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94話 氷結地獄+ハエの王

 可憐たちが黒服の男と話している頃、コキュートス第一地獄では、氷に閉じ込められたルシフェルの肉体を前に吹雪と皐月が溶けない氷のグラスに人間の血を注ぎながら談笑していた。



「本当に良かったんですかー? サタン様。あの女(リリス)をあんな簡単に手放してもー」



 膝を着きながら人間の血に大量の角砂糖を混ぜる皐月。それをまるでワインを飲むかのように優雅に飲む。吹雪は氷で出来た玉座に座りながら血を飲んでいた。



「可憐のあの絶望した目を見ただろぉ? 優美(リリス)はあれがサイコーの使い道だぁ」



 氷の玉座に足を組みながら座る吹雪。彼の瞳には閉じ込められている自身の肉体を映していた。二千年以上前に戦いの大天使ウリエルによって封じられた肉体は長い時が経ったとは思えないほど綺麗に氷の中に眠っていた。



「んでー。この一週間っていう期間はどんな意味がー?」



 砂糖によって甘ったるくなった血を一口飲む皐月。もはや血液独特の鉄の風味は失われ、ただ甘い液体となっていた。皐月はそれをまるで甘味料を飲むかのような感覚で喉を通らせた。砂糖と混ざった血液は決してのどごしの良いものではなかったが、それ以上の甘さが皐月の舌を満足させていた。


 一度グラスの血を飲み干すと、皐月の口元にはドロっとした半固形状の血がゆっくりと垂れていた。それを簡単に親指で拭うと再度口に含み、飲み込む皐月。



「恐らく、アイツらは今回の件で絆を深めてくるだろうなぁ。そんな時にあんな事したら可憐のメンタルはもう限界だろうなぁ」



 吹雪が皐月に立ち上がるよう指で指示する。皐月は氷のグラスを床に置き、ゆっくりと立ち上がり、吹雪に耳を傾ける。耳元で吹雪が何か呟くと、皐月は一度軽く目を見開いた後、ゆっくりと口角をあげた。吹雪から離れ、忠誠を誓うように(かしず)く皐月。



「なるほどー。それは可憐ねぇが一番望まないシナリオですねー」



 六枚の羽を羽ばたかせ、不快な音をたてる皐月。頭部の赤い複眼が氷の光りを反射させ輝く。


そんな皐月を吹雪は笑いながら見ていた。彼の白い歯が笑みと共に現れ、氷結地獄に映えるように輝く。



「お前にとっては、少し面白くねぇシナリオかもしれないけどなぁ」



 自分の目の前で膝を着く皐月の羽を撫でる吹雪。契約者らしくない皐月の羽は薄く、透明感があった。虫の羽らしく、少しでも力を強く入れたら破れそうなくらい脆い羽は、皐月の転生前の心情を表しているかのように柔らかかった。



「貴方様の為ならばこのベルゼブブ、例え死を命令されたとしても快く従います」



 片手を心臓の位置に添え、忠誠を誓う皐月。それを見た吹雪は満足気な笑みを浮かべ、玉座の近くに積まれている角砂糖を一つ左手で摘んだ。その後右手を皐月の顎に触れ、強制的に視線を合わせる。抵抗しない皐月。兄と同じ紫色の瞳が自分の(あるじ)を鮮明に映す。


 そんな皐月に吹雪はつまんでいた角砂糖を口に押し込んだ。抵抗せずに角砂糖を口にふくむ皐月。口内は砂糖の甘さで支配された。甘ったるいと万人が思うであろうその味は、愛情に飢えている皐月の心を満たし、吹雪への忠誠心へと変えた。



「嬉しい事言ってくれるじゃねぇーか、ブブ」



 指先についた角砂糖の欠片を舐めとる吹雪。欠片だけでも甘い砂糖の塊は、吹雪にとって少し不快な味だった。そのまま皐月を見る吹雪。彼の黒い瞳はどことなく猛と似ていた。



「オレは純血にしてくださったあの時から全てを貴方様の為にと思ってますからねー」



 口元だけ微笑する皐月。彼の口には既に角砂糖は無くなっていた。口元に僅かについていた角砂糖の欠片を親指で拭い、口に入れる。少量の砂糖は、皐月には物足りず、もう少し甘さを求めるように唇全体を舐めた。皐月が僅かに動く度に悪魔の魔力の色をしたドクターコートが氷の床を撫でる。


 丁度その時だった。傷だらけのルキフグスが頭部の流血を手で抑えながら二人の前に現れた。



「あ、(みそぎ)はどうだったー? ルキフグスー」


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