺は大体知っている情報が書かれていた百瀬のページから次のページに移った。
二ページ目は龍馬について記述されていた。
関わりはほとんどないし気になるところだ。
小泉龍馬。今回の捜査対象、依頼人の百瀬のストーカーをしているらしい。
基本的に人には爽やかな態度で接していて、男女問わず評判はいい。
中学まではいじめのようなことをしていてあまり評判はよくなかったが、高校に上がったタイミングで不気味なくらいの人気者になった。
いわゆるハーレム主人公と呼ばれるようなタイプで、よく女の子に囲まれている。
趣味がアニメやライトノベル、ゲームで、オタク趣味を持っているが、あまり表には出さない。
まりょという名前でゲームの大会などにも参加しているが、基本的に勝っていない。
「龍馬はオタク趣味を抱えているようだ。おそらくここちゃんの配信を見つけたのも女子配信者漁りしていたからだろう」
「なるほど。最近の奴は女って聞くだけで目の色が変わるなんても聞くもんな」
「翔太郎は女運がないからね。嫉妬する気持ちもわかるよ」
「別に嫉妬はしてねえ!」
次のページを開こうとしたところで、シェリフに資料ファイルをとられた。
「おい、なにすんだよ。まだ読み終わってないんだけど」
「続きは別の機会だね。今はまだ君は見るべきじゃない」
シェリフはやっぱり面白がっているらしい。こういうことは最近よくやってくる。なんでも俺が必死に捜査してるのが面白いとか。
「相変わらずその性格の悪さは折り紙付きだな。まあいい。探偵の基本は足だからな、シェリフに頼らなくたって何とかやっていけるんだよ」
「そういいつつも、本当に困ったら僕に泣いてすがってくるんだろう? 君の行動パターンは分析がとっくにできているよ」
シェリフとはまだそんなに長い付き合いというわけでもないが、俺のことを良くも悪くも理解している。
なんだか手のひらの上で踊らされているようでイラつくが、俺がシェリフの予想を上回ればいいだけの話だ。
「俺はお前に頼らなくたって探偵をやっていける。お前はあくまで助手だからな」
「はいはい。そういうことにしておくよ」
シェリフはまるで子供をあやすようになだめてきた。
どこまでも人を小馬鹿にしたような奴だ、でも憎めないのだが。
シェリフには伝えていないことがある。柳が心を読めると自称していたことだ。
こいつに伝えたら捜査どころじゃなくなるのが目に見えてるからな。
情報伝達をしていないのはお互いさまというわけである。
「そういえば翔太郎。仁後刑事から連絡が入っていたよ。警察を便利屋だと思うな、だってさ」
仁さんに調べて欲しいことがあったのだが、さすがに忙しかったようだ。
「そうか、あとで俺からも仁さんに連絡入れとくよ」
仁さんのことだからどうせ裏で調べてくれてるんだろうけどな。