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121話 鎮魂歌+依存(1)

「おはよう、フミ」



「健康診断終わったから一緒に過ごしましょう、フミ」



「たまには一緒に紅茶を飲みましょうよ、フミ」





 事情聴取から二日経ったSランクでは、可憐がレフミエルをことある事に呼び出し、時を共に過ごしていた。レフミエルも彼女の呼び出しや頼み事に嫌な顔一つせずに全て二つ返事で付き合っていた。


 今は、可憐の部屋にレフミエルと弘孝、光が集まり、紅茶を飲んでいた。元々はレフミエルと可憐、二人で飲む予定だったが、それを魔力を使って監視していた光と弘孝が無理を言って半ば強引に参加したのだ。



「なんで私が光と……」



 不満気な独り言を呟く可憐。ため息をする代わりに紅茶を一口飲んだ。ティーカップで紅茶を淹れたいとタブレット端末を使って頼んだら、呆気なく使い捨て容器から陶器のティーカップとティーポットで紅茶が運ばれてきた。飲みなれたアールグレイフレーバーはAランクで飲むよりも、香りが強く、心を落ち着かせた。




「言ったでしょ。ぼくは君を守るって。だから、本当は二十四時間一緒にいたいけど、そこは気を使っているんだよ」



「そんな事言うのに、私に全てを自分から話してくれないのよね」




 初めて光と出会った時と同じトーンで会話をする可憐。唯一違うのが同じ空間に弘孝とレフミエルがいる事だった。光はそんな彼女の言葉を初めて出会った時と同じ張り付いた笑みで受け止めた。



「それは、契約者であるこの身が許してくれないからね。でも、聞かれたら全て嘘偽りなく答えるよ。ぼくたちは人間ではないから、嘘を付けないんだ」



 光の言葉に可憐は違和感を覚えた。最近見ることのなかった張り付いた笑みと人間ではないという言葉。


 それが、可憐にとって、自分はあくまでもラファエルの器として見られ、サタンの器として確保されているのであろうという確信があり、それが可憐の胸を苦しめた。


 しかし、その胸の苦しみの理由は可憐の知っている感情では処理出来なかった。無意識にスカートを強く握りしめることにより、感情をコントロールする。



「嘘をつかないけど、聞かれるまで真実を語らない。嘘をつかないけど、誤解されるような言葉で人間を誘惑する。天使も悪魔も変わらないわね」



 可憐なりの精一杯の皮肉は、光の張り付いた笑みを無意識に儚い笑みへと変えた。スカートを強く握りしめている手を見ると、光は紅茶を一口飲むことで漏れそうになったため息を無理矢理飲み込んだ。



「随分辛辣な事を言うね。怖いのかい? ぼくと契約するのが」



 光の言葉に可憐は無意識にスカートを握りしめていた手を離した。シワだらけになったスカートがゆっくりとほどける。


 視線を光に移すと、そこには、初めて出会った時のペテン師のような表情ではなく、目の前にいる心の底から愛している少女を愛おしそうに見る顔をしていたが、ラファエルの器以上の存在ではないと認識している可憐は、彼の表情をこれ以上を模索する事を放棄した。



「あなたと契約する事によって、私の命が五年以内になる事を知って、正直に言うなら、契約への欲が無くなったに近いわ。でも、私はラファエルとサタンの器なのだから、契約は避けてはならない道なのよね。それならば、私は必ず、あなたと契約するわ」


 怖い。そう答えるのが可憐はどうしても出来なかった。その言葉が光にどのように解釈され、どのような結末を迎えるのか予想がつかなかったのだ。


 普段の可憐ならば、光の言動はある程度の予想は出来たが、今の可憐には光に対して謎の不安や恐怖心があった。それを悟られないように精一杯の強がりを言動で示した。


 可憐の胸元のネックレスが人工的な照明の光りを反射し、輝いていた。


 そんな二人を見ていた弘孝が、二人の会話がこれ以上続かないと判断し、ゆっくりと口を開いた。



「僕は、自分を狡い人間として生きる為に、猛と契約し、戦いの大天使ウリエルとして契約した。混血の僕は、どちらに転がってもおかしくない存在だった。だから、こうやって契約をする事により、僕が命を落としても天使として記憶を失い、生まれ変われる事が出来る。これは、悪魔になって可憐を傷つけないだけでも僕にとって充分幸せなことだ」



 弘孝もまた、儚い笑みを可憐に向ける。彼の長髪が笑みに合わせて揺れた。悪魔の魔力と同じ色をした瞳が想い人を映していた。



「弘孝のような考えもあるのね。私にはまだ、心の底から共感する事は出来ないわ。自分の命を犠牲にしてまでも叶えたい願い……。これが私には何か分からないの」



 弘孝に返事をしたつもりだったが、視線は光に向けられていた。無意識に彼から貰ったネックレスの十字架を優しく握りしめる可憐。ネックレスの冷たさが、光の体温に似ていて無意識に可憐を安心させていた。


 弘孝は可憐のその行動を全て見ていた。こめかみの痛みが再発したが、悟られないように手で抑えることもなく、強い意識だけで我慢していた。



「無理に考える必要はない。僕たちが可憐の願いを見つけるまでサタンの一部から守り続けるだけだ」



 弘孝が可憐に向ける儚い笑み。それは、同じ笑みをよくする光と同じ感情を同じ相手に抱いている証拠であった。

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