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第227話 終焉

 淡々と話す猛は、学生として可憐達と接していた一色猛ではなく、死と転生を知らない大天使ミカエルそのものだった。



「覚悟は出来ているよ。ぼくだって何人もの契約違反の仲間を見てきたんだからね」



 剣先を向けられているが、光は表情を一つも変えずに猛に答える。未だに溢れ続けている彼の魔力がこの場をオレンジ色に染め上げた。



「待って! 私は何が何だか……」



 この場で唯一、完全に把握しきれていない人間である可憐が光の隣に移動し、猛の剣先を移動させるようにそっと彼の剣に触れる。それを見た猛は、一度だけ可憐に視線を向けると、そのまま剣先を光から移動させた。



「磯崎も見た事あるだろ。契約違反を犯した契約者がどのようになるのか。それは天使も悪魔も変わらない。そして、大天使でもな」



 剣先が光から若干離れたといえど、猛の大剣には契約違反者を裁くゴールドの魔力が消えることは無い。淡々と話す猛に可憐はスカートの裾を強く握り締める事しか出来ずにいた。



「契約違反をして……記憶を取り戻して……それで初めて生前に契約者になる為の願いが叶うなんて……そんな……」



 光が吹雪との戦闘中に可憐に言った契約内容。自分にもう一度会いたいという願いに、可憐の心臓は苦しめられていた。



「ぼくはそれを自分から望んで契約者になったんだよ。猛君……いや、ミカエル、ぼくの口からちゃんとした契約内容を人間である可憐に伝えても大丈夫かい?」



 視線を可憐から猛へと移動させる光。二人の視線がぶつかり合った時、猛はぶっきらぼうに答えた。



「……。契約違反者が何を言おうが、俺には関係無い」



 これ以上は言う事が無いと表現するように、猛は一度だけ光に向けていた剣先を地面へと移動させる。そしてそのままゴールドの魔力を一時的に消すと、猛は光にしか聞こえないくらいの声量で呟いた。



「お前としての気持ちを伝える最初で最後のチャンスだ、光」



 裁きの大天使ミカエルとして凛々しい表情をしている猛だったが、その言葉は、契約者らしいものでは無かった。


 それを聞いた光は、猛に向かって、今まで以上に魔力を零しながら儚い笑みを見せる。それは、猛にのみ伝わるように礼を言っているようだった。



「さ、可憐。ぼくには時間が無い。改めて……ぼくの事を話してもいいかな?」



 猛に見せていた光の儚い笑み。それをそのまま可憐に見せるように首を動かし、口を開いた。それを聞いた可憐もまた、儚い笑みを浮かべながらゆっくりと頷く。



「ありがとう。まず、ぼくは生前、可憐に出会っていた」



 美しすぎる儚い笑みを可憐に見せる。そのまま光は魔力が溢れ、朽ちていく身体の痛みに耐えながら、可憐の黒い瞳を見つめる。



「人の道から外れるような事をやっていたぼくを……可憐はその真っ直ぐな目で正してくれたんだ。そして……ぼくは……可憐、君を好きになっていたんだ」



 言葉の後半から、光は儚い笑みを可憐に見せる。彼の周りには既にオレンジ色の魔力がこぼれ出し、身体の一部が硝子の欠片のように砕けていた。



「光! 身体が……」



 契約違反によって徐々に消えている想い人に可憐は手を伸ばす。しかし、彼女に触れた所から、光の身体はオレンジ色の光りへとなり、消えていった。



「……。時間が無い。可憐、君はまだ分からないと思うけど、今だけは……ぼく、光明光としての気持ちを伝えさせて欲しい」



 光はそう言うと、光りとなりながら消える身体を無理やり動かし、可憐をそっと抱きしめた。



「可憐、ぼくを正しい道へ導いてくれてありがとう。そして、ぼくを見捨てないでくれてありがとう。ぼくは……可憐にありがとうと言う為に契約者になったんだ」



 か弱い光の声と身体。それを壊さないように可憐はそっと彼を抱きしめる。生きている人には無い、冷たさが可憐の身体を冷やした。



「可憐にもう一度会いたい。そして、ありがとうと言いたい。ぼくはそれを契約内容として契約者になったんだ。そして、それが叶った。……可憐、もう一度君に会えて……本当に良かった」



 光はそこまで言うと、今までに見た以上に美しくそして儚い笑みを抱きしめている可憐に見せる。そして、そのまま可憐からそっと離れると、彼の身体の殆どが光りとなって空へと向かっていた。



「光!」



 光を見た可憐は目を見開くと、離れた光に向かって右手を差し出した。



「待って! あの時の返事! 私は光を——」



 可憐の言葉を遮るように猛が無言でゴールドの魔力が纏ってある大剣を光に振り下ろす。すると、契約違反により消えかけていた光の身体は完全に光りとなり、戦いの終わった空へとゆっくり昇った。



「……裁き完了。光明光は契約違反により、俺に裁かれ、消えた」



 残された契約者は同じく残された人間に向かって淡々と説明をする。それを聞いた可憐は目尻から大量に涙を流し、光が居た場所にそのまま崩れるように座り込んだ。



「光……どうして……どうして」



 涙を流しながら感情を抑え込む可憐。


 その時、彼女の脳裏に光とのある会話が脳裏をよぎった。二人っきりで最後に会話をしたその場面は、可憐の涙を一度止め、彼女の右手でスカートに何度目かの(しわ)を作らせる。


 それを見ていた猛は大剣を片付けると、崩れ落ちた可憐に向かってそっと手をさし伸ばす。



「帰るぞ……磯崎(人間)の住む世界にな」



 涙を止めると、可憐は猛のさし伸ばされた手を見る。そして、その手を取り、立ち上がった。



「一色君……嫌、裁きの大天使ミカエル……あなたでないと出来ないお願いがあるの」



 突然言われた天使としての名前。それを聞いた猛は一瞬だけ表情を変えたが、直ぐに普段の無表情に近い顔になり、可憐を見た。



「俺が出来ることは限られているぞ」


「ミカエルだけは契約者の中で、唯一、転生を知らない……そして、誰とでも契約を結ぶことが出来るのよね?」


「……それがどうした」



 可憐の言葉に肯定を質問で返す。彼の性格から、それが肯定したと認めた可憐は、猛の黒い瞳を真っ直ぐと見つめ、ゆっくりと口を開いた。



「私は……裁きの大天使ミカエル……貴方と契約します!」



 重なる視線。今まで以上に真っ直ぐな目をした可憐を見た猛は彼女から視線を逸らす事無く口を開く。



「……。契約内容は」



 猛からの質問。それを聞いた可憐は一度深呼吸をした。そして、血と泥で汚れたスカートの裾を強く握りしめたまま猛に向かって口を開いた。




「……光明光に……もう一度契約者になるチャンスを!」


「……やはり、それを選ぶのか……」




 可憐の契約内容を聞いた猛はそのままゴールドの魔力を纏わせた大剣を可憐に向かって差し出す。視線を大剣から可憐に向けると、可憐は儚い笑みを浮かべていた。



「これが……私の選択よ」



 可憐はそう言うと、猛の大剣にそっと触れ、そのまま大剣に優しく口付けをした。

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