表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/234

74話狂想曲+告白(1)

 震えながら告げられたスズの正体。それを聞いた弘孝は剣を強く握りしめた。



「わたしの事は知っていると思うけど改めて自己紹介させてもらうね。十地獄第四地獄"奈落"地獄長魔界公爵アスタロト。これが本当のわたしよ、可憐ちゃん」



 七海として会ってた頃の桃色の髪色は完全に闇と毒に近い色となり、鼻腔を刺激する死人の臭い。面影は猫なで声と顔の雰囲気しか無かった。



「これで三対三。本当のイーブンだよなー。二人とも、自己紹介よく出来ましたー」



 満足気な笑みを浮かべ、スズの頭を撫でる皐月。そのまま撫でていた手を彼女の頬に移動した。絹のような肌をなぞるように触れ、顎で止まり、スズの顔を皐月に強制的に向かせた。その後、皐月はスズの許可なしで自分の唇をスズの唇に重ねた。


 予想外の行動に可憐と弘孝は固まった。皐月がスズの唇を舐めるように重ね、次第に舌を口内に入れる。唾液と魔力が交わり、二人の重なる唇の隙間から雫のように落ちる。


 二人の接吻をアスタロトは皐月にバレないように蔑みを込めた目で見ていた。



「ん……」



 酸素を求めるように吐息をもらすスズ。その吐息さえも自分のものにしようと更に深い接吻をする皐月。スズは僅かだが、視線を弘孝に移した。その後、美しい瞳から一滴の涙を流す。


 スズの涙を見た弘孝は我に返り、剣を再度握りしめた。



「スズ!」



 三人の地獄長に半分血が跪けと訴えていたが、それを無視し、助走をつけた。そして皐月に剣を振りかざしたが、それは隣にいたアスタロトのステッキによって簡単に受け止められた。



「弘孝!」



 弘孝が先に行動したことにより、猛も悪魔のもとへ剣を振りかざした。弘孝より強力な魔力を持つ猛の攻撃はアスタロトでは防ぎきれず、数メートル飛ばされた。



「きゃ!」



 悲鳴と共にアスタロトは背中を氷の塊に強打した。口から僅かに血が吐かれた。


 アスタロトの様子を見てはじめて皐月は視線をスズから逸らし、唇を解放した。二人の混ざった唾液が糸を引き、未だに二人を繋いでいた。


「なんだよー。せっかくのご褒美タイムだったのにー」



 こぼれていた唾液を左手で簡単に拭い弘孝を睨む皐月。弘孝はそれ以上の殺意を込めて皐月を睨みつけた。長い黒髪が弘孝の肩を撫でる。



「スズから離れろ。下衆」



 弘孝のいつも以上に怒りで低くなった声色。それを聞いた皐月は先程の接吻の余韻を楽しむかのように自分の唇を舐めていた。



「売女にそこまでキレるなよー」



 スズを最大限に侮辱する言葉を口にする皐月。その一言により弘孝は自分の持つ魔力以上の力を使い、周辺に氷の柱を作り上げた。突如現れた氷柱に皐月とスズ、アスタロトは一度距離をとった。



「これ以上彼女を侮辱するな!」



 氷柱が三人を引き離すように地面から現れ、動きを封じた。スズが魔力を使い、氷柱を破壊しようとしたが、彼女の魔力では氷柱はビクともしなかった。



「弘孝! これ以上無理に魔力を使うな!」



 猛の叫び声に我に返った弘孝。これ以上氷柱が現れることは無かった。



「ベルゼブブ様!」



 アスタロトの叫び声に皐月も冷静さを取り戻した。声のするほうを向いたが、氷柱によって姿を確認することは出来なかった。皐月は、自分の剣で氷柱を斬るように振りかざした。しかし、氷柱は斬れる事なく、耳が痛くなるような音が鳴っただけだった。



「転生してないっていっても、ウリエルの魔力、そして混血だとかなり強力だなー」



 剣に更に魔力を込める皐月。しかし、氷柱だけではなく、地面までも氷になっていた事に気付かず、いつの間にか皐月の両足はウリエルの氷によって動きを封じられていた。



「やべー」



 バランスを崩し、剣を氷の地面に突き刺し、支えにする皐月。



「可憐!」



 冷静さを取り戻した弘孝はまず可憐の居場所を探した。幸い、数メートル後ろに可憐はいた。



「弘孝! こんなに魔力を使って……大丈夫なの?」



 滑る氷に気を付けながら可憐は弘孝の元へ走る。息切れをしている弘孝の左手をそっと両手で包み込み、自分の魔力を注いだ。可憐の魔力は弘孝の中であたたかい湯に浸かっているような心地良さがあった。




「感謝する、可憐。お陰でまだ戦える」



「まだって……あなたがいくら戦いの大天使ウリエルの魔力を持っていると言っても私と同じ人間なのよ。このまま命を落としたら……私の事も、Eランクのみんなの事も忘れて戦うのよ。もう少し、ウリエルではなく、弘孝でいて……」




 可憐の言葉に弘孝は心臓に鉛の塊を埋め込まれたような感覚を覚えた。胸が締め付けられるように痛かったが、締めつけの痛みが無くなると、今度は別の胸の痛みが弘孝を襲った。それがどの自分としての感情なのか、弘孝には分からなかった。



「……。確かに僕は人間として育てられた。しかし、完璧な人間ではない。言っただろ。僕は天使と悪魔の間に生まれた異端者だ。どこにも属せない。そんな僕でも同じことが言えるのか」



 言葉を選びながら話す弘孝。周りの氷柱の冷気が彼を感情的に話すことを封じていた為、可憐に正直に話すことが出来た。しかしそれは、可憐に弘孝らしくないという印象を与えてしまった。



「……。言えるわよ。言ったでしょ。私はあなたを赦すと。あなたが混血であろうと、ウリエルであろうと、今まで私と一緒にいてくれたのは椋川弘孝(むくがわひろたか)なのよ。あなた以外の幼なじみは私は要らないわ」



 可憐の黒い大きな瞳が弘孝を映す。弘孝は彼女の瞳に映る自分の姿に目を見開いた。可憐の慈悲深い魔力。それは大天使ラファエルとしてももちろんあるが、磯崎可憐としてでもあった。



「お前のその言葉で僕は、僕でいられる。お前の笑顔が守る理由になる。お前の涙が僕を強くする……。ありがとう。可憐。僕の大切な友人でいてくれて」



 握られていた左手を軽く払い、両手で剣を握りめる弘孝。辺り一体を氷結地獄にしたにしては疲れや眠気を感じていなかった。それは、可憐の癒しの魔力のお陰だろうと自己解釈し、魔力を剣に集中させた。ルビーレッドの炎のような魔力が剣に纏われた。



「弘孝、無理はするな。幸い、悪魔たちは合流不可能な状態だ。一対一(サシ)でいくか、一体ずつ倒していくか……」



 猛がゴールドの魔力を剣に纏いながら二人に合流した。可憐が猛の剣に触れ、魔力を送り猛の魔力を回復させた。



「二対一で確実に倒そう。それに、あのクラスの地獄長ならば、魂の解放はミカエルしか出来ないだろうしな。ただし、僕のこの魔力がどれだけ奴らの動きを封じる事が出来るかは分からない。特に氷に強い悪魔が応戦してきたら……」



 弘孝の言葉を遮るように皐月が魔力を氷柱に当てて壊そうとする音がする。しかし、氷柱は魔力を吸収し、皐月を疲労させるだけだった。



「時間が無い。まずは皐月……ベルゼブブを倒そう」



 剣を一度魔力に戻し、両手を自由にする弘孝。近くの氷の塊に触れ、深呼吸をした。すると、弘孝の背中に左右三枚ずつ計六枚の翼が現れた。ただ、半分は黒い翼であった。



「弘孝……。その翼……」



 可憐の言葉に弘孝は彼女に背を向けた。六枚の翼が音を立てる。



「これが本当の僕だ。可憐。僕は天使でもあるが悪魔でもある。お前の嫌いな非科学的な存在だ。そして、僕はお前に嫌われる事を第一に恐れ、この事実を今まで隠していた。しかし、これだけは言わせてくれ。僕は可憐の傍にいる時、天使として悪魔としてではなく、椋川弘孝(僕自身)として生きていけた。この事は虚飾ない事実だということを知って欲しい」



 美しく羽ばたく六枚の翼。それはリアリストの可憐ですら心を奪われた。ここまで目の前の幼なじみである彼に見惚れたのは初めてだった。



「えぇ……。分かっているわ。あなたは今までも、これからも椋川弘孝(あなた)である事には変わりないわ。それと……。とても綺麗な翼だわ」



 予想外の褒め言葉に弘孝は一瞬思考が停止した。しかし、すぐさま微笑し、そのまま可憐の顔を見ずに魔力で再度剣を具現化し構えた。



「これで僕の呪いを褒めてくれたのは二回目だな」



 弘孝の声は可憐には届かなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ