第1話 人生最大の危機
――騙された。
洞窟の暗がりの中、グルルルッと唸りながらこちらを睨みつける三つの影。
その正体は魔犬。
腹を空かせたようにヨダレを垂らしている。
「くそっ、完全に騙された!!!」
店に来た知らない婆さんから買った香水。
それを何度振りまいても魔犬は一向に離れない。
『魔物が絶対に近づいて来なくなる香水』は詐欺商品だったのだ。
「騙されたってどういう事?」
少し焦り気味に聞いてくる、赤色の髪をした少女。
この少女が魔犬に襲われそうになっていたから、俺は宝探しをわざわざ中断して助太刀に来たってのに。
「いやっあの……どうやらこの香水、詐欺商品ぽくて。それを俺は騙されて買ったみたい……」
「え……?」
困惑する少女。
それを気にも留めず俺は話を続ける。
「それと俺は魔法が使えないし、その……つまるところ魔犬の餌が一人増えたって感じだな」
なんとダサいのだろう、俺は。
自覚はしているが開き直らないと恥ずかしくて死にそうだ。
まぁ、今にも死にそうな状況ではあるが。
「なんなのそれ……」
なんか引かれたような気がするが、そこは気にしないでおこう。
「なんとか二人で協力して魔犬を倒せないものか?」
「実は私も魔力切れで今は魔法が使えないの。だから戦って勝つことは諦めた方がいいわ」
おいおいマジかよ。
「じゃあ逃げるしかないな」
「魔犬の走る速度は人族なんて優に超えるのよ? 二人とも背中を見せた瞬間終わりよ」
そうだった、忘れていた。
死と隣り合わせの状況に頭が回っていないみたいだ。
「俺たちは八方ふさがりってことか……」
「いえ、そんな事はないわ。あなたが来てくれたおかげでね」
「というと?」
「どちらかがこの場に残って時間を稼いでる間に、もう片方が助けを呼びに行けば二人とも助かるわ」
「どっちかが餌になれと」
「嫌な言い方するのね、けどそれであってるわ」
「確かにその方法なら二人とも助かる可能性はあるな。ただ問題は、どっちが残るんだ?」
どうせ俺に残れとか言うんだろうな。
「それはあなたが決めていいけど、早くしてね。今はまだ私の魔法を警戒して魔犬たちは距離をとっているけど、魔力がもうないってバレるのも時間の問題だから」
えっ俺が決めていいのか。
うん、それならこの少女に残ってもらおうかな。
そもそも魔犬に襲われていたのはこの子なんだし。
俺がここに残ったとしても、この子が本当に助けを呼ぶかどうかも分からないわけだし。
「まだ? 決められないなら、もう私が残っ――」
「俺が残るよ」
ここに残っても何もできず喰われるだけなのに、そんな事を反射的に言ってしまった。
「え? あ、そう、分かったわ」
あれ、意外と反応が薄い。
生きるか死ぬか、瀬戸際の選択なのに。
「絶対に助けを呼んでくれよ、あと早く頼むぞ」
「ええ、安心して。せめて骨だけになる前には戻ってくるから」
「いやいや、骨の前もなにも死ぬ前には来てくれよ!」
「冗談よ、とりあえず気を付けて」
そう少女は言い残し、洞窟の出口へと走っていった。
やがて少女の足音も消え、静寂が訪れると。
「グルララァァ……」
魔犬たちはゆっくりと俺に近づいてくる。
「はは、俺とやろうってか? 上等だよ、かかってこいよクソ魔犬」
俺は震える手足を必死に抑え、魔法が使えるフリをした。
しかし魔犬たちは一瞬動きが止まっただけで、またすぐ歩き始めた。
「クソッ……」
――俺は魔犬の餌になっちまうのか?
――今日が俺の命日になっちまうのか?
――どうしてこんな事になっちまったんだ?
原因はたった一つ。
あの香水ババア、あのクソババアのせいだ。
あのババアから買った香水がなければ、こんな事にはならなかったんだ。
「絶対に許さねぇからなあのババア……」
覚悟を決めた俺は右手に持っていた松明を強く握り、自らを鼓舞するように叫んだ。
「あぁぁぁあのクソババア絶対にぶん殴ってやるからなぁぁぁあああ!!!!!」
私なら絶対に、その場に残らず尻尾巻いて逃げるなあ。
あ、お疲れ様です。松本未来です。
最初から主人公が死にそうな今作品、気軽に読んでもらえると嬉しいです。
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