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111話 鎮魂歌+契約後(5)

 Aランクで起こったことを簡潔に可憐たちに説明するジン。一度口を閉じ、可憐たちの反応を観察した。契約者の中で可憐だけが僅かに震えながらジンの話を聞いていた。その震えが、恐怖からなのか、怒りからなのか、ジンはもちろん、可憐自身にも分からなかった。



「ってことで、花のケーヤクシャがここの人間に紛れてココにオレたちを案内したって事だ。この機械も何が目的なんかは、何となく分かってたから、ココ以外ではこんなにベラベラしゃべってねぇよ」



 ジンが左手の腕時計型の機械を右手で指さす。脈や体温は平均的な数値を示していた。



「……。ねぇ、光。ジンが話していた事……願いを叶えた人間の命は長くて五年しか持たないって言うことは事実なのかしら」



 ジンの顔を見ずに、俯きながら光に話しかける可憐。彼女の声色は普段よりも弱々しかった。



「ごめんね可憐。今まで黙っていて。ジン君……あの地獄長が言った事は全て事実だよ。ぼくたちと契約した人間はその魂が朽ちるまでに転生してもらう。その為には早く人間としての命を終わらせる必要があるんだ。言っただろ? 契約後はなるべく傍にいて契約した人間を死ぬまで守るって。それは五年以内という期限付きじゃないと天使(ぼくたち)の数が減って不利になっちゃうからね」



 言葉を選ぶようにゆっくりと話す光。後半は可憐から視線を逸らしていたが、それに対して違和感を覚える人間は誰もいなかった。可憐はそう、と簡単に返事をすると、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。スカートには一部分だけシワができていた。



「って事は弘孝のジュミョーは長くても五年って事なんだろ? 弘孝はそれを知っててケーヤクしたのか?」



 ジンは視線を弘孝に向けて首を少しだけ傾げた。弘孝はそんな彼の瞳を直視する事が出来なかった。



「……。僕は純粋な人間ではない。お前には昔言っただろ? 心臓の止まった人間から生まれた異端者なんだ。天使と悪魔、どちらの情報も詳しく知っているが、それを他言することはできない。それが混血()の末路だ」



 遠回しに契約後の寿命を知っていたことを話す弘孝。それを聞いたジンが再度弘孝の胸ぐらを掴んだ。しかし、今度は弘孝が宙に浮く程ではなく、自分と目線を強制的に合わせるようにしているかのようだった。




「知っててオレたちの幸せをケーヤク内容にしたのかよ。このヒトタラシ」



「ジンが僕の選択に対して怒りを覚えることは覚悟していた。もう五年も一緒にいるんだぞ。僕はお前のことを理解しているつもりだ」




 弘孝の紫色の瞳が仁を映す。ジンの黒い瞳もまた、弘孝を映していた。互いに本音で話している事を理解すると、ジンは弘孝の胸ぐらを掴んでいた手を離した。



「もう、後には戻れねぇ。こうなっちまったのも仕方ねぇ。だからな、弘孝。お前の十七年間を、オレたちと過ごした五年間も、ムダにするような生き方は絶てぇにするなよ」



 それだけ言うと、ジンは弘孝から離れ、壁に寄りかかるような姿勢をとった。可憐がいる状況で弘孝の口から真実を言わせるのは酷であると判断したジンは、弘孝をこれ以上責めることをしなかった。青年期を共にすごした親友の恋路を邪魔をしない。それが精一杯のジンなりの友愛だった。


 ふと、視線を可憐に向けた。可憐は、くすんだ瞳で光を見ていた。



「あなたは、私にどんな事でも答えると言ってくれたじゃない。どうして今まで黙っていたの?」



 可憐の胸元のペンダントが光った。それは、可憐から僅かにサタンの魔力がこぼれ出し、光の魔力と自身の魔力で相殺したからだった。



「ぼくたち契約者は人間では無いって言ったよね? サタンは別として、人間では無い限り、嘘をつくことが出来ないんだ。これは神に愛された人間だけの特権だからね。だから、聞かれた事にはなんでも答えることが出来るけど、聞かれなければ自分から言う事はないんだよ。これは、天使(ぼくたち)の制約だよ」



 光の言葉に可憐は何も言い返すことが出来なかった。出会った時から今まで、何度も聞かれた事の真実を語ると言ってくれたが、確かにそれ以上の事は言わなかった。正直だが、はぐらかされていた事に可憐の心臓はどこか茨道でも歩いたような痛みが襲った。その痛みを誤魔化すように既にシワだらけのスカートを再度握りしめる可憐。



「平等という名の不平等。この国のシステムと変わらないわね」



 可憐はそれだけ呟くと、黙って立ち上がり、出入口の扉へと向かった。新品のローファーが無機質な床を蹴る音が響く。



「待ってよ! 可憐」



 光も慌てて立ち上がり、可憐の肩を掴んだ。しかし、可憐はそれを勢いよく拒絶した。



「触らないで!」



 優美の火葬場でとった態度に近い可憐の拒絶は、光の動いていない心臓に鉛を埋め込んだような感覚を覚えさせた。普段よりも大きな声で叫んだ可憐に光も思わず手を引っ込めた。



「一人で考えたいのよ……」



 先程の叫び声と比べたら今の言葉はいつ消えてもおかしくないくらい細い声だった。それを聞いた光はこれ以上可憐を追いかける気力を失い、ただ、扉から出ていく可憐を見るしか出来なかった。

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