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165話 鎮魂歌+君主の想い(3)

 可憐が扉を開けると、そこは、光たちが眠っていた部屋とそれを繋ぐ大部屋の壁が壊され、ひとつの空間となっていた。轟音が聞こえた方へ視線を向けると、そこには大天使の姿となっている光と猛、地獄長として君臨している弘孝と皐月、猛のゴールドの魔力を全身に浴びているジンの姿があった。


 瞬時に状況を理解した可憐は光の元へ駆け寄った。



「光!」



 可憐が光の名を呼ぶ事で、契約者たちが一斉に彼女への意識を向ける。無防備に一人で現れた可憐に、光は目を見開いた。



「可憐!」



 自分の叫び声により、完全に回復しきれていない身体が悲鳴をあげる。耳を拳銃で撃たれたような痛みが光を襲い、思わず手で押さえていた。


 そんな光を見下しながら、弘孝は可憐の方へ身体を向けた。黒い長髪が彼の動きに合わせて美しく揺れた。


 一度視線を皐月に向け、ジンと猛が邪魔をしないように戦闘をしとけと視線で命令をする。それを察した皐月は、弘孝に聞こえないように舌打ちをすると、猛立ちに向かって剣を振りかざしていた。



「随分遅い登場だな、可憐」



 見慣れた背丈。美しく、長い黒髪。アメジストのような輝きを持つ紫色の瞳。全て可憐が幼い頃から見ていたものだった。しかし、そんな彼の背中には、六枚の黒い翼があり、今の可憐には別人のように見えていた。



「弘孝……。もう、幼なじみの関係には戻れないのね……」



 可憐の黒い瞳が弘孝を映す。弘孝は右手に持っていたバイオリンの弦を左手に持ち替え、空いた右手を可憐に向かって差し伸べた。



「そうだな。そのような馬鹿らしい関係には、もう戻れない。それ以上の関係へと進もう」



 六枚の黒い翼を大きく羽ばたかせ、弘孝は可憐を見つめる。幼い頃から恋焦がれていた目の前の少女。


 どれだけ好意を伝えても、それは、可憐だけに向けられているものとは気付かれる事は無かった。自分がウリエルであり、彼女はガブリエルに愛されている大天使ラファエルである以上、結ばれる運命ではないと弘孝は理解していた。


 しかし、心のどこかで納得はしていなかった。どれだけ自分が可憐に好意を持って接していても、気付かれることは無く、いつか彼女の前に現れる愛の大天使ガブリエルと無条件に結ばれる。光が目の前に現れてから、弘孝の中で可憐との関係が全て壊れるカウントダウンが始まっていた気がしていた。それに抗った結果が今の弘孝であった。


 弘孝の言葉を聞いた光は、未だに不安定な三半規管に鞭を打ちながら、六枚の白い翼を羽ばたかせ、可憐の前に飛び立った。未だに目眩のような感覚に襲われており、視界が不安定な状態で、弘孝に向かって剣先を向けるように構える。



「どさくさに紛れて、告白なんて、弘孝君らしくないよ」



 光の不調を察知した可憐が、彼の背中にそっと触れ、魔力を流す。癒しの大天使ラファエルの魔力は、傷付いた光の肉体を完全に回復させた。



「ありがとう、可憐。これでぼくも、戦える」



 やや不安定な持ち方だった剣を右手に力を入れ、再度構える光。それを見た可憐は、無理はしないで、と小さく呟き、光の背中に触れていた手を離した。


 それを見ていた弘孝は呆れと嫉妬の混ざったため息をこぼした。左手に握りしめている弘孝のバイオリンと弦から今まで以上の魔力が溢れ出していた。



「告白か……。何を言っても可憐には届かないのは分かっているが、制約が無くなった今なら伝えられる……」



 魔力が溢れ出ているバイオリンを構え、弘孝は音色を奏でた。光はそれが攻撃と瞬時に察知し、六枚の翼を使い、可憐を抱きしめながら弘孝と距離をとる。しかし、それ以上に嫉妬の混ざった弘孝の魔力がバイオリンの音色に乗りながら二人の耳を襲った。



「うわっ!」



 二人の三半規管が悲鳴をあげ、光がバランスを崩し、床に落ちる。可憐が怪我をしないように咄嗟に自身の背を床に向けていた為、光の背中に瓦礫が刺さり、白い翼を赤く染めた。



「光!」



 可憐が慌てて光を治療するために光の背中に触れようと右手を伸ばした。しかし、その前に弘孝がもう一度音色を奏でる。それは可憐の動きを封じていた。意識はあるのに、身体が自分のものではないような感覚に襲われる。



「弘孝……」



 僅かに動く視線を光から弘孝に向ける。弘孝は、そんな可憐と光の元へゆっくりと足を運んでいた。歩きながら何度か音色を奏で、光の内臓を苦しめ、可憐の動きを封じていた。可憐の首から下は、完全に力が抜け、尻もちを着いている状態に近かった。


 光が完全に動けないことを確認すると、弘孝はバイオリンの構えをそっと解いた。動きを封じられ、軽く睨みつける事しか出来ない可憐の身体をそっと抱きしめた。


 既に人間として生きる資格を放棄した弘孝の身体は、死体のように冷たく、光に抱きしめられているような感覚に近かった。弘孝の長い黒髪が可憐の黒髪と太ももをそっと撫でる。



「可憐、お前は僕の想い人だ。幼い頃からずっと、お前だけを見ていた。裏切りの子と言われる、混血の僕の呪いを綺麗だと言ってくれた。ずっと想いを伝えたかったが、ウリエルである事が全てを封じていた。だが、今は違う……。モロクとなった僕と、サタンの器である可憐を阻む物は何も無い……。可憐、僕と永遠の時を共に過ごす契約をしてくれ」

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