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93話 狂想曲+終演。


 四人が振り返るとそこには、Eランクで出会った二人の黒服の男が辺りを見渡していた。長身の男の方が手元にあるタブレット端末に何かを書き込む。小太りの男の方は猛の姿を確認すると、ビクビクと震えながら長身の男の後ろに隠れていた。



「どうやら、君たちとは不思議な縁があるみたいだな。数時間前、Aランク全体で巨大地震が起こった。それがここ二百年で起こった震度と規模が想定外でな。築年数が古い集合住宅は全壊し、死者は現段階で数百名。状況を確認するために、我々がこちらに向かったら、君たちしか生存者は確認出来なかった」



 長身の男はそこまで言うと口を閉じ、光たちをじっとみた。誰のものか分からない血と泥で髪や衣服は汚れ、腕や足に擦り傷や切り傷がついている。まるでEランクにいたかのような格好をしている彼らを男は無言でタブレット端末にこの事態を記録していた。


 これ以上話すことは無いと言わんばかりの威圧感に光は可憐を守るように前に出た。明らかに上の人間が作り上げた物語に全員が違和感を覚えていたが、長身の男の機械的な目が発言権を奪った。



「どうせまたお前たちがやったんだろ」



 小太りの男が光たちを睨みつけながら呟いた言葉。しかし、誰も否定も肯定もしなかった。弘孝だけが僅かに小太りの男から視線を逸らし、俯いた。長身の男はそれを聞かなかった事かのように話を続けた。



「怪我の状態も確認したいので、君たち四人は数日だと思うが、Sランクにて治療を受けて欲しい。この災害について色々教えて欲しいこともある。今すぐ車に乗ってくれ」



 ここにこれ以上居たら鼻がおかしくなると付け足し、男たちの背の方にある黒塗りのワゴン車を指さす。男の言葉を聞いた可憐は立ちあがり、光を軽く押しのけ前に出た。



「待ってください。父や母の安否を教えてください」



 黒服の男たちが現れて最初に口を開いた彼女の目は先程の涙やくすみは無くなっていた。


 男たちの言い分からすると、悪魔たちの仕業を災害という形で片付け、それに関係しているであろう可憐たちを国が管理しやすいSランクに隔離し、事態が落ち着いたら口止め料を渡して解放する。Eランクと同じ方法なのだろう。その為に可憐たちに今直ぐに現状を語られると国の作り上げた台本と変わってしまうため、黒服の男たちは発言させないように事態を説明し、その後の行動を指示した。


 彼らの言動を理解した光はEランクの時と同じような蔑んだ笑みを可憐に見られないように男たちに向けていた。



「君は確か、磯崎可憐さんだったな。安心していい。君のご両親は無事に避難している。これは国が保証する」



 タブレット端末で資料を確認する事無く即答する長身の男。あまりにもスムーズな回答に可憐は違和感を覚えていたが、とりあえず目的である両親の安否確認が出来たので、これ以上話をややこしくするのは得策ではないと判断し、ゆっくりと頷いた。



「ありがとうございます」



 安堵の息をもらす可憐。光がそれに被せるように笑った。



「ははっ。ぼくたちを口封じと辻褄合わせに隔離し、用が済んだらまた金銭で口止め。相変わらずですね、国は」



 光の朱色の瞳が二人を映す。Eランクとは違い、殺意の込められた笑い声は小太りの男を黙らせるには充分だった。



「光、これ以上はやめとけ」



 猛が光の肩を掴む。光の瞳は黒に戻っていた。二人のやり取りを確認した長身の男は一度咳払いをすると、再度黒のワゴン車を指さした。



「話を理解しているなら黙って我々の言う事をきいてもらう。安心しろ。怪我の治療や衣食住の確保は国が保証している。君たちはただ、ついてきて事態の説明を上層部にするだけだ」



 長身の男の機械的な口調。これ以上会話をする意味が無いと言わんばかりの威圧感は光を再度小さく笑わせ、可憐と弘孝をワゴン車へ足を進めさせた。猛は光の肩を軽く押して、可憐たちに続けさせた。



「丁度いい。Sランクは俺たちが動くにはもってこいの場所だ。それに、一週間後、ルシフェルが襲撃してくると予想するならば、今はひとまず身体を休ませるのが最善策だろう」



 可憐と弘孝にだけ聞こえる声で呟く猛。Sランクを知らない二人には、猛の言葉を半分ほどしか理解出来なかった。


 時折、誰かが生きていた肉を踏む音が可憐の耳を支配する。不快感を通り越し、ボロボロになったスカートの裾を握りしめる事しか出来ない彼女の歩いた跡には、エメラルドグリーンの魔力とは別に闇と毒を混ぜた色をした魔力がうっすらと混ざっていた。


 Aランクが氷結地獄から肉片の山となった事件を知るものは既にこのランクから姿を消し、一人も居なかった。


 ただ、一匹の黒猫が躊躇いなく肉片の山を登り、可憐たちがワゴン車に乗り込むのを見ていた。

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