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85話 狂想曲+慈悲

 剣と弾丸を防いだのは可憐を肩に寄せながら二人の前に飛び降りてきた皐月だった。虫の羽が二人の魔力を簡単に打ち消す。



「蝿の王! 可憐から離れろ!」

 


 光の瞳が鮮やかな朱色に染まる。アスタロトの毒により力を失った翼が力なく音を立てた。



「あー。愛の大天使ガブリエルじゃーん。初絡みー」



 挨拶がわりの殺意の込められた魔力を光に向かって放つ。光は剣を構え、皐月の攻撃を弾こうとしたが、その前に現れた六枚の翼を持つ契約者により皐月の魔力が当たることは無かった。



「ミカエル!」



 猛が皐月の魔力を剣で弾く。弾かれた魔力が氷の塊にぶつかり、消える。


 猛と同時に駆けつけた弘孝もまた、皐月を睨みつけていた。黒い長髪が皐月を睨みつける度に揺れた。



「蝿の王、磯崎を離せ」



 猛の殺意の込められた言葉。剣先を皐月に向ける。そんな猛を見て皐月は可憐を更に近くに抱き寄せながら笑った。



「やなこったー。なんなら今ここでオレと契約させてもいいんだからさー」



 抱き寄せている皐月の左手から可憐に魔力を注ぐ。可憐の体内に悪魔の魔力が巡り、苦しめた。


「可憐!」



 可憐は光の声が遠く聞こえるくらい意識が遠のいていた。皐月の魔力が可憐の首元の魔痕を鮮やかに甦らせる。



「苦しい……」



 呼吸が浅くなり、視界が狭くなる可憐。自分の魔力を使い相殺させようとしたが、それ以上に皐月が魔力を注ぎ込むことにより、無意味な行動となっていた。




「可憐から離れろ!」



「お前の墓場はここでいいんだな」




 光と弘孝が剣を振りかざし、皐月を攻撃する。しかし、皐月は弱った可憐を盾にするかのように前に差し出した。苦しむ可憐を見た二人が振りかざしていた剣を皐月に当てることなくゆっくりとおろした。数歩さがり、距離をとる。



「こっちには大切な、悪魔の器(おひめさま)がいるんだからー。気をつけないと、ゲームオーバーだからねー。ベルとアスタロトは、ルキフグスを連れて氷結地獄(コキュートス)に一回、避難しようかー。魔力が不安定になってきてるからねー」




 可憐を盾にし、皐月が数歩さがる。辺りを見渡すと、弘孝の魔力で作られた氷を更にルキフグスの魔力で上書きされていた氷の塊は情緒不安定のルキフグスと春に近い気温により徐々に溶けだしていた。



「御意」



 アスタロトとベルフェゴールが皐月に一礼する。二人でルキフグスを支えながら光や猛たちと距離をとる。その間も皐月は可憐に魔力を送り続けていた。



「皐月君……やめて」



 自身の魔力で相殺しながらも、それ以上の魔力と首元の魔痕が可憐の生気を奪う。皐月は可憐にだけ聞こえるように耳元で囁いた。



「しんどいだろー。オレはコレを、あの方と契約するまでずーっと耐えてたんだよー。可憐ねぇは知らなかったから許すけど、兄貴やオレの両親はわかった上でオレを放置していたんだー。そりゃグレても仕方ないよねー。」



 皐月の言葉に可憐は耳を疑った。悪魔の魔力が自分の体を巡り、苦しめる地獄を皐月は生まれてからずっと耐えていた事実。幼い頃の皐月はそのような事を一言も口にせず自分に笑顔を向けていた。痛みを共有し、初めて理解した皐月の苦しみは魔力の苦しみだけではなく、精神的にも可憐を苦しめていた。



「私は……」



 今まで気付かないまま接していた事に対して謝罪するのか。しかし、それは何か違う気がする。可憐はそう思い、それ以上口にすることが出来なかった。首元の魔痕が更に濃くなり、誰かに首を絞められているような感覚に陥る。



「可憐!」



 光が叫びながら皐月に剣を振りかざす。皐月はそれを簡単に羽で受け止め、弾き返した。光らしくない朱色の瞳が皐月と苦しむ可憐を映す。



「ほらー。天使たち(アイツら)はオレが引き受けるから、早く逃げなー」



 視線を一度アスタロトたちに向け、指示をする皐月。アスタロトがそれに答えるように一礼し、魔力で三人を包み込んだ。



「させるか!」



 弘孝が剣を振りかざし、アスタロトを攻撃する。春紀もまた、弘孝を援護するように自身の拳銃を使い、攻撃した。弾丸が弘孝よりも早くアスタロトを狙う。



「アスタロト様!」



 ベルフェゴールがアスタロトを庇うように前に出る。オッドアイの瞳が弘孝を捉えた時、弘孝の動きが一瞬止まった。しかし、その前に春紀の弾丸がベルフェゴールの肩を撃ち抜いた。




「うっ……」



「スズ!」




 悪魔としての血がベルフェゴールの肩から衣服を汚す。しかし、ベルフェゴールは弘孝をしっかりと捉えていた。両手を広げ、アスタロトとルキフグスを守る姿勢をとる。



「躊躇うな! ウリエル!」



 猛の叫び声により、弘孝は自分の感情を押し殺し、震えながらも再度剣を振りかざした。しかし、弘孝の紫色の瞳がスズを映し、決意を揺るがした。



「スズ! 僕の所へ来い! そして、共に生きよう!」



 振りかざした剣を手放し、空いた右手をベルフェゴールに向かって差し出した。ベルフェゴールもまた弘孝に視線を移す。彼の長い呪われた髪が大きくなびいていた。ベルフェゴールの胸が撃たれた肩よりも痛く、苦しんだ。


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