表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/234

212話 鎮魂歌+選択(3)

 この場にいる契約者と人間、全員が聞き慣れた声。それが聞こえた方向へ全員が視線を向けると、そこにはルビーレッドの魔力を持ち、頬に傷痕がある契約者が弘孝に向かって剣を構えていた。




「ジン……いや、ウリエル……まだ生きていたか……ベルゼブブめ、やはり混血と言えど、中途半端な混血は劣等品だな」



「は? なに言ってんだ? オマエだって混血なんだろ? しかもベルゼブブのアニキってのも知ってるからな。自分のオトートをレットーヒンって言うなよ」




 剣先と同時に殺意を弘孝に向けるジン。弘孝はそれを涼しい顔で受け止めていた。しかし、バイオリンの構えを解くことは無かった。



「ジン君……! 嫌、ウリエル!」



 二人の様子を見ていた光が大声を出す。それに気付いたジンはゆっくりと振り返った。



「ガブリエル、無事だったんだな。うっし、んじゃ、後は戦いの大天使であるオレに任せとけ。オマエは早くラファエルの器と契約しろよな」



 弘孝から視線を光達へと移動させるジン。彼の優しい笑みはジンそのものだったが、それを見た可憐には違和感を覚えさせた。見た目や口調、小さな仕草。全てが見覚えのあるものだったが、どこか他人のように見えるをそれは、目の前にいる青年の中身が知らない契約者である事を証明するには充分すぎていた。


 光の後ろに守られるようにいる可憐を横目にジンは再度視線を弘孝に戻した。



「なんで、オマエがラファエルにこだわるのか、オレには分かんねーけどさ、コイツはガブリエルと結ばれるウンメーなんだよ!」



 この言葉を境にジンは六枚の白い翼を羽ばたかせる。それが攻撃の合図だと察した弘孝は構えていたバイオリンを使い、演奏を始めた。



「契約者という神に作られた存在による運命を他者が負担する。それが許されると思っているのか」



 殺意と魔力が込められた皇帝円舞曲。それは、超音波のようにジンに向かって放たれていた。ジンはそれをルビーレッドの魔力で纏った剣を使い、相殺する。




「んだよ。オマエ、やっぱラファエルの器にホれてんのかよ。それでガブリエルにシットしてんのか?」



「違う。僕はガブリエルなど眼中に無い。ただ、僕の想い人をこの運命から外し、彼女自身の気持ちを知りたいだけだ」




 間髪の無い返事と攻撃を繰り返す弘孝。ジンはそれを全て剣を使い、相殺していた。殺意の込められた視線を弘孝に向けると、剣に纏わせたルビーレッドの魔力の量を増やした。



「コジラセためんどくせーヤツだな! んなのカンケー無くソーシソーアイなの分かんねぇのかよ」



 弘孝の攻撃が光達に当たらないよう、剣を使い弾きながらも弘孝に剣を振り下ろすジン。それが弘孝に当たると思われた直前、弘孝は演奏を止めてバイオリンでジンの攻撃を受け止める。受け止められたジンの攻撃はルビーレッドの輝きを放っていた。



「ジン君! 魔力の消費が激しすぎるよ! このままだと、君が先に魔力切れになっちゃう!」



 二人の戦いを見ていた光が大声を出してジンに注意する。しかし、ジンはそれに対して聞く耳を持たなかった。



「気にすんなって。まだよゆーなんだからな。オレ、モロク倒すまでぜってーに死なねーから安心しろよな、ガブリエル」



 バイオリンで受け止められた剣に更に魔力を込めながら話すジン。彼の魔力がバイオリンを通して弘孝へと伝わった。


 ほんの数日前までは自分の魔力だったが、それは弘孝の体内で悪魔の魔力を苦しめる。それを誤魔化すように唇を強く噛む。弘孝の口内には血の味が広がっていた。



「穴埋め程度の契約者に、僕が負けるはずが無い……!」



 弘孝は六枚の黒い翼を使い、一度ジンから距離をとる。バイオリンで防御をしなくても良くなると、演奏を再開させた。殺意と悪意の込められた皇帝円舞曲が契約者と人間の耳を支配する。



「うっ……」



 弘孝の魔力の混ざった演奏を聞いた可憐は吐き気を覚え、嘔吐(えづ)く。



「ひ、弘孝……もう……やめて……」



 可憐の耳を支配する皇帝円舞曲。それは、彼女にとって二つの思い出があった。一つは弘孝と親友の関係になるきっかけ。もう一つは、今の想い人である光と踊った思い出だった。どちらの思い出も可憐にとってはかけがえの無いものであったが、それを打ち消す程の魔力が彼女の体内を蝕んでいった。



「サタンと契約すると誓え。そうすれば、僕の演奏が苦では無くなる。可憐、賢いお前なら何が正解か分かるだろ」



 わざと音を外して弘孝は一小節演奏をする。音そのものの不快感と魔力での不快感が可憐を更に苦しめていた。




「いやっ……!」



「弘孝君……好きな人が苦しんでいる姿を見て何も思わないのかい!?」




 苦しむ可憐の手を握りしめる光。彼の回復にはあまり向いていないオレンジ色の魔力を僅かに彼女に伝わせていた。体調が良くなる事は無かったが、不思議と可憐の気持ちを落ち着かせ、光の手を握り返す程回復させていた。




「光……」



「ごめんね。ぼくはこれくらいしか出来ないから……。だけど、たとえぼく……大天使ガブリエルと光明(こうみ)(ひかる)が死んだとしても、ぼくは磯崎(いそざき)可憐(かれん)という大切な存在を守護(まも)りたいんだ」




 儚い笑みを浮かべながら可憐の手を強く握る光。その間も彼の魔力が可憐を優しく包み込んでいた。それを実感した可憐は自身の魔力を使い、体内の不快感を相殺する。



「光……。私も……私も光の力になりたい」



 可憐はそう言うと、光から貰った魔力以上の魔力を彼に注ぎ込む。すると、傷だらけであった光の身体は癒され、彼に再度戦う力を取り戻させた。



「ありがとう、可憐。これで、ぼくも戦えるよ」



 光は可憐に再度儚い笑みを向けると、剣を抜く。そして、六枚の翼を羽ばたかせた。




「っしゃ。ガブリエル、フッカツな」



「一人で戦わせてごめんね? ウリエル程では無いけど、大天使が二人もいれば、地獄長は倒せるはずだよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ