第201話 「導きのままに」
「200話で終わらせるなんて、何ともキリがいいですね」
「ですが、まだ終わらせませんよ、あなた方には」
「ええ、きっと――ここからは、『蛇足』ですから」
*
「はい、ヴァルター」
「ありがとう、アンナ」
長方形のテーブルにカップが置かれる。なかには湯気を立てる紅茶が入っていた。テーブルの隅に位置する座席に腰かけていたヴァルターは、そのカップを手に取って、まずは香りを楽しむ。いい香りを十分に堪能したあと、彼は陶器を傾けて中の液体を口に含んだ。
「うん、いい。アンナ、紅茶を淹れるのがうまくなったよな」
「そう? まあ、あの半年間で色々なお茶を飲んだから」
「そっか」
アンナが懐かしいものを回顧するような表情で言うので、ヴァルターもつられたかたちになってしまった。懐かしい、本当に。
以前この国には、ハザ・エシルガという悪魔がいた。彼は王であり、伝説上の化け物でもあった。だが彼は最後の最後、ただの人間として死んだ。ヴァルター・アインハルトにより革命が引き起こされ、王政は打倒されたのだ。
そしてアストリア王国がアストリア共和国と名前を変えてから、はや三年。暴政や革命によって疲弊した国力は、着実に元に戻りつつある。とはいえ実際に政治を執り行うのは同じ人間なのであって、選挙や市民の参政権など、やはり次から次へと問題が絶えないようだったが。
「懐かしいな、すごく。みんな、今頃はどうしてるんだろう」
「そうね」
かつてはアインハルト軍と呼ばれていた者たち。約半年かけて達成されたアストリア革命のあと、彼らはそれぞれの道へと進んだ。ともに戦場を駆け抜けた仲でも、革命が終われば軍は解体される。
「イグナーツとヴェリは、アストリア軍に入ったんだよな。『騎士』の制度がなくなったから、ただの兵士としてらしいけど」
イグナーツ・アルトマンとヴェリ・カラノス。故郷では義兄弟のような関係性だった二人は、アストリアの陸軍に加わった。もともと陸軍には兵士たちを束ねる『騎士』という存在がいたのだが、革命後の刷新によりなくなった。
理由は大きく分けて二つある。一つは、たった二人に陸軍の権力を集めることは危険だとされたからだった。そしてもう一つは、元々騎士だったスチレット・ダガーが行方不明になっていたから。革命時、アントゥークを出立してアストリアに到着してから、どこかへと姿を消してしまったのだ。
不要とされ始めた役職についている者が一人としていない――そうなれば、『騎士』が国軍から排除されることになるのは当然だった。
「フィリーネとセレナは故郷に帰ったって。フィリーネはわかるけど、セレナもっていうのは意外だったわ」
フィリーネ・アディ、もといフィリーネ・テオス。そしてセレナ・アバスカル。彼女たちは革命が終わったあと、それぞれの故郷に戻っていった。
フィリーネはテオスの街で、義理の父親のような存在であるセドリックと暮らしているのだろう。テオスの民としての使命は終えたから、もう帽子を被る必要もない。彼女はこれまでの人生が辛いものだっただけに、どうか穏やかに過ごしていてほしいと思う。
そして生まれた場所へ帰ったのはセレナも同じだった。とはいえ彼女は事情の重さが違う。実父を殺害した新たな領主を、街の住人や家族の前で殺したのだ。きっと相応の苦悩があったはずだが、それでも彼女は街へ戻る選択をした。
「レオは……今頃、旅の途中か。あいつは本当に何をしてるのかわからないな」
「ちゃんとフィリーネに許可を貰ったそうよ。変なところで律儀よね」
レオ・エーレンベルク。彼はついに望んでいた自由を手に入れて、一人旅に出てしまった。とはいえ新たな「鎖」であるフィリーネからきちんと了承を得ているというのだから、意外な一面もあるものだ。
「みんな、元気にしているといいな」
「ええ」
その他にも、ハザを倒すためともに戦った仲間は多くいる。ハーデスト・レッドフィールドやアリシア・プリムローズ、そしてユージン王。彼らはアントゥークへ戻り、変わらず忙しい毎日を送っているのだろう。エウフエイヴの女王であるカヌア・ブランカも同じだ。
「そういえば、ヴァルターがブレストラで会ったって言ってた人はどうなったの?」
「ああ、前に電報が届いたよ。無事にクーデターが成功したそうだ」
「そう。じゃあ、もうお姫様ではないのね」
「そういうことになるな」
ブレストラ王国の王女だったハルルアート・イヴァンタ。彼女は長年付き添っていたサリーを失っても、クーデター計画を諦めなかった。そして本当に王を打ち倒し、今や彼女が女王の座についてしまっている。この先また会うことがあれば、殿下ではなく陛下と呼ばなければならない。
「……もう三年なのね。私たちがこの家に住み始めたのなんて、つい最近のことみたい」
テーブルを挟んで向こう側の椅子に腰かけたアンナ。彼女は物思いにふけるような様子で、過去の懐かしい記憶を追想しているらしかった。
アンナはもうアンナ・ベルネットではない。何を隠そう、これまでの三年を経て、ヴァルターとアンナの関係も進展している。二人は結婚して、彼女はアンナ・アインハルトになっていた。そもそもアンナからは既に想いを告げられていたのだから、あとはヴァルターが答えるだけだったのだ。
とはいえ、なかなか返事をしない彼に痺れを切らして、幼いころヴァルターがアンナにプロポーズしたことを引き合いに出されたのは、流石の彼も驚いてしまったが。
「でも、よかったよ。昔の家とは違うけど、場所は同じだからさ」
二人はアストリアの港町であるファンティーレに居を構えている。二人が生まれたところと同じ街だ。革命のあと、アンナの母親であるアリアの墓参りをして、目的が果たされたことを伝えた。そして新たに家を建て、住むことに決めたのだ。
それ以来、ヴァルターが漁をして市場などに売り払い、アンナが家で家事をしている。まるで、ハザを倒そうと故郷を発つ前に戻れたかのようだった。そのことがヴァルターは嬉しくて、幸せだった。革命の英雄である彼が政治に関わらないことを嘆くアストリア国民もいたようだが、ヴァルターはこの三年間、何か特別な用でもない限りは街を出ることすらしていない。
ハザを倒せた。アストリアを守ることが出来た。彼にはそれで十分だったのだ。
「政治のほうは色々と問題が多いみたいだけど……それでも、革命のときよりは平和になったものね」
「ああ。もう戦う必要はない……誰かが傷ついたり、死んだりすることはないんだ」
戦う必要はない。その事実に、ヴァルターという男がどれだけ救われていたか。
ここだけの話、彼はハザを倒してからしばらくの間、ひどく寝つきの悪い時期があった。それはまさにダグラーリンを殺したときと同じで、毎晩悪夢にうなされたのだ。
革命を成功させるため、今までに手にかけてきた者たち。彼らが夢の中に現れて、ヴァルターを指弾する。あのときの苦しみが、痛みが、嘆きが、認められた気がする。ヴァルターは確かにそう言った。だが、それでも彼は、彼の中にしつこく残っていた自責の念に苛まれた。
「もう、あんなことは、ごめんだ。何かを成し遂げるために、何かを切り捨てる……正義を貫くために人の命を奪うなんてことは、もうしたくない」
あれから三年が経過して、ヴァルターが悪夢に悩まされることもなくなった。犠牲となった者たちのことを忘れたわけではない。時間が経って、彼の中の責任や後悔の気持ちから、棘が抜けていっただけのことだ。確かに心のうちに存在する。ただ、触れても痛くはない。
「私たち元アインハルト軍は、国を救った英雄なんて持て囃されているけど……結局、私たちが人殺しであることに変わりはないものね。たとえ英雄でも、善じゃない」
アンナの意味深長な呟きに、ヴァルターは頷くことしかできない。異論も反論もなかった。だから、ただそれだけを返した。
たとえ周囲からヴァルターという存在を持ち上げられても、何度も頭を下げるくらい感謝されても、ヴァルター自身がヴァルターという存在を認めてはならない。
政権も実権も握ることなく、栄光をほしいままにすることもなく、このファンティーレという片田舎の街で静かに暮らす。それが、ヴァルターがすべき最後の使命であるはずだった。
「……アンナ。夜ご飯の支度、手伝うよ。今日は店も休みだから」
「そう? ありがとう、助かるわ。じゃあ早速だけど――」
アンナが席から立ち上がる。彼女は居間からキッチンへ向かうと、木製の棚から調理器具を取り出した。
そうして、いそいそと家事を進める妻となった者の背中を、ヴァルターが何とはなしに目で追っていると――、
「?」
コン、コン、と扉がドアノッカーで叩かれた音が聞こえた。外だ。二人が住んでいる家の外から、誰かが玄関の扉をノックしている。
「誰だ?」
近所の人との付き合いはそれなりにある。関係も悪くはないし、たまに作りすぎた料理のお裾分けを貰ったりもする。それこそ、昔この街に住んでいたときと同じように。
だから、突然ドアがノックされることは特におかしいことではなかったのだが。何故かヴァルターには、その訪問者が近隣住民の誰でもない気がしてならなかった。
席から立ち上がって扉のもとまで歩く。そしてヴァルターがゆっくりとそれを開くと――彼の勘が間違っていなかったことを知った。
「……イグナーツ!?」
「え!?」
ヴァルターが思わずといった様子であげた大きな声に反応したのだろう、キッチンにいたアンナが頭だけをこちらに向けて、ひどく驚いた顔をしている。
だが、その表情をしていたのはヴァルターとて同じだ。何しろ二人の家を訪ねてきたのは、本当に思いもよらない人物――イグナーツ・アルトマンだったのだから。
「久しぶりだな、ヴァルター、アンナ。息災か」
優しげな印象を受けるクリーム色の髪に、それとは対照的な強い芯を感じさせる鷹のような黒い瞳。服装は昔のような戦闘用の軽装ではなく軍服に変わっているが、目の前に立っている大柄な男は、間違いなくイグナーツ本人だった。
「どうしたんだよ、突然。急に来るなんて」
「すまないな。少し、君に話があるのだ」
「俺に話が……?」
イグナーツが思わせぶりな様子で言うので、ヴァルターは気になってしまって早く続きを聞こうとした。だが、横から割り込んできた女性的な声音によって、それは遮られることとなる。
「とりあえず、中に入ったら? 立ち話もなんでしょ」
「あ、ああ。そうだな」
「失礼するよ」
アンナの誘いに頷いて、イグナーツが家のなかへ入る。彼は背が高いので、玄関口を通る際も頭を下げなければならなかった。
そこで気が付いたが、イグナーツの腰には何の得物も身に付けられていなかった。その代わりか、彼は右手に銃剣を握っている。アストリア兵士の標準装備だ。この三年で身分制度が崩壊したため、もともと公的に帯剣が許可されていた貴族が消えた。そのため、街中で物騒な武器を手にしている者は今や兵士くらいしかいない。
とはいえ法律なんてものは名ばかりで、革命前は一般市民であっても結構な者たちが自衛のために武器を持ち歩いてはいたのだが。
「今、紅茶を出すから。二人は座ってて」
「ありがとう、アンナ」
「……それで、何の用だ? 三年ぶりに会ったかと思えば、話があるって」
四角いテーブルを挟むようにして腰かけたヴァルターとイグナーツ。元騎士の背筋は真っ直ぐに張られていて、相変わらず姿勢がいい。
「話というよりは、頼みだ」
イグナーツはそう前置きすると、少し間を空けたあとで、言った。
「結論から言おう。……ヴァルター。もう一度、革命を起こしてはくれないか」
「……!?」
その言葉を聞いて、ヴァルターは血の気が引いていくような感覚を味わった。革命は終わったはずだった。だが、それを言ったイグナーツの表情は至極真面目なもので、冗談を口にしているような感じではない。
そもそも――イグナーツという男は、そのようなことを冗談で言うほど軽薄な人間ではない。
「……どういうことだ」
だからヴァルターは、まずは彼の話を落ち着いて聞こうと考えた。なにも見ず知らずの相手に革命しろと頼まれたわけではない。今テーブルの向かい側に座っているのは、つまり交渉の席についているのは、あのイグナーツなのである。
「ハザが倒されてから、アストリアは共和制へと移行した」
イグナーツが口火を切る。
「それからというもの、しばらくは上手くいっているように思えたが……ここに来て、暗雲が立ち込めている」
「暗雲?」
ヴァルターが尋ねる。それと同時に、キッチンから戻ってきたアンナが三人分のカップをテーブルに置いた。彼女も話している声が聞こえていたらしい。その不安そうな顔を見ればすぐにわかる。
「確か、派閥争いが激化しているって聞いたけど」
「その通りだ、アンナ。少し前、急進派が議会の実権を握った。彼らは対立する派閥を議会から追放し、共和制とは名ばかりの独裁政治を企み始めている」
独裁政治。一つのグループが権力を握り、自分たちが都合のいいように好き勝手に政治を取り仕切る。対立する派閥を議会から追放したとあっては、反対派には容赦しないつもりなのだろう。だが、それではまるで、
「……ハザの王政時代と、同じだ」
ヴァルターが不意に呟いた言葉。それにいち早く頷いてみせたのは、イグナーツだった。
「そうだ。ハザほどの絶対的な力はないとはいえ、やろうとしていることに変わりはない。そして、そう考えているのは、アストリア国民も同じなのだ。特に情報の伝達が早い首都周辺の住民たちからは、既に声が上がり始めている」
「どんな声だ」
「君に対する声だ、ヴァルター。……これではハザのときと変わらない、だから、やはり革命の英雄であるヴァルター・アインハルトが国を治めるべきなのだ、と」
「……世論が、俺が王になることを求めているってことか。今度は、共和制に対して革命を起こすべきだと」
そういうことだ、とイグナーツが答える。彼の表情は、やはり本気だった。きっと、その急進派とやらの独裁政治は本当に酷いものなのだろう。首都アストレシアで兵士として軍役に従事している彼だからこそ、政治的な不安を肌で感じられるのかもしれない。
だが、ヴァルターは頷かなかった。というより、頷けなかった。何しろ、つい先ほどまで隣に座ったアンナと「もう戦いたくない」というような話をしていたのである。そう易々と考えを曲げられるわけがない。
「確かに、アストリアにとって良くない状況になっているのはわかる。でも、ハザのときと比べたら、まだマシなはずだ。それに、俺は……もう、戦いたくはない。多くの人が傷つく革命は、懲り懲りだ。俺はこのまま、この家で、ひっそりと暮らしているべきなんだよ。アンナと二人で、静かに、誰かを傷つけることも、殺すこともなく」
「……」
ヴァルターの独白じみた回答に、イグナーツは黙り込んだ。ただ、ひたすらに目の前の英雄の瞳をじっと見つめているだけだった。
気まずい沈黙が流れる。息が詰まるようなそれを何とか打破しようと考えたのか、アンナが両手を振りながら言葉を挟もうとする。
「イグナーツ、ごめんなさい。ヴァルターは、この三年間で何度も悩んでいたの。ハザを倒してすぐのころは、毎晩眠れなくて苦しんでた。今は大分よくなったけど、それでも、まだ。……だから、ヴァルターがまた革命を起こすのは、難しいと思うわ」
アンナは一人で言い切ったあと、「それに、残酷よ」と誰にも聞き取れないくらい小さな声で付け足した。彼女の最後の言葉には、彼女の本心が込められていた。
イグナーツが、ちらとアンナを見やる。彼はそのあとで、ハアと息を吐いた。そして目線を落として、申し訳なさそうに首を横に振る。
「すまない、アンナ。それに、ヴァルターも。君たちの気持ちは理解している。だが、それでも、ヴァルターの力を借りなければならないのだ」
「……どうして、そこまで」
アンナが問う。
だがそれは、間髪入れずに言葉を続けたイグナーツによって、妨げられることになった。
「スチレットは、おそらく白の教団に殺された」
「……!」
ヴァルターが顔を上げる。同じ高さの目線。一度捉えられたら離れられない、猛禽類のようなイグナーツの目つき。
「三年前から、彼は行方不明になっていた。だが私は、当時から思っていた。スチレットは白の教団と繋がっていて、そしてまた、白の教団に消されたのだ」
「何で、スチレットさんが」
彼は、ただのアストリア兵士だったはずだった。しかも、当時では最大の栄誉である『騎士』の称号を有していたくらいだ。
それなのになぜ、スチレットが白の教団と――イグナーツはその疑問に、丁寧に答える。
「君たちは知らないだろうが、彼には妹さんがいたのだ。しかし生まれたころから大病を患っていて、両親ともに早くから亡くしていたスチレットは、一人で彼女を看なければならなかった」
「それで、白の教団と?」
「ああ。奴らは裏社会を牛耳るほどの力を持っているからな。大病を治療する金なんて、いくらでも手に入る」
「アストリアとイスニラムが戦争をしていたとき、あれだけの大金を用意できたのは……!」
ヴァルターの推測に、イグナーツは「ああ」と頷いた。
「教団から流れていた金を、私たちに渡していたのだろう。おかしいと思っていた。ハザが軍に対して出撃許可すら出していないのに、あれほどの金を引き出せるわけがない」
「三年前のアストリア革命のとき、正史の伝播は終わっていたのにやけにアストリア兵が多かったのよね。あれも、スチレットさんが教団から白徒を流していたのかも」
「おそらくな。翌日になって一気に敵兵が消えたのは、やはり大量の白徒が撤退していたからだったのだろう」
「何なんだ……一体やつらは、何が目的なんだよ」
「そこまでは分からん。分からんが、ヴァルター」
「!」
イグナーツが唐突に立ち上がる。彼の長身が視界を覆ったことで、異様なまでに威圧感が強まっていた。
「これは未だに軍の上層部しか知り得ていないことだから他言無用だ。――イスニラムの女帝が、暗殺された」
「な……!」
隣国イスニラムを統治していた女帝。彼女のもとで、イスニラムは世界の覇権も狙えるほどの軍事大国に成長していたのだが、その芽はアストリアとアントゥークの尽力によって摘まれることとなった。
「これも、白の教団の教祖――ブソヴル・アリュートイーが一枚噛んでいると踏んでいる。どうも奴は女帝暗殺の混乱に乗じて、アドバイザーとして国家運営に関わり始めているらしい」
「王を暗殺したあとで、協力するフリをして裏から実権を握る……それこそ、ハザが最初にアストリアでやったことと同じじゃないか」
「そうだ。イスニラム自体が乗っ取られて教団の領土と化すのも、もはや時間の問題だろう」
あの産業国家として名を馳せたイスニラムが――ヴァルターの背中を、冷たい汗が撫でていく。
だが、その直後にイグナーツが放った言葉は、これまでとは比較にならないほどの衝撃と動転をヴァルターに与えることになった。
「これは決して他人事などではない。イスニラムは隣国なのだから、すぐにでも教団の魔の手が迫るだろう。つまり、急進派が議会の中心で踏ん反り返っているこの政情不安の状態では、アストリアも危険だ」
「……!」
「教団からアストリアを守るには、これしかない。ヴァルター。――革命だ」




