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114話 鎮魂歌+差別(3)

「あの日、科学では予測不可能な地震が突然起こった。そして、Aランクの集合住宅が全壊した。更に、何故か君が住む集合住宅を中心としてまるで氷結地獄のような環境になり、崩壊した衝撃と、氷に閉じ込められたことによる出血死や窒息死で住民のほとんどが死亡した。……。ここまでで事実では無い所はあるか?」



 男の問に可憐はゆっくりと首を横に振った。男の言葉をまるで契約者たちのように自分が話せる範囲として解釈する。



「私にも分からないことばかりです。……。まるで、非科学的な何かが襲ってきたような……。そんな出来事でした」



 可憐の言葉に男はそうかと短い返事をすると、タブレット端末を使って、可憐の言葉の大まかな内容をメモする。ペンを使ってメモをするような感覚ではなく、フリック操作で記入された為、手書きよりも随分早くメモが終わる。



「では次。7階に住む君なのにどうして建物が崩壊した時に無事だったんだ? 普通に考えたら、骨折は当然、全身打撲も避けられない。生きていることが奇跡という状態になっていても過言ではないのに、君はほとんど傷ついていない。その理由を教えてくれ」



 男の言葉に可憐の心臓は一瞬だけ、大きく音を立てた。しかし、ほんの一瞬だった為、それ以上の冷静さを装い、左手首の機械に悟られることは無かった。



「……。私に聞かれても分かりません。何が起こったのか、把握する前に家が崩壊し、もうダメだと目を閉じていたら何事もなく生きていました。まるで、誰か……天使のような人が助けてくれたような感覚です。目を閉じていたので状況を理解していません。目を開けたら、先程仰られた事と同様、氷結地獄でした」



 聞かれたことに対してだけ素直に言葉を選びながら話す可憐。男はそれに対してもそうか、と先程と同じような軽い返事をする。


 自分の言葉の選び方にふと、光を思い出す。自分の質問には全て正直に話してくれた光だったが、それは可憐が求めるもの以上を答えることは無かった。まるで、何かの問題についての模範解答のようなもので、それ以上の追求や解説はついていない。嘘をついていないが、事実を全て述べていないという矛盾に光に対して怒りを少し覚えたが、今、男にしている事は光と同じことではないかと思うと、可憐は内心、同類ねと、呟いた。



「なるほど。本当に非科学的な現象……という事しか片付けられない状態なのか。あの黒服のクズどもの報告も全く同じだったな……」



 男の独り言に近い言葉。可憐に向けられてはいないが、やや攻撃的なその言葉の可憐は違和感を覚えた。



「そう言えば、その……黒服の人はこのランクの人たちなんですか?」



 一度尋ねることを躊躇ったが、口が自然に動いた。ここのランクで嘘をつく、何かを強く我慢するとそれは国に直ぐに伝わってしまう。そう判断したからだ。スカートを少しだけ握り締めながら男を見る。彼女の黒い瞳には白服の男が映り込む。



「いや。アイツらはSに上がる権利を失った落ちこぼれだ。簡単に言えばAの頂点以上S未満。とだけ言わせてもらおう」



 これ以上は聞くなと言わんばかりに無言の威圧感を与える男。可憐はそれを察すると、スカートを握りしめていた手を離し、分かりましたと簡単に返事をした。ふと、自身の左手首を見る。心拍数は平常値だった。



「あの、もうひとつ質問を……。その、黒服の人たちに質問したのですが、私の両親の安否を教えてください」



 パスタを食べながら思い出した両親について質問をする可憐。男は可憐の質問に数秒の沈黙で返事をする。その後、タブレット端末に何かを入力し、とある資料を取り出し、目を通す。



「君の両親は無事だ。君たち同様、Sランクにて衣食住の確保をされている。しかし、施設が違う為面会は不可能だ」



 聞きなれた無機質な言葉。しかし、可憐にとって黒服と白服、二人の男から両親の無事を確認されたことにより、Sランクで初めて安堵のため息が自然に出た。左手首の機械がやや冷静よりも低い数値を出す。



「良かった……。私は、それだけがとても不安でした」



 男に向かって微笑する可憐。それを見た男は一度タブレット端末に目を通す。可憐の表情とタブレット端末を交互に見ると、何かを入力し、それが終わると顔を上げた。



「質問はそれだけか。ならば次の私からの質問だ。君が先程言った天使という言葉。それは君が信じているから言った事なのか、それともまた別の理由があるのか」



 先程よりも口調がゆっくりとなる男。可憐も男の言葉に心臓が大きく音を立てた。左手首の機械がやや高い数値を出す。それをふと視界に入れた可憐は咄嗟に深呼吸をした。数回深呼吸をすると、数値は正常値に戻った。



「失礼しました。あまりにも予想外の質問で思わずびっくりしてしまいました。正直に言いますと、私は天使や悪魔といった、非科学的な存在は信じている人がいるのは理解していますが、私自身は信じていません。しかし、私の語彙力で説明できる出来事ではありませんでしたので、天使という表現をしました」



 可憐なりの正直な言葉を述べる。男はそれをタブレット端末に記入すると簡単に頷いた。


 その時だった、再度部屋の扉からノックをする音が聞こえた。



「失礼します。次の事情聴取のお時間です」



 聞きなれた無機質な女の声が扉越しに聞こえると、女には聞こえないが、おおそうかと言って慌てて立ち上がり、自身の左手首に触れ、パイプ椅子を床に収納した。



「時間なようなので、私は失礼する。次の質問は三日後なので、朝の健康診断以外は好きにしてくれ」



 男はそう言い残すと、可憐の顔も見ずに扉を開けて部屋から出ていった。

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