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118話 鎮魂歌+本音(1)

 可憐がパスタを食べていた頃、弘孝の部屋では残された四人が未だに残っていた。


 光と弘孝がベッドに腰掛け、猛とジンは白い壁に寄りかかるように立っていた。



「なぁ。どーすんだよ。可憐、怒っちまったじゃないか」



 ジンが視線だけを弘孝と光に向ける。切れ長な彼の目は視線だけでも睨みつけているように見えた。



「君だって激高してここに来たのを忘れたの?」



 光の言葉にジンは舌打ちで返事をした。視線を二人から弘孝だけに向けた。



「そりゃ、あんなの聞いたら誰だってあんなハンノーするだろ。弘孝、あんたはオレたちの幸せの為に、自分のジュミョーを捨てたのかよ」



 ジンは弘孝を軽く睨みつける。彼の視線に気付いた弘孝はジンから顔を逸らした。



「違う。僕はお前たちの幸せを願っているふりをして、可憐の傍にいれる手段を手に入れた卑怯者なだけだ」



 ジンから視線を逸らしたまま話す弘孝。そんな弘孝の態度にジンは二度目の舌打ちをした。




「なんで可憐にはそんなヘタレになるんだよ」



「僕はあくまでも彼女の幼なじみだ。そして、死後、契約者となった時は戦いの大天使ウリエルとなる。彼女の王子様にはなれないならば、せめて近くで守れる騎士にはなりたいと思うのが普通だろ」




 ジンの言葉に弘孝は若干の苛立ちを見せるように間髪入れずに反論する。今度は視線は逸らさず、ジンの顔を見ていた。弘孝の紫色の瞳がジンの顔を映す。


 そんな二人の会話に、光が挙手をしながら割り込んだ。



「騎士、ねぇ。確かにウリエルはぼくたち大天使や天界を悪魔から守る大切な役割を果たしてくれてるよ。それに、第一地獄の地獄長以外の悪魔なら裁くことも出来る。でも、その前に君は、人間の椋川弘孝君であって、ウリエルでは無いんだよ。ぼくはそれが無いから少し嫉妬しちゃうな」



 儚い笑みを見せる光。彼の笑みを理解出来る者は可憐に対して同じ感情を抱いている弘孝だけだった。



「ぼくは光明光であるけど、それは愛の大天使ガブリエルが人間の世界で生きていくための名前であって、ぼくが人間になれる訳じゃない。この止まった心臓が全てを物語っているよ」



 自身の心臓の位置に右手を当てる光。本来なら手のひらから鼓動を感じていてもおかしくないが、既に死人である光はそれを感じる事が出来なかった。


 そんな光に、猛がふと近付き、彼の肩をそっと掴んだ。



「お前は最も神に愛された一人だからな」



 それだけ言うと、猛は光の肩からそっと手を離した。しかし、視線は未だに光の黒い瞳を捉えていた。


 光がそれについて質問をしようとしたが、本能的に口を開いてはいけないような猛の視線に思わず口を閉じる。それを確認した猛は視線を光から全員に向けた。


 猛の一連の行動により、全員の視線が猛に集中した所を確認すると、猛はゆっくりと口を開いた。



「契約後の人間の寿命。これは、人間から具体的に聞かれない限り答えられない内容だ。正直、人間はそこまで聞かずに契約をすることが大半だったので、これは初めての出来事だ。磯崎がこれを知って、どう動くか、正直言って予測が出来ない。命が惜しくて契約を拒否する可能性だってある。それを選ぶのは磯崎本人だから俺たちは何も出来ない。ただ、あのような制約が無い悪魔と契約するという事は、サタンになるということだ。それだけは何としても避けなければならない」



 言葉を選ぶようにゆっくりと話す猛。契約者が能動的に言える最大限の情報は、人間であるジンには全て理解出来なかった。



「カンタンに言うなら、オレたちは可憐を全力で守れって事か。んで、あわよくば、こっち側にケーヤクさせる」



 ジンの言葉に猛は頷いた。しかし、光と弘孝は素直に頷く事が出来なかった。



「ぼくは……光明光としてのぼくは可憐が契約するのを反対してるって言ったよね。これはずっと変わらないよ。ぼくは、可憐に恋してる。そんな子の命を短くするなんて、ぼくには出来ないよ。契約者としての肉体が若いのがいいって言うのは理解しているし、ガブリエルとしてのぼくは、今すぐにでも契約してラファエルに会って抱きしめたいとも思っている」



 矛盾しているよねと付け足し、苦笑する光。しかし、彼の言葉を否定する者は誰一人いなかった。



「僕も光に近い考えだ。ウリエルとして傍にいたいが、可憐にラファエルになって欲しいと願っている訳では無い。僕は長くてもあと五年で記憶を失い、天界で戦い続けるのか、他の契約者をどこかの時代で探すのか分からないが、可憐がラファエルになれば天界で最大の強さを持つウリエルとして傍で守ることになるであろう。だからといって、可憐として死んで欲しいとは寸分も思わない。むしろ、僕がウリエルとなって可憐から離れても、可憐が人間として一日でも長く生きているならそれでいい」



 相変わらず似たり寄ったりだな僕らは、と付け足し弘孝もまた、苦笑した。右手を心臓の位置に触れ、鼓動を確かめる。心臓は一定のリズムを刻んでいたが、弘孝の胸は酸素が足りていないかのように苦しかった。


 二人の意見を聞いた猛は一度溜め息をついた。



「俺も正直、磯崎には長く生きて欲しい。俺たち契約者の呪いから無縁な生活をして欲しいが、二つの魂を持つ者である限りそれは許されない。こんな時、ラファエルならどう考えるのか……」



 ふと、猛の脳裏に初代のラファエルの姿が横切る。可憐と同じ柔らかい表情。黒く、長い髪。違いは瞳の色くらいであろう彼女の姿と可憐の姿を無意識に重ねる。


 そんな猛の内心をくみ取ったのか、光が猛に儚い笑みを浮かべた。

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