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革命せよ、革命せよ、革命せよ  作者: 望月喬
第一章 アストリア編
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第3話 「意志は託された」

「おば、さん……なんで、なんで」


「ヴァルター、無事ね……?」


「あ、ああ。無事だよ。無事だ。でも、おばさんが」


「そうね……私は無事じゃない、かも」


 と、そのとき、アリアの腹から槍が引き抜かれた。

 大量の血液が彼女の体内からあふれ出し、床を赤色に染め上げる。


「おばさんッ!」


 ヴァルターが立ち上がる。このままでは――このままでは、アリアが死ぬ。

 何とかしなければ。そうわかっていた。それなのに、体が動かない。どうしたらいいのか、少しもわからない。


「邪魔だ。我々は奥の二人を逮捕せねばならん」


 中年の兵士が言う。その顔には先ほどと同じ余裕そうな笑みが浮かんでいた。無辜の民を刺しても変わらない、笑顔が。

 しかし、変わらないのはアリアとて同じ。そんな悪魔じみた表情を目の当たりにしても、アリアは断固として首を振った。


「嫌よ。どかない」


「――そうか」


 刹那、中年の兵士が腕を振り上げる。それはゆったりとした動きで軌跡を描き――。


「おい、やめろ、おい、これ以上おばさんを」


 ――無慈悲に、アリアの胸を刺し貫いた。


「ああぁああああぁああぁ!」


 響く悲鳴。そのつんざくような絶叫は、ヴァルターの耳をこれでもかというくらいに痛めつけた。


「オイオイオイオイオイオイオイいいのかい君たち! このままじゃ君たちの母親が死んじゃうぞ!」


 槍が引き抜かれ、また刺し込まれる。そのたびに轟く凄絶な叫び声。


「やめろ」


「ハハハハハハハハ!」


「やめてくれ」


「ハハハハハハハハ!」


「やめ――」


「うああああああああああああああああああああああああッ!!」


 ヴァルターが振り向く。その声の主は――アンナは、今まで一度も見たことがないような形相をしていた。


「アンナ」


「【火天(アグニ)】ィィィィィッ!」


 刹那、アンナの正面に炎の渦が出現。と、そこから炎でできた二本の柱のようなものが射出された。


「!」


 ヴァルターは瞬時に身をかがめ、アリアを巻き込みながら床に倒れる。巻き添えを食らわないためだ。


「なに!?」


 射出された炎の柱は、瞬きの速さで兵士たちへと向かっていく。

 二人いるうち中年のほうが経験は積んでいるらしい。彼はすぐさま事態が急転したと判断し、焦燥を含んだ表情のまま踵を返す。


「退却だ! ルガル解放者だったとは――!」


 兵士が家を飛び出していく。炎の柱はそれに追随するかたちで彼らの背中を追い――途中で扉に激突した。木造の扉に火が燃え移り、それはどんどんと広がっていく。


「――――」


 唖然とするなかで、ヴァルターの手を何者かが後ろから掴んだ。アンナだ。


「――――」


 アンナに引っ張られ、ただの炎の塊となりつつある家から脱出する。

 しかしそこに、アリアの姿はない。


「……お母さんは、もう助からない」


「……」


「死んだ。お母さんは死んだ。死んだ」


「……」


「ねえ、ヴァルター。私、私さ」


「……」


「どうすればいいかな」


 アンナの涙声に顔を上げる。彼女の美しい顔には、燃え盛る炎に照らされた顔には、ぽっかりと見えない穴が開いていた。


「…………許さない」


「ヴァルター?」


「許さない。“ハザ王の国家に従わない非国民は死ね”? なにがハザだ。あいつがイスニラムの山賊どもをはびこらせる要因を作ったんじゃないか」


「…………」


「それを返り討ちにしただけで逮捕。抵抗したら虐殺。おばさんはそんなくだらない理由のために死んだ。家が燃えることになった。俺たちは、帰る場所を失った」


「…………!」


「許さない。許さない。俺は、この国家を、許さない」


「…………うん」


「アンナ。――力が、必要だ」


 ヴァルター・アインハルトはそう言って、ゆっくりと顎を引いた。


 *


 アリアが死に、ファンティーレを出立してから約三日。ヴァルターとアンナは王城がある王都アストレシアに到着した。

 夜ということもあってか、大量の街頭が繁華街を照らす中で人々が活気づいている。ファンティーレと比べると非常に人通りが多い。ここだけはまだ昔のアストリアが残っているような懐かしい感じがした。

 とは言え一年前のファンティーレでもここまでの活気は無かったため、二人は今都会の喧騒というものを生まれて初めて肌で感じていることになる。


「賑やかだな」


「そうね。あれなんか、すごく美味しそう」


「買うか?」


「ううん。大丈夫。いらない」


「……そうか」


 力を手に入れるため、パクス=グレイツの宝玉を探す――その場所に関するヒントが眠っていそうなのが、王城の書庫だった。

 ヴァルターたちは城下町を素通りし、安めの宿を取る。そして人々が静まる深夜まで宿で仮眠し――思ったよりも早く、そのときは来た。

 桶に注いだ水で顔を洗って眠気を覚まし、服装と持ち物を確認して準備を完了させる。


「……ヴァルター」


 呼びかけられて振り向くと、アンナが扉の前に立っていた。彼女はヴァルターより30分も早く準備を済ませている。


「アンナ?」


「ごめんなさい。馬車の中でたくさん迷惑をかけちゃった」


「――」


 このアストレシアにたどり着くまでの馬車の道中、アンナの心は今にも決壊しそうだった。当然だ。実の母親が目の前で殺されたのだから。

 あれから三日が経過して、衝動的な激情が襲ってくることはなくなった。でも、アリアを亡くしたという事実はアンナの顔を曇らせる。


「仕方ねえよ。俺だって、あのときは助けてもらった」


「……うん。でも、ヴァルター」


「なんだ?」


「王城に忍び込んで、手掛かりを探し、パクス=グレイツの宝玉を手に入れる。――あなたの覚悟は本物?」


「……!」


 じっとヴァルターを見据えたアンナの瞳には、確かな光が宿っていた。

 そこに普段通りの強い彼女が戻っていることに気が付いて、ヴァルターは驚く。

 それと同時に、自身の体が震えあがるのがわかった。

 答えなければならない。応じなければならない。母親を殺され、絶望の底に叩き落とされても、自分についてきてくれたアンナのために。


「……ああ、本物だ。俺たちには、力が必要なんだ」


「うん」


「こんなクソみたいな世界で、クソみたいな国で生きていくには、力を手に入れるしかない。俺は許さない。この国家を」


 ヴァルターがそう断言すると、アンナはほんの少し頬を緩ませた。


「安心した。あなたが私と同じ気持ちで」


「行こう、アンナ。――王城へ」


 アンナが頷いて、扉を開く。

 時刻は午前三時を回ったところで、ついさっきまで多くの人々が行き交っていたアストレシアの城下町はゴーストタウンのように静かである。

 人口密度が極端に低く夜も遅いため、途端全身に鳥肌が立つような冷気が二人を囲んだ。しかし、今更どうこう言おうとはしない。

 寒さ以上に緊張が体を支配していた。きっと隣で歩くアンナも同じだろう。

 言葉を交わすことなく歩いていると、目的地には案外すぐにたどり着いた。


「……大きいわね」


「う、お……近くから見ると迫力がすごいな」


 城下町の一番奥、長い階段の先に聳え立つ巨大な王城――ベルグロット城である。さすがは国の中心であり最長の建造物、その風格をしっかりと身にまとっていた。


 階段を一段一段音が鳴らないように登っていくと、やがて視界が開けて王城の全体像が見渡せる。

 視界が開ける、ということはヴァルターとアンナもあちらから丸見えであることを意味するため、咄嗟に近くの壁に身を隠した。


 壁から少し顔を出して再び王城を覗き見るが、そのあまりの大きさはどこにピントを合わせたらいいのかがわからないほど。

 しばらく周囲をうかがってからやり場に困る目を真っ直ぐに向けると、固く閉ざされた門と門番兵がいた。


「さて、あの門番兵をどう突破するか、ね」


 同じように田舎人をさらけ出しているアンナが言う。


「さすがに強行突破は出来ないしな。……あ、あれなんだ?」


 ヴァルターは今登ってきた後ろを向き直し、その細い人差し指で階段の奥の方を指した。

 目を凝らしてよく見たが、人のようなシルエットが蠢いているのがわかるだけである。

 しばらく様子を眺めていると、段々と距離が近づきその風貌が明らかになっていく。

 白と黒が交差して織り込まれた質の良さそうなローブを着た四、五人の集団で、階段をコツコツと普通に登るにはいささか奇妙な音を立てながらのっそり上がっていた。


「なぁ、あの人たちが入るときに俺らも一緒に入り込めないかな」


「さすがに無理があるわよ。でもここにいたらあの人たちに見つかるし、移動しましょう」


 ヴァルターは頷いて、道の端へ移動する。

 少し待つと、その集団が階段を登りきってヴァルターらのいる城門前の広場まで来た。距離が更に近いので先程よりもその姿形がよく見える。

 数は五人で、白黒のローブで全身を覆っているため顔どころか肌は手の部分しか見て取れない。体格も先頭の高身長以外はそれぞれに大きな差はなく、性別すらも判然としなかった。

 あまりにも怪しい集団なので、もしや門を開けてもらえないのではという不安が脳裏をよぎる。

 城門の中央に立っている兵がローブの集団に気づくと、


「名を申せ。これ以上近づくのはそれからだ」


 と呼びかけた。兵士も警戒しているらしい。

 しかし、集団は兵の言葉に怯むことなくその歩みを止めない。コツコツという奇妙な音だけが響き渡っている。

 門番兵は苦虫を噛み潰したような顔をし、


「止まれ。さもなくば貴様らを攻撃することもやむを得――」


 言って、その手に握られた長槍を構えようとした瞬間――。


「――!?」


 まだ数メートルはあったはずの集団と兵の距離が、ヴァルターが一つ瞬きをした後には数センチに縮んでいた。


「え?」


 思わず驚きの声を漏らしてしまったヴァルターの口を、横からアンナが咄嗟に塞ぐ。


「――バカ! 聞こえるわよ」


 アンナは小声でそう囁くものの、彼女の声音も現状の掴めていない、震えたものだった。

 突然の怪奇現象に、この場の誰もが対処できないようだった。唯一、兵士のすぐ前で静かに突っ立つ異様な五人を除いて。


 彼ら(彼女らなのか知らないが)の一番先頭にいる、飛び抜けて背の高い者がゆっくりと下を向く。恐怖が顔に貼り付いた兵士は、固まったようにローブに包まれたその顔部分から目を離さない。


 するとその高身長はまたもやゆっくり、ゆっくりと右腕を高く上げた。

 目視できなかった腕がローブの中からあらわになる……かと思いきや、ローブの中には同じく白と黒の布で編んだ服を着ているようで素肌は確認出来ず、その上には金属で出来たブレスレットが大量につけられている。


 右腕を上げた体勢のまま、その者は右手を開いたり閉じたりした。

 門番への何かの合図かサインか、はたまた兵士の変わらない冷や汗にまみれた顔面を見る限り何の意味も無い無駄な動作か全く理解出来ないでいたが、直後その右手はわかりやすいものに変わった。


 ピンと指を張り開いていた右手を、彼ら独特の一挙手一投足の鈍さを乱すことなく、まず親指以外の四の指を第二関節まで折り曲げた。次に曲げた四本を更に三つ目の関節まで丸めるように折る。最後にその上に親指を添えるようにそっと被せて――。


 瞬間、一連の流れをまじまじと見ていた門番兵の顔が今にも卒倒しそうなほど蒼白になった。

 人間が体で表せる青白さの限界を超えていると言っても過言ではないぐらいの、目を背けたくなるものである。しかし、彼がそうなるのは仕方がなかった。


 ――人を本気で殴る時の拳である。


 あったとすれば一方的にタコ殴りにされたぐらいで、喧嘩などほとんど経験がないヴァルターでさえ一目で感じ取れた。

 少なくともあの背の高い不気味な人間は今、目の前の兵を本物の殺意を持って殴り殺そうとしていると。


 一秒が一分に感じられるような緊張がしばらく続いたが、やがてローブの者はやる気を無くしたのか、それとも腕を持ち上げ続けることに疲れたのか、大量のブレスレットが放つ煩わしい音とともに腕を下ろすと、


「ブソヴル・アリュートイーです。ブソヴルですよ」


 と言った。中年の男の声を少し高くしたような、少々気味の悪い声である。

 が、恐怖で動けなくなっていた兵士はその名前を聞いた途端パッ、と顔が安堵したものに変わり、


「ブソヴル様でしたか、失礼しました。おい、誰かご案内しろ。……誰かいないのか?」


 兵士が門を開いて中に呼びかけるが、どうやら案内できる者がいないらしい。

 凄く嫌そうではあるが、仕方なくといった感じで門番兵自ら案内することにしたようで、偶然にも城門の前には人っ子一人いなくなってしまった。

 ヴァルターは兵士の突然の態度と表情の変化に唖然としていたが、アンナに引っ張られるまま無事城の内部へ潜入した。


 *


「なぁ、さっきのアレ何だったんだ?」


「私にもわからないわ。ルガルなのかどうかもわからない」


 現在ヴァルターらはベルグロット城内部で書庫を探している。深夜ということもあって人はおらず、いても単調な動きを繰り返す見回りの兵士ぐらいだった。

 しかし王城の中の地図などは勿論所持していないため、一時間近く歩き回っても見つけ出すことが未だ出来ていないのが現状であった。


 その間に痺れを切らしたヴァルターが小声で問いかけたのが先ほどのローブの集団が起こしたと思われる怪現象についてで、アンナの言うルガルというのはこの世界で必ず一人一つ扱える異能のことである。賊に放ったアンナの【火天(アグニ)】もルガルだ。

 使えるようになるには鍛錬だの経験だの色々必要ならしく、残念ながらヴァルターはまだ使えない。


「……あ、ねえヴァルター、あれじゃない?」


 さすがは王城と言うべきか、城の中は廊下も一つ一つの部屋も異様に広い。

 従って部屋に入るための扉も普通より大きくなっているのだが、廊下の突き当たりに周りと比べて少しサイズの小さい扉があった。アンナが言っているのはあの扉のことだろう。


 まぁ、サイズが小さいとは言っても普段自分たちが使用している扉と比較すれば断然大きいのだが。

 その扉まで早足で向かって、周りに誰もいないことを確認する。扉を開くところを目撃されたらたまったものではない。


「……よし。じゃあ開けるぞ」


 中に人がいないことを祈りつつ、無駄に大きい扉を押し開ける。

 その際荘厳な音が廊下に響き渡ってしまうため、冷や汗をかきながら急いで部屋の中に入った。


「――おお」


 入って第一声、思わず感嘆が漏れてしまったのは、生まれて初めての大量の本を見たからであった。どこを見ても、本しかない。ここが書庫であることは間違いなかった。

 人はいないようだが、何故か部屋の中は明るい。


「すごい……こんなの初めて見た」


「ああ……って、感動してる場合じゃない。早くパクス=グレイツの宝玉に関する本を探そう」


「そ、そうね」


 初めて見る沢山の蔵書にアンナも目を輝かせていたが、その誘惑を断ち切ってもらいつつ手分けして捜索すること30分。やがて、他の本と比べてかなり古い『パクス=グレイツの宝玉』という題の古書が二人の目に止まる。


「――あった」


「嘘……正直半信半疑だったけど、本当にあるなんて」


 目的のものにありつけて、自然と食指が動く。ヴァルターは早速本を開いて読み上げた。




 ――まず、この本を読んでいるものが居るのなら、謝りたい。俺の矮小な誇りのせいで計画を失敗させてしまったことを詫びる。

 時間がないので本題に入る。本来の記憶の伝達は正史の伝播に任せたいところだが、都合上世界の正史について少し説明させてもらう。

 君が知っている世界に関する記憶は、おそらく嘘のものだ。都合よく改変されている。

 真実は、アレンとハザが戦い、アレンは負けたということ。そして勝利したハザは力を使い尽くしたため何千年もの眠りにつき、復活すればまた世界を滅ぼそうとするだろう。


 俺はそれを阻止するべく、その助けになるであろうアレンの遺した「パクス=グレイツの宝玉」、もとい四つの宝玉に関してこの本で述べたいと思う。

 パクス=グレイツの宝玉とは、アレンの力をそれぞれ四つの宝玉に分けて作り上げたものの総称である。

 そして、正史の伝播にはそのパクス=グレイツの宝玉が残されている場所に関する情報が含まれていない。

 だから、俺はそれをここで述べる。時間がないので簡潔になってしまう上に、後の世界で我々の使用している地名が通じるかもわからないので、大変曖昧な記述であることを許してほしい。


 ――ひとつは、点々と草木の生える地に眠る砂骸の脳に。


 ――ひとつは、世界最大の国家のもとに。


 ――ひとつは、極寒の大国のもとに。


 ――ひとつは、斜塔の鐘の中に。


 もう時間がない。これで筆を置く。どうか繋いでほしい。そして、ハザを倒せ。


                                オイゲン




「……」


 衝撃であった。当然だ。自分の知っている伝説と、初めてかち合う証拠を見つけたのだから。

 今まで誰に話しても知らなかった、そしてその多くが信じてくれなかった伝説と、同じことを書いている。しかもそれに加えて、ヴァルターの望んでいた宝玉のありかまで記されている。これで興奮するなという方が難しい。


「すごいな。月並みな感想だけど」


 興奮を隠しきれないまま、隣で聞いていたアンナを見る。

 だが、アンナはヴァルターの嬉々とした様子とは正反対の雰囲気を醸していた。何かを思いつめたような顔。


「どうした?」


 のぞき込んで問いかける。


「――確かにヴァルターの言っていた伝説と辻褄が合う。もしかしたら本当に宝玉は存在するのかもしれないわ。でも」


「でも?」


「宝玉の伝説が本当なら、ハザの伝説も本当ってことになる」


「――――!」


 父親から一緒に聞いたハザの話。世界を滅ぼさんとする悪役としてアレンと戦ったという。確かにその通りだ。

 この『パクス=グレイツの宝玉』に記述されている情報は、宝玉だけでなくハザに関することもヴァルターの知っている話と矛盾がない。


「これは妄想よ。私にしては珍しい、妄想」


 アンナはそう前置きして、息を吐く。


「ハザが復活すればまた世界を滅ぼそうとするって書いてあったわよね。アストリア国王ハザ・エシルガの突然の台頭と、この悪政。――偶然なのかしら」


 ヴァルターが気になっていたことを、アンナも疑い始めた。伝説内のハザと現国王のハザ、もし二人が同一人物だとしたら。


「それは俺も前からただの偶然だとは思えなかった。でも」


 わからない、と続けようとしたが、『パクス=グレイツの宝玉』が収納されていたその隣に同じくらい古い書を発見したことで言葉が途切れる。


「こっちは何だろう」


 本を開く。『パクス=グレイツの宝玉』と同じく、至る所に数字が書いてある。

 暦に見えるが、ヴァルターたちが使用しているのと同じものだろうか。元々この本は何かの日記帳だったのかもしれない。


「……こっちは読めないわね。見たことない文字が使われてる」


 知らない言語で羅列されている文字群というのは少し気味の悪いものだったので、本を閉じて『パクス=グレイツの宝玉』と一緒にしまわれていた本棚に戻す。


「宝玉の場所に関する記述は覚えた。とりあえず城を出よ――」


 ――と、そのときだった。


 ギ、ギギ、ギギギ……。


「――っ!?」


 今まで物音ひとつ立てることなく黙り込んでいた書庫の扉が、再びその重い体を動かして、今のヴァルターらにとってこれ以上ない嫌な声をあげて開いたのだ。


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