第5話 配信者M/人気者の実力
『こんもも~! こころももだよ。今日はおうた枠! リクエストも募集してるから、みんなばしばしコメントしなさいよ!』
ディスプレイに映っているのは、桃色の髪をした少女。いわゆるVTuberというやつで、最近話題の配信者だ。
聞き覚えのあるアニメ調の声の正体は、俺の依頼人でもある百瀬心音。
見るまでいまいち信用していなかったが、本当に配信者をやっているとは思わなかった。
なんで俺が百瀬の配信を見ているのか、それはシェリフの一声がきっかけだった。
なんでも「百瀬心音の配信は実に興味深い、君も見たまえ」とのこと。
俺は普段配信者なんてものは見ないが、物は試し。一体何が興味深いかわからないが、とりあえずみてみよう、と思った次第だ。
百瀬に連絡をすると「ちょうどいいわ。見て欲しいものがあるから、今日の配信を確認して頂戴」なんて言われた。
これも仕事だと思い、だらだらとみているが、すごい勢いだ。
同時視聴者数は配信開始してから数十分で千人をこえている。百瀬が歌い始めるとコメント欄が滝のようなスピードで流れる。これが話題の配信者なのか、と少し感心する。
しばらく見ていると、気になるコメントが流れてきた。
『ももちゃんって彼氏とかいるの?』
調べたところによると百瀬心音、もといこころももはアイドル売りというのをしているらしい。基本コラボは女性配信者のみで、男性とは接触しないそうな。
ほとんどの視聴者はそれを理解しているから不躾なことはしない。だが、このコメント主は何度も連投してよっぽど気になるらしい。
『ちょっと! 連投コメントは桃の世界ではマナー違反だよ! ペナルティ追加しちゃうんだから!』
チャンネル説明に桃から生まれた妖精だとか、新世代のツンデレ系VTuberだとか書いてあったがちゃんと設定が生かされるときが来るんだなと感心する。だけどはたして今の百瀬のキャラがツンデレと呼べるのかどうかはわからないな。
百瀬は配信用にキャラ作りをしているみたいだが、普段のほうがよっぽどツンデレキャラだ。
注意はツンデレキャラのほうがしやすいのだろうか。配信に疎くてよくわからないけど、設定が固まってる方が配信の空気もよくて注意しやすそうだ。
『今回はこの辺りでおしまい! また次の配信も見に来なさいよ! それじゃあ、おつもも~!』
終わりの挨拶をして、配信は終了した。
見ていたところ、歌もうまいし合間のトークも面白かったし、特に文句をつけるところがなかった。SNSでこころももと検索してみると一番上に「キャラブレブレで面白い」なんて書いてある。キャラくらい整えたらいいのに。
配信について考えていると、事務所の電話が鳴った。
「成海探偵事務――」
「探偵! 今時間ある!?」
百瀬からの電話だった。正直今すぐにでも切りたいが、仮にも依頼人。話だけは聞いておこう。
「今のところ仕事はないし暇だけど……」
「暇なのね! それじゃあ今すぐ私の家に来て!」
それだけ告げられると、電話を切られてしまった。
仮にも仕事。横暴な依頼人の話を聞いてやらないといけないので、電話を置いて百瀬の家へと向かうことにした。
「よく来たわね探偵。早速仕事をしてもらうわよ」
「急に呼び出しておいて仕事とは、随分偉くなったものだな」
百瀬の家はかなり豪勢だった。家自体は普通の一軒家って感じだが、呼び鈴を鳴らすとメイドが出てきたり、レッドカーペットがあったりして高級感がある。
「実際依頼人だから偉いのよ。今はそんなことはどうでもいいの。あんたには、一緒に配信をしてもらうわ」
「はぁ?」
訳が分からない。突然呼び出しておいて急に配信に出演しろとは。
俺はネットインフルエンサーでもなんでもないのに。
「もういいわ。理解度の足りないあんたに説明すると、最近リョーマらしき人間がコメントを連投してくるのよ。『彼氏はいるの?』だとか『好きな人は?』とか。気づかれてないと思ってるんでしょうけど、IDでわかるのよね。【まりょ】って、昔からあいつが使ってるやつだし。まあそれで、手っ取り早く彼氏役を作ってリョーマとはバイバイしようってわけ」
なんとなく理解できた。本来であればここは『偶然幼馴染が配信しているのを知った俺は彼女の気持ちを知らないふりをする』みたいな展開になるはずだったのだろう。
それが俺たちの介入によって曲げられているってわけだ。
意外と状況は簡単なのかもしれない。
「なるほどな、大体わかった。配信くらいこなせない俺じゃないぜ。いったい何をするんだ?」
正直配信なんてものは一切知らないが、ノリと勢いさえあればなんとかなるだろう。
「今回は歌枠して疲れてるし、雑談配信でいいわよ。ゲリラ枠だから人もそんなに来ないだろうし」
こうして、俺は急遽百瀬の配信にゲスト出演することになった。