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第12話 ゾンビマン

 ――エリアスギルド、酒場カウンター。


「えーっ、一本角の羊丼が千二百ラック……、ジャイアントスネークとお喋り大根のから揚げが千五百ラック……、二足歩行鹿のステーキが千四百ラック……。他も大体、千ラックくらいすると……うーん」


 買えねえ!!!

 持ってきた五百ラックで買えるものが一つもない!

 こんなに高いとか聞いてねーよ……!


「えっと、ご注文は?」


 メニュー表をずっと見つめて注文をしない俺にしびれを切らしたのか、店員が催促をしてくる。


「ちょっと待ってください。……あのー、このミニデブカエルのフライが欲しいんですけど、三つ入ってる内の二つを抜いて一つにして、値段を割引とかできませんか……?」


 メニューの中で一番安いミニデブカエルのフライ、お値段は九百ラック。

 三分の一にすれば一つにつき三百ラックだから……。

 俺の五百ラックで余裕に買える、カエルだけにっ!


「すみません。そういったことはできません」


「ぐっ……」


 やっぱそうだよな。

 俺もダメもとで聞いただけだ。

 別に期待はしてなかった。


 しかし、メニュー表みたせいで余計に腹減ったな……。

 はぁ……飯欲しい金欲しい……。


 グゥーッとお腹をならしながら、分かりやすく落胆していると。


「私が払うわよ。ミニデブカエルのフライでいいの?」


 俺に気付いた少女がそう言ってきた。


「いや、いいよ。返せる金ないし」


 さっき金を取りに行った時に気付いてビックリしたが、俺の家にあった使える金は五百ラックしかなかった。

 他は全部借金とか色々と他に必要な金だし、つまりは金を返せる能力が今の俺にはない。

 だから、これ以上余計な借金は避けたい。


「別にこのくらい、返さなくていいわよ。それで、これでいいのよね?」


「え、ああ」


「すみません、これを一つお願いします」


「ミニデブカエルのフライ一つですねー。九百ラックになりますー」


 少女はぴったり九百ラックを店員に渡した。

 その姿が、俺には天使に見えた。


 おごりとかマジかよ。

 なにこの天使。

 天使さん、俺一生ついていきやす!


 ほんの少しカウンターで待った後、俺たちはできあがった料理を受け取り、空いている席に着いた。


「まじ助かった。おごり本当にありがとう」


 真面目に、真っ直ぐな目で俺は少女に感謝を伝える。


「なんかそんな真っ直ぐに言われると気持ち悪いわね。おごりとか全然気にしなくていいから、早く食べましょ」


 そう言って少女は料理を食べ始めた。


 なんだなんだ。

 普通に感謝を伝えただけなのに罵られたんだが。

 ちょっと酷くないか。


 ……まぁいいや。

 腹減ったし俺も食うか。


 俺はミニデブカエルのフライを右手に持ち、かぶりついた。


「んーっ! ふまいなこれ!」


 外はサクッとしており、中は歯ごたえのある食感。

 ミニデブカエルとは名ばかりで、意外と肉厚があるし、マジでうまい。


 黙々と食べていると、あっという間になくなってしまった。


 うまかったけど、やっぱ三つじゃ少ないな。


「それ、何食ってんだ?」


 暇になった俺は少女に話しかける。


「一本角の羊丼っ」


「なるほど。うまそうだな」


「え、さすがにあげないわよ?」


 少女は料理を守るように腕でガードをする。


「いやっ欲しくて聞いたわけじゃねーよ」


 しかし、本当にうまそうだな一本角の羊丼。

 量もそれなりにあるし、これは奢ってもらう料理間違えたか。


 そんな事を考えながら、ジーっと少女が食べる料理を眺めていると。


「あれ、ゾンビマンじゃねーか? やっぱそうだよな、ゾンビマンだよな!」


 鎧を着た冒険者が俺に声をかけてきた。


「だ、誰ですか……?」


 全く見た事のない人、しかもがたいの良い冒険者に突然話しかけられた俺はめちゃくちゃ動揺する。


 すると、少女が俺の問いに答えた。


「この人はあの洞窟の時、ルイスさんの体を運んでくれた冒険者よ」


 洞窟の時……ああ、魔犬の時か!

 この人が俺を運んでくれたのか。


「いやーめちゃくちゃ元気そうでよかったよ。あんたほんとに酷い怪我だったからな。どのくらい酷かったか、詳しく教えようか?」


「大丈夫です」


「ハッハ、冗談だよ冗談。今度助けたお礼にでも酒を奢ってくれよゾンビマン」


 ……なんだそのゾンビマンって!!!

 悪口、悪口なのか!?


 気になった俺は質問をする。


「運んでくれた件は感謝してるんですけど、そのさっきから言ってるゾンビマンって、何ですか……?」


「え? ああ、冒険者たちの間でついたあんたの二つ名だよ。あれだけ魔犬に喰われまくったのに、生きていたからゾンビみたいってことでゾンビマン。かっこいい二つ名だよな――」


「は?」


「んっ?」


 二つ名……?

 えっなんかカッコいい風に言ってるけど、ようはあだ名だよな。

 普通に悪口レベルの。

 しかもあだ名の決め方が安直すぎるし、いじめに片足突っ込んでるだろそれ。


 でもこいつ、多分見た感じ本気で悪気なく言ってるよな。

 ヤバすぎる。早く呼び方変えてもらわないと。


「俺ルイスって言うんだよ。ルイスルイス。これからはルイスって呼んでくれよ」


「ルイスって言うのか、良い名前だな。――俺はクラウディオだ。よろしくルイス」


 そう言ってクラウディオはにこやかに、俺に手を差し出す。

 俺も手を前に出し、クラウディオと握手を交わす。


 握る力強っ。


「……ってことで俺は仲間が待ってるからこの辺で。赤毛の君も、またな」


 クラウディオは俺たちに軽く別れの挨拶をした後、ギルドの入り口付近にいる仲間と合流して外に出て行った。


 どっと疲れがきた俺は、机に突っ伏して言う。


「あービビった。マジで喧嘩売られたかと思った」


「そんなに?」


「ああ。自分よりデカい人に絡まれるって状況、今までロクな事がなかったからな」


「そ、そうなのね……」


 クラウディオが最初に声をかけてきたあの一瞬、嫌な思い出が蘇ってきたくらいには焦った。


「……てか、俺についた二つ名。あれどう思う?」


「――ダサい」


「だよなー」


 やっぱ悪口だ。

 最初に広めたやつ覚えてろよ。

 誰か分かったら、即文句言ってやる。


「……あー美味しかった、ごちそうさまー。ってことで、それじゃ行こっか!」


「そうだな。……この食べ終わった後の片付けはしなくていいのか?」


「ええ、店員が片づけるからそのまま置いてて大丈夫よ」


「了解」


 そして俺と少女は本日二回目のギルドカウンターの列に並び、例の洞窟調査依頼を受けた。

 順番が来るまで朝ほど時間はかからなかったが、どうやら調査依頼はギルド職員一人を連れて行かないといけないらしく、その職員を待つのに十数分ほどかかった。


「――どうも、お待たせしました。エリアスギルドの洞窟調査担当、ジェレミーと申します。本日はよろしくお願いします」


 細身で眼鏡をかけた控えめそうな男性がそう声をかけてきた。


 この人が一緒についてくる職員か。


「「よろしくお願いします」」


 俺と少女は同時に挨拶を返す。

 ジェレミーさんはそれに対し目礼をして言う。


「……えーでは、早速洞窟の方へ参りましょうか」


 俺の、冒険者として初めての仕事が今、始まった。

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