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129話 鎮魂歌+先代(1)

「ラファエル!」



 とある廃墟で地獄長との戦闘の中、光はラファエルを守るように剣を振るった。ラファエルに向かって襲いかかる悪魔の魔力。それを光は慣れない手つきで剣を使い、受け止め弾いていた。



「あらぁ。まだそんな力が残っていたのねぇ」



 魔力をラファエルに向かって放出していた悪魔。腰まである魔力と同じ色をした長い髪。両肩には髑髏をカタカタと音を鳴らし、全身から死臭を放っていた。



「アスタロト……。君のような地獄長が転生しているなんて、予想外だったよ」



 光の言葉にアスタロトは、うふふと声を漏らしながら笑っていた。笑う度に、両肩の髑髏が音を立てていた。



「わたしも、転生したばかりだから、こっちの世界では新人なのよぉ。そして、これだけの魔力が溢れているなら、癒しの大天使を真っ先に倒すのが賢い方法だと思うのよ」



 アスタロトの視線が光からラファエルへと移される。


 茶色い大きなややつり目の瞳。瞳と同じ髪色の肩以上腰未満のセミロングの髪を簡単にポニーテールにし、初代のラファエルと同じ、白い一枚布を簡単にまとったような服を着ていた。背中には初代のラファエルと同じ、六枚の慈悲深い白い翼が力なく音を立てる。



「確かに、癒しの大天使(アタシ)がいなくなれば、天界に戻らない限り、魔力を完全に回復する事が不可能だからね。アタシを一番に殺すのが最善策なのは同意だよ」



 ラファエルの顔や身体に生々しい傷が後を絶たなかった。こめかみや太ももからは血が流れ、白い衣服を真っ赤に汚す。


 

「そういう事。だから、このまま消えてくれないかしらぁ」



 アスタロトが魔力でステッキを作り出す。見た目は木製のステッキだが、そこからはアスタロトと同じ魔力と死臭が威嚇するように溢れ出ていた。



「それは、お断りだね。アタシは、愛しているガブリエルの為に、アタシたちを信じてくれている人間の為に、契約者として生き続ける」



 アスタロトを睨みつけるラファエル。そのまま右手に魔力を集中させ、アスタロトに向かって放出した。


 アスタロトは、それをステッキで受け止めようと構えていたが、ラファエルの攻撃の前に光がラファエルの前に立ち、剣を振り上げた。予想外の展開に、アスタロトは剣を受け止める事が出来ず、そのまま目をきつく閉じた。



「二対一はよろしくねぇなぁ」



 本来なら光の剣がアスタロトを貫く音がしたはずだった。しかし、その音は無く、一人の悪魔の声が聞こえた。


 

「これでイーブンだろぉ?」



 光の剣を素手で受け止めた悪魔。大柄な体型に全てを見透かしたような生気のない瞳。アスタロト以上に禍々しい魔力を持った悪魔が素手で持っていた光の剣をそのまま、真っ二つに折った。



「南風君?! いつのまに?!」



 剣を失った光が、再度魔力で剣を作り上げようとしたが、魔力の限界を感じ、実行することは不可能だった。身体に鉛を埋め込まれたような倦怠感が光を襲う。


 光はその倦怠感を覚えたら身体にムチを打ち、無理やり翼を広げ、ラファエルを守るように前に立った。吹雪を睨みつけると、吹雪は白い歯が見えるほど口角を上げた。



「お前もラファエルも魔力が限界に近そうだなぁ。そのまま魔力切れになって、消えてもいいんだぜぇ?」



 吹雪が魔力を光に放出した。光はそれを自身の翼で受け止め、ラファエルを攻撃から守った。六枚の翼のうち、左半分が使い物にならないくらい吹雪の魔力に犯されていた。



「うわぁ!」



 痛み以上の苦しみに思わず悲鳴をあげる光。



「ガブリエル!」



 それを見たラファエルは慌てて立ち上がり、光を守るように前に出た。吹雪を睨みつけ、攻撃の様子を見守りながら、光の傷ついた翼に慈悲の魔力を注ぎ込む。エメラルドグリーンの光線が光の翼を優しく包み込む。



「無理するんじゃないよ。アタシは、アンタが居ないと、生きていけないのよ……」



 光の翼がラファエルの魔力により、本来の白さを取り戻す。しかし、ラファエルの魔力が限界に近付き、三分の一程の吹雪の魔力が光の翼に残っていたが、ラファエルは一度魔力を光に当てるのを止めた。


 一度深呼吸をしようと、息を深く吸ったが、器官に異物が入ってきた様な咳をする。右手で口元を覆ったが、それが意味をなさない程の血がラファエルの口元から吐き出された。


 (むせ) ると嘔吐(えず)くを繰り返し、胸元と膝元の衣服を赤く染めるラファエル。それを見た光は慌ててラファエルの背中をさすった。



「ラファエル! 無理はしないで。ぼくも、君がいなくなったら、悲しくて、生きていけないよ……」



 吐血と咳を繰り返すラファエルに、光は彼女の血まみれの手をそっと握った。必然的に光の手のひらも彼女の血で真っ赤に染まった。


 そんな二人を見ていた吹雪とアスタロトがお互いに視線を送り、吹雪が魔力を放ち、アスタロトがそれを自身の魔力で包み込み、光とラファエルを襲いかかった。アスタロトの魔力により、毒を持った蛇が吹雪の魔力の上に乗り、口を大きく開けていた。


 吹雪の魔力とアスタロトの毒蛇に気付いていない二人に当たる直前、光が持つ剣よりも大きな剣が魔力と毒蛇を真っ二つに切断した。

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