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169話 鎮魂歌+転生(3)

 もう聞くことは出来ないと思っていた声色。それは、目の前に立つ大天使から聞こえていた。


 六枚の翼と被っている警察官の制帽のようなものによって、ハッキリと顔は見えないが、翼の間から見えた頬にはバツ印のような傷跡が見えた。


 服装も、ジンとして最期に着ていたシャツとスラックスではなく、まるで警察官のような格好だった。ただ、可憐の知る警察官と違う点として、六枚の白い翼があるのと、警棒の代わりに光たちが使っているような剣が腰に収まっていた。


 可憐は視線をふと、ハルの方へ向けた。先程まで抱きしめていたジンの死体はいつの間にか消えていた。それにより、目の前の六枚の翼を持つ人物の正体が分かり、失った仲間の名を叫ぼうとしたが、その前に猛がサファイアブルーの魔力を剣に纏わせながら、光と共に可憐たちの前に現れた。


 光がそっと可憐の肩に触れ、これ以上は何も語るなと、そっと可憐に指示をする。可憐は、光の行動の意図を読み取り、喉まで出ていた言葉をぐっと飲み込んだ。代わりに、彼女を守るオレンジ色の十字架が輝きを放ちながら、可憐が感情に任せて放つ魔力を吸収していた。



「ウリエル!」



 猛はそう叫ぶと、サファイアブルーの魔力をハルとアイに届くように剣をウリエルの前で大きく素振りした。サファイアブルーの魔力がまるで花吹雪のように舞い、二人の頭を撫でていた。



「待って……お前は——」



 ハルも翼の間から特徴的な傷跡が見えたのであろう。大切にしていた仲間の名を呼ぼうとしたが、その前に彼女の瞳から光りが失われた。


 同じ魔力を浴びたアイもまた例外ではなく、ハルと同様に瞳から光りを失い、そのままゆっくりと目を閉じた。完全に意識を失い、そのまま瓦礫まみれの床に倒れようとする二人を、レフミエルとアリエルが支え、ゆっくりと横に寝かした。


 そんな二人に視線を向けた猛は剣を掴んでいる右手にさらに力を込めていた。



「すまない。これも、契約者として生きる者の呪いだ」



 そう小さく呟いたが、既に眠っている二人には猛の声が届くことは無かった。ただ、癒しの大天使ラファエルの魔力を持つ可憐だけは、猛の魔力に翻弄されることはなく、全てを見ていた。



「……という事は、やはり……あなたがウリエルなのね……」



 自分の中の感情を全て押し殺し、可憐が口にした言葉。なぜ感情を押し殺さなければならないのか、可憐には分からなかった。ただ、自分の中で眠るラファエルが、目の前の大天使が人間であった時の名を呼んではならない。そう訴えているような気がしていた。可憐の瞳の色が再度魔力と同じ色へと変わる。


 可憐の言葉を聞いた大天使は、ゆっくりと振り向き、可憐に視線を合わせた。翼で見えなかった顔が全て見ることが出来た。そこには、先程ハルを守るために全てを捨てたジンが、ルビーレッドの魔力を全身に纏わせていた。



「久しぶりだな、ラファエル」



 聞きなれた声色、聞きなれた口調。確かにジンの言葉ではあったが、彼の黒い瞳から見える燃えるようなルビーレッドの魔力がもう、ジンという存在が居ないことを可憐に悟らせた。目の前の青年が、既に器である事を本能的に理解し、可憐は右手でスカートの裾を強く握った。


 ウリエルの黒い切れ長の目に映るのは、可憐ではなく、エメラルドグリーンの瞳を持った少女であった。


 そんな可憐たちを見た猛が、転生したての大天使の視線を自身に向けるように、ゆっくりと口を開いた。



「ウリエル、転生早々悪いが、目の前にサタンがいる」



 猛が吹雪の方へ視線を向け、剣を構えた。剣を纏う魔力の色がサファイアブルーから、ゴールドへと変わった。それを見たウリエルが制帽を指先で軽く浮かせ、視線を上にあげる。



「ふーん。サタンがフッカツしちまったのか。そりゃ、早くやんねぇとな」



 左腰に鎮座する剣をゆっくりと引き抜くウリエル。剣に意識を集中させ、ルビーレッドの魔力を炎のように剣に纏わせる。好戦的なウリエルを見た可憐は、先程猛に遮られた気持ちを完全に鎮め、ゆっくりと口を開いた。



「目の前のサタンは……魂のほんの一部よ。本体は……未だに氷結地獄(コキュートス)に閉じ込められたままなの……。そして、それを完全に復活させる為に必要なのが……サタンの器でもある私よ」



 左手を自身の心臓の位置に移動させ、ウリエルに話しかける可憐。そんな彼女を見たウリエルは、視線をサタンから可憐へと向けた。ルビーレッドの魔力が纏われた剣を雑に床に突き刺す。


 そのまま可憐を一度冷静に見つめるウリエル。エメラルドグリーンの瞳を覗き込むように姿勢を低くしていた。すると、一度だけウリエルは眉をひそめた。



「オマエ、まだケーヤクも転生もしてねぇって事か? なのに、魔力はジューブンに持ってるし、使えるって……ナニモノだよ」



 制帽を再度指でずらしながら、可憐を覗き込むように見るウリエル。ルビーレッドの魔力を目にも灯し、可憐を見つめる。しかし、愛の大天使ガブリエルの魔力では無いので、彼女の全てを見ることは出来なかった。彼に見えたのは、エメラルドグリーンの魔力とそれと同じ色を持った瞳だけだった。



 かつての仲間が目の前で記憶を失い、他人行儀となっている状況に、可憐は一度だけスカートの裾を強く握りしめた。そして、直ぐにそれを離し、黒い瞳でウリエルを見つめた。



「私は磯崎(いそざき)可憐(かれん)。地獄長であるサタンと、癒しの大天使ラファエルの二つの魂を持つ器よ」



 やや機械的な声色で話す可憐。胸元のオレンジ色の十字架が彼女が感情に任せ、無意識に放つ魔力を吸収していた。


 そんな可憐を見たウリエルは、制帽を深く被り、可憐から視線を逸らした。そして、そのまま振り返り、吹雪の方へ身体を向けた。



「二つの魂を持つ者、か。それで未だにガブリエルとケーヤク出来てねぇって言うなら、死ぬ気で守んねぇとな。オレはウリエル。戦いの大天使ウリエルだ!」

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