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革命せよ、革命せよ、革命せよ  作者: 望月喬
第五章 世界の正史編
144/226

第143話 「▶」

「――王から暗殺命令が下されて、俺はテオスの街に入った。そこでお前らを追ってあの森に入った。それだけのことだ。でも暗殺には失敗した。さっさと俺を殺せばよかったのに、首の皮を一枚つないだのがヴァルターだ。甘いと思ったよ。首一つとれずにノコノコ帰ったって殺されるだけだから、その甘さに甘えてお前らと同行して、その間に殺そうと思った」


 レオが言う。その表情からは何を考えているのか読み取ることが出来ず、皮肉にもそれは、これまでともに過ごしていたときの彼と同じだった。


「やはり、アントゥークで野宿したときに感じた殺気は――」


 言ったイグナーツの右手には長剣が握られている。

 レオの周囲にはアンナやヴェリ、そしてセレナがいた。みなが彼を包囲するかのような立ち位置で、レオを見据えている。


「何度か試したが無理だった。王に報告書を送るのも嫌になった。それを送るたび、自分の無力さを示しているようだったから。褒めてもらえないのは嫌だった。また捨てられるのは、嫌だった」


「レオ」


「アントゥークでナウォーダと再会したとき、王にも捨てられるかもしれないと思い始めた。でも」


 レオが言葉を区切る。いや、厳密に言えばそれは、言葉が途切れるとでもいうような、彼の制御から離れた朧気なものだった。まるで、この気持ちを何と表現すればいいのか、どんな言葉を選べばいいのか、迷っている――そんなことを言おうとしているような。

 やがて、レオは少しの間考え込むようにして黙ったあとで、ぎゅっと表情を歪ませながら、吐き出した。


「でも、そのあと――王以外にも、俺を褒めてくれる奴がいることを知った」


「――」


「褒めるだけじゃない。よく分からない……意味の分からない、感情だ。あいつは、ヴァルターは、それを俺に向けた。あの頃からわからなくなった」


「……ケネーを、殺したときね」


 セレナが答えると、レオは頷くでも首を振るでもなく、ちらと彼女のほうに目線をやっただけだった。そして彼はそのまま、言葉を続ける。一度吐露してしまえばあとは止まらないようで、先ほどよりも幾ばくかは滑らかに話し始めた。


「いや……もっと、前からかもしれない。お前たちと出会って、一緒に行動するようになってから、俺の世界が変わった。視野が広がって、ナウォーダに依存する必要も、ハザに追従する必要もないんじゃないかとわかってきたんだ。少なくとも、孤児院にいたときや、ハザの命令に従っていたときとは違った。ずっと前から、俺が心の奥底で願っていたことが、見えてきたような気がした。でも、ダメだった。俺のなかの真の欲求に気が付いたときには、もう遅かった」


「それは、何で。レオ」


 ヴェリが問いかける。彼の声音は優しい色をしていた。

 それとは対照的に、考え、感じていたことを吐き出し続けるレオの声は、残酷なまでに硬質なもので。


「フィリーネが倒れるのを見て、久しぶりにハザをこの目で見て――やっぱり俺は、俺なんだと自覚した。感情を持たず、ただハザに従うだけ。ハザからは離れられない。あいつは、俺にとって親のような存在だから」


「レオ、やっぱりあなた、本当は――」


 アンナが何かを言いかける。

 しかし、次の瞬間に湧き出たレオの激情が、彼女の追随を許さなかった。


「お前らとッ!」


「――!」


「お前らと、出会わなければ良かった! あのとき殺していれば良かった! あと一日、あと一日って、お前らを殺すのを先延ばしになんてしなければ良かった……!」


「レオ――」


 彼の顔は、ぐちゃぐちゃだった。

 まだ幼い少年がするとはとても思えない類の、幾つも幾つも絶望を味わって、何度も何度も諦めを受け入れてきたような、長い時を生きた老人じみた表情だった。

 いや、彼がまだうら若いから、そんな顔をしてしまうのかもしれない。未成熟だからこそ踏ん切りをつけられないことは、きっと大いにある。立場の違いに苦しむ。感情の狭間に揺れる。正義と正義の緩衝地帯では、自己を確立することなど出来ない。


「でも、駄目なんだよ……親には逆らえない……逆らっちゃ駄目なんだよ。フィリーネの同志も殺して……戻る場所なんてない。資格もない。俺はこのまま……このまま、お前たちの敵で居続けて」


「――うるせえええええええ!!」


「ッ!?」


 声が、飛び込んできた。唐突に割り込んできた、がなり立てるような叫び声。

 イグナーツが、アンナが、ヴェリが、セレナが――レオが、声がしたほうを向く。そこには、崖があった。そして、その奥から、じりじりと体を持ち上げる男がいた。


「ヴァルター!?」


 ヴァルターが、ゆっくりと姿を現す。彼の顔もまた、ぐちゃぐちゃだった。だがそれはレオとは違い、彼よりももっと多くの感情――喜びや怒りを混ぜ込んだ、複雑な表情だった。

 何故こんな状況で、ヴァルターが喜びの色を浮かべているのか。きっと、彼が願っていたことを、レオも心の奥底では願っていたのだと知ったからだろう。


「いつも以上に喋るから黙って聞いてれば、随分へなちょこになったじゃねえか、レオ! 俺らといるときはあんなに気障なくせに、離れられない父親には甘えん坊かよ!」


「なっ……」


「俺たちを殺すのを先延ばしにしてた!? そんな様子じゃ、弱くて殺せなかったの間違いじゃねえのか!」


「なんだと……」


 よく見た、光景だ。この場にいる者ならば、当人であるヴァルターとレオを除いて、全員が思ったことだろう。

 ヴァルターがからかって、レオがむきになる。下らない冗談を言っては槍を投げつけられていたのが懐かしい。いつもそうだ。いつも、そうだった。

 そして、今日も。


「お前がそうやってかわい子ぶってるとなあ――――気持ち悪いんだよ!!」


「殺す!!!!!!!!」


 *


 やっぱり、そうだろう。

 レオが抱え込んでいた想いを聞いて、ヴァルターはほくそ笑んだ。それは、堪えきれずに外へ出てしまった笑みと言っても過言ではなかった。

 やはりエウロやレオは、ずっと昔の話をしていた。重要なのは今この瞬間で、変えることが出来るのは未来だ。前のことにグチグチ言っていても埒が明かない。過去はすでに過ぎ去ったから過去なのだ。

 だから、言う。ヴァルターが覚えた違和感。脳内によぎった引っかかり。レオの一連の行動における、確かな矛盾点。言って、レオを取り戻す。

 否――初めて、こちら側に来させる。


「おい、レオ!」


「――」


 鳴り響く金属音。ヴァルターの剣とレオの槍がぶつかり合って、鼓膜を震わせるような鈍い音が一帯を覆う。


「お前はハザがテオスの民を――つまりフィリーネを恐れていたことを知っていたはずだ! テオスの民がどんな力を持つのかまでは知らなくても、生き残りがいることはハザに伝えられたんじゃないのか!」


「――ッ」


 ヴァルターがそう告げた瞬間、レオの表情が再び硬化する。

 やはり――。ヴァルターの心臓が、もう一度高鳴る。


「それなのにハザはフィリーネのことなんて初めて見たような様子だった――お前は一度もあいつに伝えてなかったってことだ!」


「……そうだ、それがどうした!?」


「お前はほんの少しでも、俺たちがハザに勝つ可能性を考慮していたってことだよ!」


「――!」


 孤児院から逃げてハザの下で動くようになって、てっきりレオにとってマシな生活になったのだと思った。だから、もしかしたら自分が何を言ってもレオはもう戻ってこないかもしれない――とまで、ヴァルターは考えた。

 だが、それは違ったのだ。エウロの言った「アインハルト軍における最大の脅威」。彼によれば、それはヴァルター自身であるらしい。だが、おそらくその認識は誤っている。ハザにとっての最大の脅威、それはきっとフィリーネ――もっと言えば世界中に正しい記憶を継承させる正史の伝播を行える、テオスの民だ。

 だというのにレオは、一度もハザに対してフィリーネのことを報告していなかった。それは何故か。普段の彼からは予想もつかない、熱いものがその心の中に蠢いているのだろう。


「それにお前は、イスニラムでエマさんと戦ったとき、フィリーネのことを守ったはずだ!」


「ッ――!」


「それは、フィリーネを守ることが、きっと自分にとって利益になると考えたからだろ」


「――」


「お前は、本当のところではハザの呪縛から逃げたいんだろ!?」


「――――!」


 図星、とでも言うようなわかりやすい表情。

 やはり彼は最初から、本当の意味での「自由」を欲していたのだ。両親にも、義父にも、ナウォーダにも、ハザにも、誰にも縛られない、依存することのない生き方を。

 誰にも依存することなく自立して生きていれば、誰かに捨てられることも、恐怖で支配されることも、裏切られることもないのだから。


「お前のなかにある真の欲求、それは親でも、誰かに褒めてもらうことでもなくて、お前がお前がであることだ。お前が――レオが、自由になることだ。だったら、俺らがハザを倒すことが理想なはずだ。そうすれば、お前はハザから離れられるんだから」


 ぴたりと、剣戟が止む。刹那的な沈黙が、夜のとばりのように落ちる。

 ヴァルターが距離を取って、酸欠になった肺を労わろうと呼吸した、次の一瞬。


「――――ああ、そうだ!」


「!」


 取ったはずの距離が一瞬で縮まって、目の前にはレオがいた。


「その通りだ、俺はどこかで期待してた!」


 レオが槍を振るう。


「いっそこのままヴァルターたちと行動すれば、ハザを倒して自由になれるんじゃないかと考えてた! でも、だから、駄目なんだッ!」


 レオの痩躯が翻る。

 彼の必死な形相を見ながら熾烈な攻撃を受けていると、その身軽さに何度も救われ、助けられ、支えられてきたと、走馬灯のように幾つもの情景が浮かび上がる気さえした。


「俺はもう、後戻りできねえんだよ! テオスの民を、フィリーネの仲間たちを手にかけて――!」


 だがヴァルターは、その「過去」の景色たちを、意識して振り払う。


「後戻りできないかどうかなんて、お前が勝手に決めつけてるだけだろうが!」


「――ッ!」


「自分は自由にはなれない――気づいたときには、もう遅かったから! すでにハザに従って、テオスの民を殺していたから! ハザは初めて親だと感じた存在だから!」


 過去など、とうに過ぎ去ったと――此処には存在しないのだと。


「だから、このままハザと一緒にいるしかない!? くだらねえ!」


 ただ、全て繋がっているだけで。未来を選択するのは、あくまで今の自分なのだと。


「そんなのは建前だろ――本当はもう、自由になろうと足掻くことを止められないくせに! 一人前の自立した大人になることを、諦められないくせに!」


「なんで――なんで、本気にならない!」


 レオが叫ぶ。絶叫に近い、叫び。


「もっと本気で来い! 本気で戦え! 本気で殺せ!」


「嫌だ!」


「ッ、だから、なんでお前はそうやって――!」


「お前は俺の仲間だからだ、レオ! 自分の仲間を、本気で殺そうとする奴がいるか!」


「――だから!」


 レオの右足が地面を蹴り飛ばす。土がめり込んで、残像を置く速さで彼の全身が射出される。


「その仲間が裏切り者だったんだ――フィリーネの同族を殺してたんだぞ!」


「話を逸らすんじゃねえよッ!」


「!?」


 向かってきたレオの槍。それを、ヴァルターの影色の剣が強引に弾き返した。

 あまりにも受けた衝撃が強かったのだろう。レオの小さな体はふわりと持ち上がると、地面を転がり回りながら後退していった。


「お前はいっつも勝手だったよな、レオ――すぐどこかへ行くし、協調性はないし。お前のせいで迷惑を被ったことなんて、何度あったか数え切れねえよ。だから、お返しだ。この際、俺も出来る限りの我儘を、好き放題に言ってやる」


 レオのもとへ、歩く。

 そうして距離を詰めつつあるヴァルターに向かって、すんなりと立ち上がった金色の少年は、眼光を強めて言い放った。


「……何を言ったって変わらねえよ。俺はお前の敵だ」


 刹那。


「――黙れ」


「!」


「俺が話してんだよ、レオ……黙れ」


「――」


 怒りだった。

 人間というより野性に近いレオを黙らせたのは、動物的で本能的な、純粋な怒りの感情だった。


「なあ、レオ。話を逸らすなよ。すぐ、フィリーネがどうのこうの。お前には何が見えてんだよ。今、お前の目の前にいるのは、フィリーネじゃねえだろ」


「……!」


「今、お前の目の前にいるのは、俺だろうが。それで今、俺が話してんのは、俺とレオのことだ。フィリーネとのことじゃねえ」


 間合いを詰めるのに、一秒。今となっては人知を超えた速度を持つヴァルターとレオでもそのくらいは要する位置で、歩を止める。


「フィリーネのことは、全部終わったあとにフィリーネが決めることだろうが。謝ってもフィリーネが許せねえって言うなら、そのときにフィリーネに殺されちまえ。お前はそれだけのことをやったってことだから。でも――“今”の俺とお前には、関係ねえよ」


「……何を言いだすかと思えば、そんな詭弁――!」


 レオが獣のような顔をして、再び槍を構える。


「だったら、“今”の俺が言ってやるよ――俺を殺せ! 俺はお前を殺すから!」


「ぜっっったいに、嫌だッ!」


「テメエ――【威武(ソリティア)】!」


 夜を吸い取ったような黒槍が短くなる。

 それに合わせて、レオの周囲で赤黒い稲妻が怒号を放つように蠢いて――、


「絶対に――お前を殺すッ!」


 右足を持ち上げ、踏み込む。土煙が、舞う。


「俺がここでお前を殺して、何になる――フィリーネは浮かばれない。俺は仲間を失う。レオは、一度も自由になれないまま死ぬ。誰一人、幸せになんてならねえよ。だから、俺は絶対に――お前を、殺さねえッ!」


 レオが突撃する。

 それに対して、ヴァルターは変わった対応を取らなかった。ただ胸の前に剣を置いただけの、シンプルな防御姿勢。

 一秒――レオが眼前に到達する。即座にヴァルターが剣を下ろし、黒槍の軌跡に沿って弾かんとする。そのままヴァルターが剣で防御しきる――かと思われたが、そこで彼の右腕の動きが止まった。


「!?」


 防御、していない。それはもはや捨て身ともいえる、“繋ぎ目”のない反撃。


「てめ――」


 ヴァルターは剣で弾くのではなく、身を捻ってレオの一撃を躱した。反応速度は、すでにルガルで強化されている。

 そして黒槍が空を切った一瞬の隙を突いて――レオの顔面へ、左拳を叩き込む。


「がッ……!?」


 思いもよらない身一つの反撃。レオは顔面を殴打された衝撃でよろめいたのち、尻をつくようにして倒れ込んだ。


「なあ、レオ。お前、俺を舐め過ぎじゃないのか」


 レオと初めて出会ったとき、意識を失ったイグナーツが復活するまでの間、ヴァルターが耐え忍んだことがあった。あのときは、テオスの滅びた村で発見したナイフで何とか凌いだものだ。

 イスニラムとの戦争時、レオが殿から帰還して、彼に向かって宣言したことがあった。自分の反射能力がもっと上がったら、いつか槍を躱した瞬間に反撃を打ち込んでやる、と。


「言った通り、重たかったろ、俺の反撃は」


「……ッ」


「俺は俺のままじゃねえんだよ。最初の、お前と出会ったときの、俺のままじゃ」


 ヴァルターはそう言うと、今度こそレオとの距離を詰め直す。「一秒」の間を空けることもしない。それだけ決定的な一撃だったと、確信していた。


「もう俺は、イグナーツを頼りに、『一撃だけ耐えてやる』なんて言わねえ。隠したナイフで奇襲するなんて、姑息な手段も取らねえ。お前なんてクソガキ――俺一人の身体で、渡り合える」


「こ、の――!」


 それでもレオは起き上がり、攻撃しようとした。

 が。


「――!」


 朱色の切れ目が丸く見開かれて、小さな体が後ろへ倒れ込む。まるで何かに背中を引っ張られたかのような不可解な現象に、レオは少なからず戸惑ったらしかった。

 しかし、彼が不意に後ろへ振り返った瞬間、その驚きはさらに大きなものとなる。


「ヴァルターが、二人いる――?」


 レオの後ろには、ヴァルターが立っていた。だが、レオの前にもヴァルターが立っていた。

 すると、何が起きているのか把握できていない彼に対して、前にいるヴァルターが口を開いた。


「第三の宝玉だ。カヌアさんに譲ってもらったんだよ。【虚像(アクタエストファーブラ)】、相手の認識を利用する、今までの宝玉とは違って複雑なルガルだ。多分、もっと色んなことができる」


 そう前置きすると、レオが次に瞬きをしたあとには、三人目のヴァルターが現れていた。

 カヌアから譲り受け、崖を登り始める前に飲み込んでいたわけだが――かなり使いこなすのに慣れがいるルガルだ。おそらく使用者の「分裂」は、【虚像】の能力の一端に過ぎないのだろう。


「無茶苦茶、だな」


「レオ」


 本体以外の分身を消すと、ヴァルターは改まったふうに呼びかけた。


「お前はハザから解放されたがっている。そして俺はハザを倒したくて、今のところこの世界で唯一四つの宝玉すべてを扱える人間だ。今みたいにな。何が言いたいかわかるだろ」


「……」


「正しいかどうかに正解はない。自分が正しいと思うか。お前が俺に言ったんだ、アントゥークで」


 アントゥークで、ケネーを暗殺したあと。正しさと正義に思い悩んでいたヴァルターへ、レオはそう声をかけた。


「――俺は正しいと思う。お前が俺に賭けたのは正しかった。お前は、ハザを倒すことに関しては最も成功する可能性の高い男を選んだんだ」


「――」


「ハザなんて関係ない。フィリーネだって関係ない。レオ自身の、レオにとって正しい選択はなんだ」


「――」


 レオの両目に、夜空に輝く星々が映る。

 彼が地べたに座り込んで星空を見上げる姿は、年相応の無邪気さを孕んでいた。


「……俺は、自由に、なれるだろうか」


「なれる」


「両親に捨てられて、孤児院で義父に管理されて。ずっと、独りじゃ生きられないと思ってた。自分には力がないから。自由意思を支払って、生命を受け取るしかないんだと思ってた。だから俺は、無意識のうちに誰かに縋ってたんだ。ナウォーダや、ハザに。それでも、そんな俺でも――自由に、なれるのか」


 その両目から、静かに涙が流れた。

 それはまるで、朱色の瞳から、星々が流れ落ちているかのようだった。

 彼が零した初めての涙に、ヴァルターは頷いてみせる。強く、それはもう、大袈裟なくらいに。


「なれる。賭け続けてみろよ。俺がハザを倒して、自由になれる可能性に」


「――――」


 レオはやはり、静かに涙を拭った。


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