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181話 鎮魂歌+氷の女王(1)

 アスタロトと光が解毒剤をかけて、命のやり取りをしていた頃、春紀とレフミエルは、魔力を使い、壁を作っていた。



「これで少しは、敵の侵入を防げるかしら」



 レフミエルが壁を作りながら、春紀に話しかける。春紀はため息混じりに首を傾げた。



「さぁ。時間稼ぎ程度にはなると思いますが、正直、第一地獄の地獄長となると、話は別ですよ」



 瓦礫の中から見つけていた掛布団のような布を掛けられ、眠るハルとアイを横目で見ながら答える春紀。眠る二人の隣に、祥二郎が自分の娘のように、愛おしそうに見つめながら座っていた。


 そんな三人を見ながら春紀は、両手に魔力を込めながら、Sランクを包み込んでいた強化ガラスのように魔力で壁を作る。



「そうね……。熾天使アリエルは、戦いの大天使ウリエル様の方へ向かったし、私と花の契約者は、アリエルのような戦闘向きな契約者でもないから、正直不安だわ」



 レフミエルもまた、春紀と同様に魔力を手に込め、壁を作る。人間が見たらまるでパントマイムをしているかのような仕草に見えていた。


 悪魔のみを入れず、天使と人間は通り抜けることが出来る壁は、ほんの僅かに冬の冷たさも遮断していた。



「火力だけで言うならば、アリエルはガブリエル様よりも上です。だからこそ、ウリエル様のお手伝いに最適な熾天使でもあります。私たちの仕事は、ここで人間の三名を守る事……。それが私たちの命の代価となる事になっても、直属の大天使様からのご命令ならば、従うのみです」



 半径数十メートル程のドーム型で壁を作り終えると、二人は両手に込めていた魔力を消し、一度深呼吸をした。春紀が簡単に辺りを見渡し、魔力の壁に不備が無いか確認する。レフミエルもまた、春紀と反対側に視線を移し、魔力の壁の確認をしていた。



「そうね。可憐様のご命令は、ラファエル様のご命令。それを受ける事が至高の幸せ……。あ、そういえば、ここでは花が咲いていないけど、花の契約者は大丈夫なのかしら」



 二人が同時に魔力の壁の確認を終え、視線を重ねる。そのままレフミエルは、言葉の後半を話すのと同時に首を傾げた。


 そんな彼女を見た春紀は、一度小さく笑い、切れ長な目を細めた。彼の笑い方に合わせるように長い金髪が揺れた。



「花があれば、魔力が無限に近い状態で使えると言うだけで、無いから全く使えないという訳ではありませんよ。ただ、他の契約者と同じように、魔力に限りがあるだけです」



 春紀の言葉に、レフミエルは一瞬だけ目を丸くし、(まばた)きをした。レフミエルの青空のような澄んだ瞳が春紀を映す。



「そうなの。てっきり、花が無ければ何も魔力が使えないと思っていたわ。私もまだ、契約者になって数十年しか経っていないから、勉強不足ね」



 苦笑しながら話すレフミエル。春紀とは真逆の、肩につかない程度の長さの金髪を揺らしながら、自身にため息を漏らす。そんな彼女を見た春紀は、首を小さく横に振った。



「無知の知を恥じる事はありませんよ。それに、花は実はここに存在しています」



 微笑しながら答える春紀。彼の微笑みに合わせるように長い金髪が揺れた。そのまま、春紀は懐から一輪の小さな青い花を取り出し、レフミエルに渡した。



「その青い花は何かしら?」



 花を受け取り、綺麗と呟くレフミエル。彼女の反応を見た春紀は、再度微笑みながら口を開く。



「これは、ネモフィラという花です。春に咲く草花で、草原を全て埋め尽くすように、沢山の花を咲かせます。この花を、ガブリエル様が残してくださいました……」



 まるで、この花が特別な意味を示しているような笑みを浮かべる春紀。しかし、ネモフィラの花を見つめているレフミエルは、それを見ることは無かった。


 ネモフィラの花を見つめながら、ガブリエルの名を聞いた時、レフミエルは首を傾げた。視線をネモフィラの花から春紀の顔へ向ける。



「ガブリエル様が? あの方の花は百合の花では無かったかしら。いくら私が新米契約者だからと言っても、それくらいの知識はあるわ」



 まるで自分をからかっているのかと、言わんばかりの口調で話すレフミエル。やや唇を尖らせながら春紀を軽く睨みつける。しかし、春紀はそんなレフミエルをまるで妹に知識を与える兄のように、優しい笑みを浮かべていた。



「えぇ。確かにガブリエル様を表す花は、百合の花である事に間違いありません。しかし、あのガブリエル様は神に最も愛された者の一人でありますからね。ネモフィラの花言葉は——」



 春紀が言葉を最後まで述べる前に、熾天使二人は異常な魔力を察知した。すると、間髪入れずに、矢の形をした悪魔の魔力が先程、熾天使二人が築き上げた魔力の壁を一撃で破壊した。


 契約者の中でガラスが派手に割れるような音が聞こえた。すると、再度魔力で出来た矢が同じ方向から春紀を襲うように飛んできた。春紀はそれを瞬時に自身の銃を具現化し、両手に構え、矢を撃ち抜いた。



「やはり、第一地獄の地獄長には、無意味でしたか! レフミエル! ここは私に任せて、可憐さんとガブリエル様が守れとご命令下さった人間を!」



 春紀の叫び声にレフミエルは無言で頷き、魔力を使って四枚の翼を背中に登場させる。そのまま翼を羽ばたかせ、ハルたちの元へ飛び立った。


 レフミエルの行動を確認した春紀は、右手に持っていた銃を両手に構え、負の魔力を感じる方向へ銃口を向けた。



「ボクがここに来たのも、君がここで人間を守っていたのも、神が決めた運命なのかな?」

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