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164話 鎮魂歌+君主の想い(2)

「なんだよ! この音!」


「地震!?」



 ハルがアイを守るように抱きしめ、轟音から予想される出来事に備える。可憐もまた、壁に触れるように手を添え、その後の衝撃に備えていた。


 レフミエルもまた、可憐たち三人を守るようにSランクの人間から熾天使レフミエルの格好へと変身した。四枚の翼で地震が来た場合に備え、落下物に可憐たちがぶつかるのを防ぐようにする。


 数秒後、轟音がおさまったのを確認すると、壁から手を離し、辺りを見渡した。可憐たちの部屋は特に変わりはなかったが、光たちの部屋の方向から、この距離でも分かるほどの禍々しい魔力を感じた。



「可憐様! この魔力は……」



 レフミエルもまた、魔力を感じ取り、光たちがいる方向へ顔を向ける。彼女の行動に可憐はゆっくりと頷いた。



「えぇ。地獄長の誰かというのは間違いないわね……。南風君……サタンが一日早くやって来たのかしら」



 可憐の脳内に現れたのは、目の前で親友を容赦なく殺めた吹雪の姿。自分の仲間である悪魔をひとつの道具としてしか見ていなかった彼の瞳には、全ての事柄において無関心を示すように何も映っていなかったことを思い出す。



「裏切りの大天使ルシフェルでもあるなら、嘘をつけるわ……。一日くらい早く来てもおかしくないわね」



 スカートの裾を強く握りしめながら話す可憐。改めて、優美を目の前で殺められた怒りを相殺するように深呼吸をした。



「フミ、行きましょう。 光たちが地獄長と戦っているわ。私がいないと、怪我をしたら、完全に治癒出来ないから、私が必要でしょ」



 可憐の言葉にレフミエルはゆっくりと頷いた。それと同時に熾天使の象徴である四枚の翼が音を立てる。




「はい。私が可憐様をお守りしつつ、可憐様はミカエル様やガブリエル様の治療に専念してください」



「ちょっと待てよ! アタシたちはどうすりゃいいのさ!」




 可憐たちの会話にハルが割り込むように入る。未だに恐怖で震えるアイを抱きしめながら、ハルは可憐とレフミエルを交互に見ていた。



「そうね。ここでは、あなたたちを守る事が最優先だわ。フミ、私は大丈夫だから、ハルたちを守ってくれない? 私が一人で光たちの元へ向かうわ」



「ですが可憐様! それだと可憐様が危険過ぎます!」




 可憐の言葉に間髪を入れずにこたえるレフミエル。普段よりもやや大きい声量に、可憐は一瞬だけ目を見開いたが、直ぐに慈悲深い微笑へと変わった。



「私は大丈夫。私は、ラファエルの器でもあると同時にサタンの器でもあるのよ。悪魔たちも下手に傷つける事は無いわ」



 エメラルドグリーンの魔力を全身から零しながら話す可憐。その魔力と慈悲深い笑みは、レフミエルの中でラファエルを連想させた。自分直属の大天使の言葉である以上、レフミエルはこれ以上の反論は許されなかった。



「……。分かりました。可憐様、ご武運を……」



 レフミエルが可憐から視線を逸らすように、俯きながら本音に遠い言葉を話す。膝をゆっくりと床に着け、忠誠を誓う姿勢をとる。


 その時だった。可憐の背後にある部屋の唯一の出入口である扉が勝手に開いた。反射的に可憐はそちらの方へ身体を向ける。レフミエルもまた、立ち上がり、可憐を守るように前に出た。


 扉が完全に開くと、そのには甲冑を着た四枚の翼を持つ熾天使が現れていた。



「サキ!」



 可憐の言葉に甲冑の頭部を外し、顔を見せることで返事をするサキ。それをみたハルとアイも可憐と同じように彼女の名を呼んでいた。



「遅くなったわ、レフミエル。リーダー……ウリエル様が二重契約によって悪魔となったのは残念だったけど、私の仲間を守ることには変わりない」



 サキの言葉にレフミエルは、相変わらず人間臭いわね、と彼女にだけ聞こえるように呟いた。それを聞いたサキは全く気にせず、可憐の肩に触れた。甲冑独特の金属の冷たさが、僅かに触れた可憐の頬や首にほのかに伝わる。



「ハルとアイは私が守る。ウリエル班の第一熾天使として、Eランクを共に過ごした仲間として、二人は何があっても守るわ。だから、可憐、あなたは、あなたのやるべき事をやりな」



 傷跡だらけの顔で可憐にむかって笑みを向けるサキ。それをみた可憐はEランクで起こった最後の出来事を思い出し、小さく笑った。目の前の契約者の生前を知る可憐は、サキの性格は生前の時の性格とあまり変わらないのであろうと考えると、思わず笑みがこぼれた。


 それを見ていたレフミエルは、直属の大天使の器である可憐がウリエル直属の熾天使であるアリエルに奪われたような感覚になり、小さな嫉妬心を抱き、唇を尖らせていた。


 その時、二度目の轟音が可憐たちの耳を支配した。先程よりも大きな轟音は、一度目の轟音よりもより大きな出来事が起こっている事を可憐たちに想像させるには充分すぎる音だった。



「……。時間が無いわ。フミ、サキ、ハルとアイを守ってね」



 可憐の言葉を改めて聞いたレフミエルとサキは、同時に膝を床に着け、忠誠を誓う姿勢をとった。




「あなた様のご命令、この熾天使レフミエル、命に変えてもお守り致します」



「この熾天使アリエル、大天使ラファエル様のご命令となれば、何があっても守り通します」




 熾天使としての言葉を聞いた可憐は、四人に慈悲深い笑みを見せると、ゆっくりと扉を開けてこの場を後にした。扉が閉まるころには、四人の前に小さなエメラルドグリーンのつむじ風ができていた。

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