エピローグ
晩秋の夕暮れ時、台所でFM放送のロッシーニにあわせて口笛を吹きながらスパゲッティーを茹で、トマトソースを煮ていると、お勝手口のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、蒟蒻が立っていた。
木枯らしがさっと枯れ葉を散らして吹き過ぎていった。
「ええと、どちら様で…。」
「ご覧の通り、蒟蒻です。えー、ゴホン。(と、コンニャクは咳払いをひとつした。)たまたまお宅の前を通りかかりましたところ、いやはや何とも非常においしそうな匂いがするもんで、私もひとつ、そこに混ぜてもらえまいかと思いまして。」
「混ぜてもらえないか、とは…?。」
「はい。つまり、(コンニャクは少しもじもじしつつ、)食材として、私を使ってはいただけますまいか…?、えー、突然、不躾なお願いとは存じますが、ぜひ、あなたのようなお料理名人の手で私めを料理してもらいたいものだと思いまして。」
「はあ…。」
といった話で、突然の押しかけ蒟蒻だっただが、お料理名人とまで言われてしまっては、そいつを料理に使わざるを得なくなってしまったのであった。
僕は少し予定を変更し、おでんを作ることにした。
蒟蒻といえば、やはりおでんであろう。
冷蔵庫にはちょうどおでんのための食材が揃っていた。ちくわ、はんぺん、がんもどき、つみれ、こんぶ巻き、そしてちくわぶ等である。スパゲティーは、しらたきとして使用することとした。
と、またしてもお勝手口のチャイムが鳴り、いつもの面々、おしるこ犬と黒豆猫があそびにやって来た。
「やあ、君たちは本当に鼻がきくんだねえ。」
「はい、もうおなかぺこぺこなんです。」
かくして、6畳間の炬燵にておでん鍋をかこみ、晩秋の夕暮れ時、ささやかなるおでんの宴となったのであった…。
蒟蒻は、ぐつぐつ煮えるおでん鍋に浸かり、ほっとひと息、安心立命、といった感じのほがらかな顔であった。
おわり




