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77話 狂想曲+鈴の音(1)


 可憐の視線に気付いたルキフグスは優しく手を振った。見た目は幼い少女が手を振っているだけだが、彼女の周りには普通の人間が触れたら全身を魔痕に犯され、即死に至るほどの魔力がこぼれていた。



「ルシフェル……サタンがいる時点でその提案は無意味だよ。地獄長」



 可憐の体調を確認すると、光は立ち上がり剣を向けた。



「あは。バレちゃったか。でも、ボクたちはラファエルとウリエルの器が本当に欲しいんだ。特にラファエルはね」



 本当に初代のラファエルそっくりだと付け足し笑うルキフグス。再度指を鳴らすと、弘孝が作り上げた氷柱が一気に崩れ始めた。光が慌てて可憐を守るように魔力で降ってくる氷の塊を防ぐ。数十秒後、氷柱は全て崩れ落ちていた。


 可憐が辺りを見渡すと、そこには弘孝と猛が皐月と魔力で攻防戦を繰り返していた。足を氷で固定されている皐月だが、魔力を使い弘孝たちと間合いを取っていた。


 氷柱が砕け、視界が晴れると、スズがいの一番に動き、皐月のフォローに回った。



「ベルゼブブ様!」



 魔力で氷を溶かそうとするが、スズの魔力は悪戯に氷に吸収されて終わった。



「僕の魔力が……壊れた?!」



 氷柱が破壊され、辺りを見渡す弘孝。弘孝の集中が途切れた隙をつくように魔力で攻撃する皐月。猛がそれをフォローするように剣で弾いた。



「ベルー。お前の魔力程度じゃ混血のウリエルの魔力に勝てないんだよなー」



 来てくれたのは嬉しいんだけどねーと付け足し、視線をずらす皐月。彼の視線に気付いたルキフグスが瞬時に近寄り、弘孝を魔力で突き飛ばした。



「弘孝!」



 猛の叫び声に弘孝は答えることは出来なかった。腹部に魔力の塊を当てられた弘孝は口から血を吐いた。内蔵がえぐられるように痛かった。



「遅くなりすみませんでした」



 ルキフグスが魔力を使い、皐月の動きを封じていた氷を破壊する。微かに切り傷が皐月の足首に出来ていたが、瞬時に自分で止血した。



「ありがとー。花の契約者は殺せたのー?」



 簡単に足首を動かし、以上がないか確かめる皐月。ルキフグスは皐月の言葉に首を横に振った。



「魔力は限りなくゼロにしました。ただ、ボクの力では完全に魂を消すことは出来ません。ベルゼブブ様、お力をお貸しください」



 ルキフグスの言葉に皐月は視線を可憐たちの方へ向ける。そこには氷柱に閉じ込められている春紀の姿があった。



「あそこまで弱ってたら特別急ぐ必要は無さそうだねー。よし、まずは兄貴から()るかー。っとその前にー」



 皐月が軽く可憐たちに向かって手招きした。ルキフグスがそれに気付き、可憐と光の真下に氷の床を作り、床ごとこちらに引き寄せる。突然の出来事に可憐は思わず尻もちをつき、抵抗出来ずに皐月の前に降ろされた。




「皐月君……」



「可憐ねぇはここにいる悪魔全員が死んだとしても手に入れたいんだよねー。って事でちょっと囚われのお姫様しててねー」




 皐月が右手を鳴らした。それに応えるようにルキフグスが魔力を使い、崩れた氷柱だったものを可憐の周りに集め、数秒後には簡易的な牢屋が出来上がった。しかし、牢屋に閉じ込められたのは可憐だけではなかった。



「ベルゼブブ様?!」



 可憐と共に閉じ込められた人物。それは皐月たちの仲間であるベルフェゴールであった。氷で出来た足枷がベルフェゴールの自由を奪う。



「ベルもそこで待機しててねー。兄貴とミカエルがもしかしたら、二重契約を持ちかけてくるかもしれないしー」



 ルキフグスによって作られた氷の足枷がベルフェゴールの魔力を奪う。立ち上がるのも困難なくらい魔力を吸われ、膝を氷の床に着けながら座り込むベルフェゴール。



「スズ!」



 可憐がベルフェゴールに駆け寄る。崩れ落ちた彼女を支えようと手を差し出すと、ベルフェゴールはそれを叩いて拒絶した。



「あなたに慈悲をもらう程私は落ちぶれていません」



 赤と青のオッドアイが苦痛で歪む。氷で出来た足枷が彼女が動く度に音を立てる。



「スズ…… 」



 拒絶された自分の右手を見つめる可憐。魔力で彼女を治療したかったが、天使と悪魔ではお互いに苦しめることしか出来ないのでただ床の氷に爪をくい込ませることしか出来なかった。



「良かったねー。ベルー。ラファエルにもウリエルにも好かれてー。裏切り者だねー」



 皐月の嫌味にベルフェゴールは俯くだけで返事はしなかった。



「んじゃー。二人で仲良くお留守番しててねー」




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