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第2話 Pな探偵/上司と相棒

 百瀬が事務所に来た翌日。

 俺は百瀬からもらった資料を持って知り合いの家を訪ねていた。

 家の門には『仁後(じんご)』の文字。

 和風の建物に、綺麗な花たち。豪華な松の木と鯉の泳ぐ池がある。

 呼び鈴を押すと、しばらく音が響いた後に扉が開いた。


「はーい、どちら様で……って翔太郎かよ。何の用だ? 知ってるだろうが今日は貴重な休日なんだよ。面倒ごとに時間を割きたくないんだ。手短に頼むぞ」


 出てきたのは俺より十個ほど年の離れたスーツを着た男性。

 顔にしわが寄っていて普段から表情筋が動いているのがわかる。


「また依頼が入ってさ。仁さんの力が必要なんだよ。ちょっとだけでいいからさ」


 そう言いながら持っていた資料を仁さんに渡す。


 相手の名前は仁後啓二(けいじ)。街の警察官って奴だ。名前からも警察になるべくして生まれた、みたいなとこもある。

 仁さんとは学生の頃から関わりがあり、いつもよくしてもらっていた。

 そして、俺の本当の顔と名前を知っている人間の一人でもある。


「ストーカーの案件か。こいつは警察もめんどくさがって対応しないだろうなぁ」


 仁さんは苦笑いをする。この街はストーカーの案件が多発していて、仁さんも俺も何度手を焼いたかわからない。

 この街ではストーカーの事件が多発していて、警察も日常のように対応していた。

 だけど、調べたところによると最近は捜査方針が変わってストーカーに関する事件からは手を引いているらしい。

 今こそ俺たち探偵の出番というわけだ。


「それで、学校に入らねえといけないんだ。しかも依頼人は転校生としての警備をご所望でな」


 何度聞いてもばかげた話だ。大人を高校生として入学させるなんて。


「それでここまで来たってわけか。しょうがねぇな。旧知の仲のよしみで助けてやるよ」


「さすが仁さんだ! 頼りになるぜ」


 仁さんは昔から嫌そうな顔をしながらも手伝ってくれていた。


「こういうときのために空の籍を用意してある。これで何とかなるだろ。でも、学校での不祥事はお前の責任だからな」


「わかってるって」


 普通の街だったら空の籍なんてもんは用意できないだろう。でもこの街は普通じゃないから、それが当たり前のようにできる。


 しばらく話し合っていると、再び仁さんの家の呼び鈴が鳴った。

 

「すまねえな。また来客みたいだ」


 なんだか嫌な予感がしたので、仁さんの後ろをついて行く。

 

「はーい、どちら様で……って、こんどはシェリフかよ」


「なにやら興味深い事件を追っているらしいね、翔太郎。その事件、僕にも調査させてくれないか?」


 シェリフと呼ばれた日本人顔の青年は、俺もよく知る人間だった。

 本名は別にあるが、基本的に呼ばれる名前はシェリフ。俺の探偵事務所に勤める人間で、いわば相棒みたいなもんだ。

 何かと調査することが大好きで、探偵になるべくして生まれたような人間である。


「どうしてここに翔太郎がいるってわかったんだ?」


 仁さんが手招きしながら聞く。


「簡単な推理さ。今回の事件はおそらく軽量物語犯罪。その類の事件を追っている仁後刑事のもとに行かないわけがない」


 軽量物語犯罪、というのはあくまで仮の名前だが、この街ではそう呼ばれる犯罪がよく起こる。

 軽くて読みやすい物語、ライトノベルのような内容の事件がこの街では後を絶たない。

 一見するとたまたまそれっぽい人間関係が構築されただけのように見えるが、実際は違う。

 例えば、なんの取り柄のない男子高校生が転校生との出会いをきっかけに恋愛に花を咲かせるとか。全くモテなかった男子が高校に上がった途端にモテモテになりハーレムを形成するとか。

 この街ではそんなことが当たり前のように起きるが、多くの人間が違和感を持っていない。

 裏の人間が手を引いて意図的にこういう状況が作り出されているのだ。


「なるほどな。それで、シェリフもその高校に通いたいってわけか?」


「流石仁後刑事。翔太郎とは違って物分かりが早くて助かる」


 今さらっと喧嘩を売られたような気がするが、ここで手を出すほど子供じゃない。

 あとでシェリフの給料を差し引いておこう。


「今回の事件。かなり興味深い。今回のヒロイン役の少女はVTuberというネットで活動している配信者なんだろう?」


 嫌な予感がする。


「彼女のことは調べたよ。実に興味深い! ツンデレ系VTuberがこんなにも面白いとは思わなかった。翔太郎、君は知らないだろう? こころももというVTuberを! 彼女は一体どうやって短時間であんなに膨大な登録者を付けたんだろう。彼女自身の力なのか、軽量物語犯罪の影響なのか。謎が深まるばかりだ」


 オタク特有の早口みたいにべらべらと思ったことを口にするシェリフを見て、俺と仁さんはあっけにとられてしまった。

 いつものことだが、こうやって暴走特急になってしまうともう止められない。

 だが、シェリフの捜査の腕はかなりのものだし、ここは協力してもらうほかないだろう。


「落ち着いてくれシェリフ。お前が興味をそそられる内容だったのはわかった。でも、とりあえず目的は達成したし帰ろうぜ。仁さんの家に長居するのも悪いし」


「なんだ、もう帰るのか。まあ手配は済ませておくから、来週には例の高校に通えるようになってると思うぞ」


「ありがとう仁後刑事。それじゃあ何かまた興味深いことがあったら教えてほしい。よろしく頼むよ」


 そう伝えて仁さんの家を後にした。

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