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168話 鎮魂歌+転生(2)

「ジン!」



 吹雪の攻撃が完全に止まったことを確認した可憐は、ジンの元へ駆け寄る。彼の手首を掴み、エメラルドグリーンの魔力を注ぎ込むが、既に冷たい身体となっているジンには無意味だった。既に絶命した身体を蝕む吹雪の魔力を相殺しただけのエメラルドグリーンの魔力が虚しく光りを放つ。


 それを見たハルも彼女の前で守っていたレフミエルを軽く押しのけ、可憐の隣に座り込んだ。魔力を注ぎ込むことが無駄な抵抗だと理解した可憐は、ジンの手首からそっと手を離した。



「ジン! おい!」



 ハルが血まみれのジンの身体をそっと抱きしめる。人間の体温は完全に失われ、Eランクで何度も触れた冷たい身体となっていた。



「なぁ……可憐……。ジンは……死んじまったのかよ……」



 ジンから流れる血で真っ赤に染まりながら、可憐を見つめるハル。頬を汚した血を、彼女の涙が洗い流していた。


 そんな彼女の言葉に、可憐はかける言葉が見つからなかった。今までにない胸の苦しみが可憐を襲う。


 そんな事ないわ。これはあなたのせいじゃないの。言いたい言葉は沢山あったが、今、それを言うと、薄っぺらく感じるのではないか。そのような考えが、可憐の脳内を巡り、ただスカートの裾を強く握り締めることしか出来なかった。


 可憐の瞳の色がエメラルドグリーンから黒へと戻る。すると、余計に彼女からハルにかける言葉を見つける事は出来なかった。



「アタシが悪いんだ……。アタシが、自分の事くらい守れねぇから……」



 涙と共に湧き出る嗚咽に耐えながら、ハルは死体を強く抱きしめる。血の冷たさと、死体の冷たさがハルの体温を奪っていた。



「ハル!」



 そんなハルを見ていたアイがそっとハルを抱きしめる。アイの小さな腕がハルを優しく包み込んでいた。



「ハル、悪くない。ワタシ、守ってくれた。ハル、強いひと。ワタシの……大好きなママ……」



 アイがハルの腰を抱きしめていた両腕を一度離し、ジンを抱きしめていたハルの手にそっと触れた。アイの手もまた、ジンの冷たい血によって赤く汚れた。



「ジン、守るためにこうなった。カッコよかった……。カッコイイ、パパだった……」



 アイの涙が頬を伝い、死体を濡らした。涙が冷たい身体をさらに冷たくする。冷たい血まみれのジンの手を何度も強く握りしめ、アイはそれを自分の頬に擦り寄せた。男性らしい大きな手と、幼い少女の小さな手が重なり合い、その姿は本物の親子のようだった。


 その様子を見ていた吹雪は、流してもいない涙を拭う仕草をしていた。



「いやぁ。人間を殺して可憐を絶望させ、契約って思ったら、ウリエルの器(そっち)が代わりに死んでくれたかぁ。これは好都合だぁ」



 すまねぇなぁ、人間、と付け足し、泣いているふりをしながら笑う吹雪。それを見たハルとアイは拳を強く握りしめ、吹雪を睨みつけた。



「何言ってんだよ! このゲドウ!」



 ハルが吹雪に向かって叫ぶ。しかし、吹雪に彼女の気持ちが届くことは無かった。涙を流しながら吹雪を睨みつけるハルを見た吹雪は、白い歯を見せる程の大きな笑みを浮かべた。



「そうだ。お前、オレと契約しねぇかぁ?」



 右手をハルの方へ伸ばす吹雪。そんな彼の言動にハルは舌打ちをした。



「は? だから、何言ってんだ!」



 先程と似たような言葉を吹雪にぶつけるハル。彼女の態度に吹雪は再度笑みを浮かべ、さし伸ばしていた手をジンの死体に向かって指さした。



「オレと契約して、その男を生き返らせてもいいぞぉ? それか、可憐を絶望させ、悪魔にしたら、契約無しでも願いを叶えてやってもいいくらいだぁ。可憐さえ居なかったら、お前らの運命も狂わなかったぜぇ?」



 突如話題にされた事に対し、目を見開く可憐。しかし、吹雪の言葉に否定する言葉を見つける事は出来なかった。スカートの裾を強く握りしめる。



「ハル……」



 先程からハルに向かって掛けたい言葉が沢山あったが、全て飲み込んでいた可憐。やっとの思いで口にした彼女の名を聞いたハルは、変わらない姉御肌な笑みを可憐に向けた。その後、再度視線を吹雪に向ける。既に可憐に向けた笑みは消え、吹雪に向かっての殺意だけが残っていた。



「確かに、可憐や光たちと出会ってから、アタシらの運命は変わった。Eランクでは想像もつかねぇ、オマンマやオベベにも恵まれたしな。でもなぁ、狂ったなんて一回も思った事はねぇよ。自分の選んだ道を人のせいにするってのは、Eランクではアリエネー考えだからな」



 一度だけ、吹雪とハルのやり取りを傍観している弘孝に視線を向けるハル。それに気付いた弘孝だったが、目を逸らすことは無く、変わらず死体とハルをゴミを見るような目で見下していた。


 ハルの言葉を聞いた吹雪は、浮かべていた笑みを消し去り、殺意と悪意をハルに向けていた。



「ならば、死ね」



 吹雪が再度、十二枚の翼を大きく羽ばたかせ、魔力と毒が混ざった羽根を放つ。先程よりも大量の羽根がハルに向かって飛ばされた。



「ハル!」



 可憐とアリエルが彼女の名を叫び、レフミエルと三人で魔力を使い壁を作り防ごうと両手に力を込めた。しかし、彼女たちが壁を作る前に吹雪の羽根が容赦なくハルを襲う。


 間に合わない。そう思い、ハルは死を覚悟しながらアイを可憐の方へ突き飛ばす。



「ハル! ダメ!」



 アイの叫び声はハルに届かず、羽根が彼女を襲いかかろうと突き刺ささる直前だった。ルビーレッドの光りが大きな炎となり、吹雪の攻撃を防ぐ。炎が近くにあるというのに、ハルは熱さを感じる事は無かった。数秒後、ルビーレッドの光りが、吹雪の羽根を全て燃やし尽くしていた。


 視界が晴れると、そこには、六枚の翼を生やしたルビーレッドの魔力の持ち主である大天使が、可憐やハルたちの目の前に立っていた。



「オマエら、大丈夫か!?」

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