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70話 狂想曲+秘密(1)




 弘孝がAランクの住民になって数週間が経った。相変わらずの色男ぶりを発揮し、既に弘孝はEランクの住民からクラスメート全員に好かれるAランクの住民へと変わっていた。たった数週間だが、既に数名に交際の申し出をされ、その都度弘孝は丁寧に断っていた。



「相変わらず色男ね」



 放課後、弘孝は可憐の家に寄り道していた。彼女の淹れる紅茶の香りが部屋に充満していた。



「心外だな。もしかして、妬いたか?」



 淹れたての紅茶を可憐は弘孝に渡した。ありがとうと言い、紅茶を一口飲む弘孝。可憐もつられて自分の紅茶を一口飲んだ。



「逆よ。五年前、あなたが私から離れた時、もう二度とこうやって一緒に談笑出来るなんて思ってもいなかったの。それが一緒のAランクにいて、授業を受けて、こうやって寄り道が出来る。これ以上ない幸せよ」



 優しく微笑む可憐。彼女から癒しの大天使ラファエルの魔力がこぼれ、弘孝を優しく包み込む。それは、まるで幼い頃母親に抱かれている時と同じような安堵感を持たせた。


 テーブルに置かれている茶菓子のクッキーを一口かじる可憐。



「これも、契約者のおかげなのかしら……」



 再度紅茶に口をつけ、呟く可憐。ティーカップで揺れる紅茶に彼女の顔が映り込む。



「そういう事にしておこう」



 契約者と関わりがなかったら自分は人間として生まれて人間として可憐を好きになれた。契約者がいなければ弟を殺めることは無かった。可憐とも引き離されることもなかった。そう思ったが、彼女が前向きに捉えているものを真っ向から否定するのは彼女を想い人にしている弘孝には出来なかった。紅茶を一口飲み、冷静さを取り戻す。



「でも、契約者がいなかったら私は優美をルシフェル……サタンにすることは無かったわ……。複雑ね」



 苦笑し、弘孝の瞳を見る可憐。可愛らしい女性のような大きく丸い目ではなく、どちらかと言うと男らしい切れ長な目。こうやってまじまじと見ると弘孝はやっぱり男らしいなと可憐は内心呟いた。



「僕だって、可憐やスズがいなければ同じように親友を失う運命にあった。それを変えたのはお前だ。可憐」



 愛しい想い人を見つめる弘孝。このまま好きだと何も考えずに言えたらどれだけ楽だろうか。大天使ウリエルとして彼女のそばに居れるが、結ばれることは無い運命に弘孝は悲観した。



「そう言ってもらえると少しだけ楽になれるわ。ありがとう。弘孝」



 再び優しい微笑みを弘孝に見せる可憐。それは磯崎可憐としてなのか大天使ラファエルとしてなのかは誰も分からなかった。


 真冬の気温だが、換気のために少しだけ開けていた窓からコバエが侵入した。コバエは二人に気付かれないまま紅茶のお茶菓子として出されていたクッキーに止まる。


 コバエの気配を察知した弘孝は視線をクッキーに向ける。その瞬間、コバエは闇と毒を混ぜたような魔力を盛大に放った。



「可憐! 逃げろ!」




 大声をあげ、可憐をコバエから突き放すように突き飛ばし、自分の背中でコバエから可憐を守る弘孝。一瞬で部屋が大地震が起こったように散らかった。




「あーあー。バレたかー」




 どこからか聞こえる幼い少年の声。数秒後には先程可憐達が談笑していたテーブルの隣にクッキーを食べながらこっちを見る少年が居た。


 齢は可憐たちより少し歳下だが、それを感じさせない圧倒的な魔力。闇と毒を混ぜたような色をした白衣のようなものを無造作に羽織り、背中には先程のハエをイメージさせるような六枚の羽。


 少年の姿を見た二人は目を大きく見開いた。幼い頃から知ってる目の前の少年。しかし、長い間会えてなかった少年に可憐の頭は混乱していた。弘孝は悪魔としての血、天使としての血、そして、弘孝自身の意識全てが爆発するかのような感情に襲われた。




「さ、皐月?!」


「皐月君?!」




 二人がほぼ同時に叫んだ言葉。それに皐月は手を振って答えた。



「ぴんぽーん。五年とちょっと振りー。兄貴ー。可憐ねぇー」




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