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130話 鎮魂歌+先代(2)

「ガブリエル! ラファエル!」



 二人を守るように吹雪たちに剣を向けていたのは、裁きの大天使ミカエルの容姿をした猛だった。光やラファエルと同じ白い一枚布のような衣服をまとい、六枚の翼を羽ばたかせる。



「ミカエル……。ラファエルが限界だよ……。あの悪魔の魔力を相殺しようとしたら、なぜかラファエルが苦しみ始めたんだ。魔力の枯渇では、ありえない症状だと思うけど、これは一体……」



 吹雪が数回、猛に向かって魔力を放つ。それを猛は、既存の剣に魔力を纏わせ、斬るように相殺する。光が持っていた剣よりも一回り大きな猛の剣が空を斬る度に音を立てていた。



「恐らく、アイツの仕業だろう。毒を混ぜた魔力をガブリエルに放ち、ラファエルがそれを相殺させることを読んでやったんだろう。ラファエルは混血だからな」



 猛の視線がラファエルへ移動する。意識して彼女の魔力を見ると、エメラルドグリーンの魔力に混ざり、吹雪やアスタロトが持つ魔力と同じ色をした魔力が僅かに放たれていた。



「混血だからって、アタシはガブリエルを愛しているラファエルには変わりないんだ。この半分の血に抗って、サタンの復活を阻止する。ガブリエルを傷付けた魔力を吸い取って、アタシのラファエルとしての魔力で治癒するのが当然よ」



 吐血をしながらラファエルは猛に口を開く。その間にもアスタロトの攻撃や、吹雪の放たれる魔力が襲ってきたが、猛が全て受け止めていた。



「随分一途なラファエルだなぁ。ガブリエル、大事にしてやれよぉ?」



 吹雪が魔力を放つのを止め、剣を具現化させる。そのまま猛に向かって振りかざした。予期せぬ出来事だったが、猛はそれを自身の剣で受け止めた。金属が重なり合う音が二人の耳を支配した。



「ぼくは、ラファエルを愛している。君に大事にしろって言われる筋合いは無いよ」



 吹雪の魔力を浴びた翼を広げ、再度剣を具現化させる光。そのまま猛と同様に吹雪に剣を振りかざしたが、その前にアスタロトのステッキが光の剣を受け止めいていた。



「あらぁ。もう剣を作り出す魔力は残っていないと思っていたわぁ。これが愛の力なのねぇ」



 両肩の髑髏を音を鳴らしながら笑うアスタロト。木製のステッキだが、光の剣を軽く受け止め、傷一つ着いていなかった。そのままアスタロトは、光の横腹目掛けてステッキを振りかざした。光がそれを防ごうと剣を動かしたが、間に合わず、左下腹部にステッキが勢い良くぶつかった。



「くはぁっ!」



 鈍い痛みに言葉にならない悲鳴と、血と唾液が混ざった液体が、光の口から吐き出された。右手で口元に付着した血を軽く拭う。既に光の手は自身の血とラファエルの血で真っ赤に染まっていた。



「ガブリエル!」



 ラファエルが口元を手で強制的に押さえ付け、吐血を無理やり我慢しながら光の元へ駆けつける。慌ててエメラルドグリーンの魔力を使い、光を回復させようとしたが、それ以上の苦しみがラファエルを襲い吐血と嘔吐を促した。契約者の特徴である白い衣服が既に白ではなくなっていた。



「ラファエル、無理はしないで。一度、天界へ戻ろう」



 君を失いたくないんだと付け足し、光は血まみれのラファエルの手をそっと握った。契約者同士だったので、互いの体温を感じることは無く、ただ、冷たい手が重なり合っているだけのような感覚だった。



「それはさせねぇ。ラファエル、お前、オレと二重契約しろ。そしたら、その苦しみから解放してやる。もちろん、心の苦しみもなぁ」



 吹雪がラファエルに向かって手を差し伸べる。それを猛が防ぐように吹雪に向かって剣を振りかざす。吹雪はそれを魔力をまとったもう片方の手で受け止めていた。



「じゃじゃ馬姫は大人しくしてろよなぁ!」



 吹雪が猛を剣ごと遠くへ飛ばす。数秒後には壁に全身を強打し、背中に激痛が襲った。悲鳴に近いうめき声がやや遠くから光とラファエルの耳に届いた。



「ミカエル!」



 光の叫び声は、猛に届かなかった。吹雪がそんな光を無視しながら、ラファエルの血まみれの手を無理やり掴んだ。


 触れている部分から、吹雪はラファエルに強制的に自身の魔力を流し込んだ。すると、ラファエルは言葉にならない悲鳴を上げ、六枚の白い翼が全て闇と毒を混ぜた色へと変化した。



「ラファエル! ラファエル!」



 光が慌てて吹雪とラファエルを引き離そうと、残り少ない魔力を使い、吹雪を攻撃した。しかし、光の魔力では吹雪は当たっても表情を歪ませる事すらしなかった。そのまま吹雪はラファエルに向かって魔力を注ぐ。



「欲望に忠実になれ!」



 悲鳴を上げながら、ラファエルは首を横に振っていたが、翼や茶色い髪が徐々に悪魔の魔力と同じ色に染まっていった。



「ラファエル!」



 猛が背中の痛みに耐えながらラファエルの傍に駆け寄ってきた。しかし、ラファエルの精神状態と現状により、彼の声はラファエルに届くことは無かった。


 ラファエルの脳内には自分に向かって愛の言葉を囁く光の姿。しかし、その笑みはどこか空虚で、どこか儚かった。


 そんな光をまるで濃い色の絵の具をぶちまけたような魔力が、全てを塗り替えていく。光の笑みは全て闇と毒を混ぜたような色によりラファエルの視界から消える。



「アタシは……アタシは……!」



 言葉とは裏腹に、ラファエルからエメラルドグリーンの魔力が徐々に悪魔の魔力に塗り替えられる。それを見た猛は慌てて剣にまとっていた魔力の色をゴールドに変えた。



「ガブリエル! ラファエルを裁く! 離れろ!」



 ゴールドの魔力を剣にまとわせた猛が、ラファエルに近付く。吹雪はそれを見て一気に魔力をラファエルに注ぎ込むと、一瞬にして彼女から離れ、猛と距離をとった。


 それを見ていた光が首を横に激しく振っていた。



「そんな……! ラファエル! 二重契約なんてしないでしょ!? 」



 光の言葉はラファエルには聞こえなかった。原因不明の劣等感と嫉妬心がラファエルを既に支配し、エメラルドグリーンの魔力は無くなり、悪魔の魔力が彼女から溢れ出ていた。茶髪だった彼女の髪色も、既に悪魔の魔力と同じ色に染まっていた。



「さぁ、地獄長の誕生だぁ!」



 吹雪の言葉に猛はそれを遮るように雄叫びを上げた。混血が悪魔としての純血となりかけているラファエルに、ゴールドの魔力をまとった剣を振りかざした。



「安らかに眠れ。我が仲間よ」



 猛はそのままラファエルに自身の剣でラファエルを斬った。血や肉が飛び散ることは無く、ただ単にエメラルドグリーンの光りと悪魔の魔力の色をした光りがゆっくりと天へと昇っていった。



「もう、止められないんだ……」



 光の小さな声は誰にも届かなかった。



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