第4話 Iの転校生/ラストヒロイン
教室に戻ると、何やら人だかりができていた。
『シェリフ君はどこからやってきたの?』
『居合君とは知り合いなの?』
どうやら人だかりの中心にいるのはシェリフらしい。転校生の洗礼を受けているということか。
このまま教室に入ってもシェリフと同じ運命をたどるだろう。
ここは次の授業の時間になるまでどこかで時間をつぶしたほうがよさそうだ。
3階に上がる階段に目を向けると、見覚えのある少女がいた。
名前は柳桜。龍馬の三人目のヒロインだ。
関係は高校かららしいが、随分と仲良くなったらしい。
資料には妙なことに”まるで作られたような関係”だと書かれていた。
いったいどういう意図でこの言葉を描いたかわからない。
だけど、この言葉を見たときにこの件は軽量物語犯罪の類だと分かった。
「あなた。転校生の子?」
思考を巡らせている内に目の前に柳が来ていた。
「あ、ああ。居合翔太郎っていうんだ。よろしくな」
思わず動揺で言葉が勝手にこぼれてしまう。
「もしかして、心音さんの知り合い?」
つかみどころのない口調に、思わず一歩引いてしまう。
でも、基本的に依頼人との関係は秘匿。ここは他人を突き通さなければ。
「いや、その心音って奴のことは知らないな。そいつがどうかしたのか?」
一歩引いても一歩近づいてくる。
「嘘ついてるでしょ。私、わかる」
この場は引いた方がいい。脳みそが冷静な判断を下してくる。
動揺が下手に表に出るのはまずい。今は離れて冷静に分析したほうがよさそうだ。
「あとでまたゆっくり話さないか? 飲み物がぬるくなっちまったらいけないからさ」
ちょうどさっき買った自販機の飲み物を見せる。
「それもそうね。またあとで機会があれば話しましょ」
「じゃあな」
早足でその場を立ち去る。今はこの女に関わらない方がいい。探偵の直感がそう言っている。
「翔太郎。早くしたまえ。もうすぐ授業が始まるよ」
シェリフがいつの間にか檻から解放されていた。
時計を見ると、もうすぐ授業開始の時間になろうとしている。
俺は急いで荷物をもって席についた。
「翔太郎。何か気になることがあったのかい?」
昼休み、屋上に移動してシェリフと二人で話していた。
「一人ヒロインと接触したぜ。柳桜。あんなに喋りづらいやつは久しぶりだった。なんていうか、喋るのがあんまり得意じゃないのかもしれないな」
思い返しても鳥肌が立ってきそうだ。
「なるほど……クーデレヒロインってことかい。実に興味深いね」
「それで、シェリフの方は何かあったか? クラスの奴らに囲まれて大変そうだったけど」
もしかしたら龍馬やヒロインが接触してきている可能性もある。
シェリフなら俺とは違った視点で話ができるから情報が欲しい。
「残念ながら僕の方は進展は特になかったよ。強いて言えば、クラスの女の子に小泉龍馬と話してみて欲しいと言われたくらいだ」
事件を解決するために俺たちはラブコメをかき乱して止めなければならない。
龍馬たちともかかわる日が来ると思うし、柳ともいずれ話すときが来るのだろう。
「とりあえず順番に関係を築いていこう。まずは金髪美少女の多田玲菜だ」
鍵を開けて鞄から資料を取り出す。
資料に貼ってある写真と、さっき見た現物を見る限りかなりの美少女だ。
金髪碧眼で肩までかかるロングヘアー、そして耳の上あたりについている青色のリボン。ビジュアルは完璧だ。
本の挿絵で主人公と写っていてもおかしくない。
百瀬との関係も気になるところだが、いまは気にするところじゃないだろう。
「多田玲菜。彼女には僕も目星をつけていたよ。小泉龍馬を観察していたが、いつも彼女がそばにいたからね。それに、メインヒロインである百瀬心音との関係にも溝があるようだ、きっと早い段階でその問題に触れることになるだろう」
炭酸飲料を口にしながらノートにつらつらとメモをしている。
これはシェリフが状況を分析するために行っているもので、調査の根元に関わってくる重要なノートだ。
シェリフの視点から、物語を形成する。
本来は主人公である小泉龍馬の一人称視点の物語だったものを、別の視点から物語を展開することで新しい物語が生まれる……らしい。
正直シェリフが突発的に言いだしたことだからよくわからないが、今までの事件はこの分析の影響もあってすんなり解決している。頼りにしているのは確かだ。
「そうだ翔太郎。君にはしてもらいたいことがあるんだ。多田玲菜は僕が調査を進めておくよ」
「ああ、わかった」
いったい何をするのかわからないが、ここはシェリフのいうことを聞いておこう。シェリフのほうが高校生らしいし、うまく輪にはいれるだろう。