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ある兵器の短くて長い話

作者: きゃきゃお

「あなたのその力、人類のために使ってみない?」


 その女性は僕に感情を与えた。

 その女性は僕に人間以上の知能をくれた。

 その女性は僕に愛を教えてくれた。

 戦うために生まれた僕は初めて喜びを知る。



―私はあなたに感情を与える、だからあなたは私に力を貸して



 いつからだろうか、世界の荒廃と共に僕の目の前から消えた赤い瞳のあの人を探し始めたのは……。

 僕は草木一本残らず消失した大地をただ歩き続けた。 

 砂は僕の体の隙間に遠慮なく入り込んでは嚙み合わせ悪く何度も僕の歯車を狂わせる。そのたびにキミが僕の体を治しにまた目の前に現れてくれるのではないかと淡い期待を胸に宿し僕はキミを待つが、現実は人間にも僕にも辛く結局キミが僕の目の前に現れることは一度もなかった。

 そのたびに僕のこころは泣いていた。

 僕の顔からは涙は流れない、流れてしまっては僕の体が錆付いてしまうとキミが僕を気遣ってくれたんだよね……。

 でも、こういう時泣けないってことはすごく辛くて苦しいことなんだよ。

 夕焼けに染まる砂漠、オゾンの薄れたこの大地には有害な紫外線が容赦なく浴びせられるが、今この大地にそれを気にする者はだれ一人としていない。日焼けを皮膚のシミやしわを考える者はもうこの世界にいない。

 13ⅿと18tの巨体は何もない、何も残らなかった世界にその駆動音を鳴り響かせて自らの存在を示すが、存在とは第三者に認知されて初めて認められるものだ。つまり彼はこの世界に存在しない、彼はこの世界に認められていないのだ。

 彼は一人を嫌うが誰かと群れることも恐れていた。

 彼の仲間がこの世界に存在するかもしれない、だが彼以外に感情を知性を愛を知る者は存在せず彼は彼を愛する者がいないことを知っていた。

 だから彼は人間を探している。

 自分を一つの命として、一つの人格として自分を大切にしてくれる彼女を彼は探し続けていた。

 だが、彼の体を動かす燃料は底を突き始め次第に体が動くことを拒む。

 あと数キロメートル、いや、あと数百メートル歩けば彼女に出会えるかもしれない。しかし、僕の体は完全に歩みを止め前に進むことはそれ以上なかった。

 彼に残された支えは燃料でもモーターでも近代の最先端文明が生み出した最高の|からだ《ボディ》でもなく、一人の人間……彼を生み出した彼女に与えられた偽りの感情だ。

 人間をなぞったようにプログラミングされた『そうあるべきと』教え込まれた贋作、人間を模写したその偽りの感情だけが彼を支え続ける。


 動かなくなった彼を大地は覆い隠し、いつしか彼は完全に外界から閉ざされ深い眠りにつく。

 最後まで彼は誰かを探し続けるが、彼を探す者は誰もいなかった。

 彼は誰かのために動く都合のいいマシーンに過ぎなかった。

 感情を持つ彼はソレを知っている。だから彼は涙の流れないその体で一人泣き続けていた。

 そんな過去は彼を眠りから覚まさせるには十分すぎるほどであったが、彼は目覚めることを拒み続けた。


 彼を覆い隠す大地は再生をはじめ緑が溢れる。

 朽ちた建物は跡形もなくその大地に飲み込まれそこにはたくさんの花が咲く。

 新たな命、きれいに浄化された水面から現れた四足歩行の生き物は独自の進化を続け、ある種は二足歩行を覚え、ある種は何者にも劣らない牙を得て、ある種は会話を可能とする知性を身につけた。

 服を着て、言語を持ち、そして文明を生み出したその生物は再び生存のための争いを多種族との間に始める。

 ソレが歴史、ソレが彼らだ。

 その存在は彼らを知りそう悟る。

 彼は彼ら以上の知能を持つ、だから彼らの行為が愚かであるかを知っているが彼はソレを否定することはなかった。

 ソレが彼らであり、ソレが生きることであると彼は自分に認めさせ彼に備え付けられた機能の暴走を押さえつける。

 悪くなった水は浄化せねば生き物は飲むことができない。浄化こそが他の種族にとっての平和であり発展のためには必要な行為であった。

 しかし、彼がソレを使い後悔を覚えたためにソレは行われず、必要悪は自らこの世界に対し背を向けていた。

 幾ばくかの争いを経て彼らはようやく安息を手に入れる。しかし、その安息とは次なる争いまでの休み時間であり、争いとは意図せずタイミングで繰り返されてしまう。

 その種は同種の敵、言語や容姿あるいは肌の色でグループを作り出しそれに当てはまらない者を迫害する。

 手に持つものはある時代には石、ある時代には剣、ある時代には鍬、ある時代は鉄砲、ある時代にはミサイルとソレはその種の歴史に合わせ進化し対応し始めていた。

 再び彼らは種の半数以上を滅ぼす戦争を行った。

 そのとき悠久の時を経て再び彼は目覚めその力を発揮する。

 初めて見た新たな大地、新たな種によって行われる残虐な行為を目の前にして彼は涙の水滴一つ流れないその顔に怒りを浮かべ種の浄化を行った。

 他の種を守るため、他の種から平穏を奪わせないために……。

 それから数百年その種から、その種が紡いだ歴史には100年の空白が生まれた。

 しかし、その時間には人々に幸福も悲劇も歴史も生まれなかった。

 その最後に残された力までもを使ってしまった彼はその巨体をゆっくりと大地に寝かせ再び永い眠りにつく。


 再び彼は日の光を浴びるのはその空白の100年がなかったこととなる頃。

 掘り起こされた彼の体には大量のケーブルが繋がれ、彼が何かを守るために与えられた腕には何かを破壊するための武装が施されていた。

 腕に固定された銃火器から垂れ下がる弾の連なったソレは完全に彼の意志に反している物だ。

 彼は再び怒りを覚えその建物を破壊し逃走を始める。

 その巨体から鳴り響く駆動音は彼の望み通りその存在を認めさせるモノであった。

 人々の目、新たに繁栄を築いた種は彼の存在を認知し再び彼は世界に存在を認められたが、彼はソレを後悔する。

 誰もいない、何もいない、そんな場所が存在した。

 生き物が近寄りたがらない山の中、彼はひっそりとその存在を世界から隠す。ここにいることを知られてはいけない、そう思うのは初めてだった。

 いつもは自分を見つけてほしかった。そうすれば彼女に見つけてもらえる、また彼女に会えると思っていた。

 しかし、人間の一生は短い。彼らのように永遠の命、体がそこに存在する限り生きていける彼とは違う。


 彼は改造された自分の体を見てため息をつく。呼吸をするように排気口から空気を出す行為だが、それも『そうあるべき』とプログラムされた人間らしさを実行したまでだ。


「す、すごい……本物だ。本物のロボットだ……」


 彼はその瞬間までその声の主の存在に気が付かなかった。

 雨が降り続ける山の奥地に一人迷い込んだ少年、黄色いレインコートのフードは完全に彼の顔を隠しこちらからはそのフードから覗く日焼けを知らない不健康ともとれるほど白い肌と自らの力で発光する深紅の瞳。

 彼は自分に感情を与えてくれた彼女をその少年に重ねる。それほどに二人は似ていた。


『なぜあなたはここにいる……?』


 そのまるでそのロボットは自分を知っているような口調の彼の質問に対し少年は首を傾げ口元を触りながらその質問に対しての答えを考える。

 だが、彼はソレに対しての答えは求めていない。少年には今すぐこの場から離れてほしかった。


「なぜ僕はここに居るか……それは単純な質問に聞こえるが哲学的なことだね。工場での騒ぎと最後に目撃されたキミの姿から位置を割り出して会いに来たが、僕がなぜこの場に存在するのか、本当の意味でソレは僕にも証明することができない。キミだってなぜその巨体で生まれたのかなんてキミ自身誰にも説明できないだろう?」


 その少年は容姿とはかけ離れた知性的な話し方で返事をする。彼からすれば少年は子供でそのしゃべり方は誰かの真似をしているように見えてかわいらしいモノであったが、彼の後ろにちらつく彼女の雰囲気に心乱されてしまう。


『私は世界の秩序を保つために生まれた自立型戦闘兵器です』

「それはプログラムされた結果だ……しかし、その結果に向かうための試行錯誤、誰かがキミにかける思いなんてキミは知らないだろう?」

『私は他の種の存続に影響を与える種を浄化するのが目的です。だから私はこの体に無断で改造を施したキミたち人類を再び浄化するかもしれない。あなたはそんな私を見て怖くはないのですか?』

「怖いか怖くないか……ハッキリ言ってすごい怖いよ。だって僕は今、人を殺す鉄の塊と会話しているんだ。どのようにしてその会話ができるようプログラムしたのか、キミを作った人に会って話がしたいと思っている」

『私を作った方は遥か昔、今のあなた達人類の前に存在した人類です。しかし、現在は私の手によって浄化され生き残りは存在しません』


 話過ぎたことに「しまった」と口を抑える私の反応に少年は目を輝かせていた。

 ただの少年ならそれで終わっていただろう。しかし、この少年は普通の子供とは違かった。


「僕たちの前の人類……それはキミが古代文明であるってことか!」

『そうではない……』

「いや、僕を騙すことはできないぞ!キミは自ら口走った……僕らの前に滅びた文明があるとね。その文明は今以上に発展していた何よりの証拠はキミのその高い知性だ」

『私は頭悪い……高性能うらやましい……』

「やっぱり僕の考えは正しかった!僕らの前に人類はすでに存在したんだ……そうでなければ数々の発明、文明の発展がこんなにも急速であるなんて説明ができない」


 私の猿芝居なんかに興味を見せることなく少年は自分の世界に入り込んでしまった。彼の立てる仮説、考察に利用できる当事者である私をおいて彼は無邪気に喜びまわっている。


「なあロボット!キミに名前はあるのか?」

『私には型式番号しかありません』

「そうか……ならこんな名前でどうだ!」


 興奮する少年は身につけていた黄色のレインコートを脱ぎ捨てると現れたのは色素の抜けきった白い髪の毛と無邪気な笑顔。

 彼女は数千年、いや数万年という悠久の時を超えて私の方に会いに来てくれた。

 そのとき彼が自ら封印していた彼女との記憶、思い出すことによって悲しみが生まれると言って封印したその蓋が無意識のうちに解放される。


―あなたの名前はメディス……ある国の救世主の名前よ


「ある宗教では数億年前にこの世界を滅ぼし世界を再生させた神がいる。だから彼の名をとってキミの名前は今日からメディスだ!僕はキミに世界を見せてやる……」


―だからキミは僕に力を貸すんだ。僕という存在、この人類の生きる意味を証明するためにキミはキミの持つすべてを僕に教えてくれ


AIの発展こそ我々の進化の分岐点であると私は考える。

恐れていては科学に発展はない。

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