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110話 鎮魂歌+契約後(4)

 バエルの言葉にジンの目が見開いた。今まではバエルの言動に騙されないようにと、平然を装いながら耳を傾けていたが、最後の言葉だけは天使として生きる事を決心した人間の末路を受け止めきれなかったのだ。



「ケーヤクして願いを叶えてもらったら、五年しか生きられねぇって事かよ」



 冷静さを装っているように静かに復唱するジン。しかし、バエルに向けてある剣が震えている事をバエルは見逃さなかった。



「えぇ。ざっくり言うならそういう事だ。悪魔(我々)は契約が成立した時点で肉体を捧げるようなものなんで、数十年は人間の時の記憶がある。そもそも、悪魔と契約するような人生、悔やむような事はほとんどない。天使(お前たち)は記憶があると不都合だろ?」



 ジンの剣を持つ右手をさらに震えさせるような言葉をバエルは選ぶ。ジンからは先程よりも多くの負の魔力が溢れ出ていた。



「平等という名の不平等。それが契約者」



 バエルがそこまで言うと、ジンに向かって剣を振りかざし、間合いを詰めた。突然の行動と先程の会話での動揺により、冷静さを失ったジンは、バエルの攻撃を剣で受け止める事が出来なかった。


 斬られる。そう咄嗟に判断したジンは、死を覚悟しながら目を閉じた。しかし、その後にくるはずだった痛みは無く、剣と剣が重なり合う金属音がジンの耳を支配した。



「大丈夫!? ジン!」



 ジンが閉じていた目をゆっくりと開くと、そこには甲冑を着込んだ傷だらけの少女。聞き覚えのある声にジンは思わず大声を上げた。



「サキ!」



 ジンの呼び声にアリエルは甲冑の隙間から見える口角をゆっくりと上げた。



「間に合って良かった。リーダー……ウリエル様の転生が成功するまで、契約内容だったあなた達を守るのが私の仕事だからね」



 サキとしての口調でジンと話すアリエル。それは、彼と自分との距離を離させないようにする為だったが、ジンはそれを何となく察していた。



「ったく。リーダーは相変わらずツミな男だなぁ。サキ、オレもあのオッサンを倒す。猛の剣があれば傷くらいは付けれるはずだ」



 先程の震えは無くなり、剣をぎゅっと力強く握りしめるジン。扱い慣れていない武器だったが、普段から喧嘩や殺し合いをしていたジンにとって、洋服が変わった程度の違和感でしか無かった。



「私は戦いの大天使ウリエル様を親衛するウリエル班の班長熾天使アリエル! 地獄長バエル、お前を倒す!」



 アリエルが先程バエルの攻撃を受け止めた剣を彼に向ける。バエルはそれを見ながら僅かに笑っていた。先程の攻撃でずれた眼鏡を指先で整える。



「底辺地獄長の私でも、熾天使くらいは倒せる自信はある」



 バエルが剣を構える前に魔力を放出して攻撃する。それをアリエルは剣で受け止め、弾く。しかし、弾かれた魔力がハルやアイたちの方向へ飛んでいく。ジンが二人の名を叫ぶと、魔力の見えない二人は本能的に命の危険を感じ、目を閉じた。



「怖い!」



 アイの叫び声はバエルの魔力を打ち消すように飛んできた弾丸によりジンに届くことは無かった。咄嗟に状況を把握したアリエルは一気にバエルへ剣を振りかざす。



「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」



 弾丸が飛んできた方向と聞きなれない声の方向が重なる。アイとハルは声の方向に顔を向けると、そこには春紀が銃を構えながらバエルを睨みつけていた。




「助っ人に来ましたよ。アリエル」



「花の契約者。ガブリエル様はもう大丈夫なの?」




 アイとハルを守るように前に立ち、アリエルと会話をする春紀。彼の長い金髪が美しく揺れた。



「サタンとの戦闘はとりあえず終わりましたよ。そして、可憐さんが真実を知った。私はその事をレフミエルに伝えた帰りです。お手伝いしましょうか? 彼岸花のように強く、美しい熾天使」



 春紀がバエルに向かって弾丸を放つ。両手で構えられた五十口径のガス圧作動方式の自動拳銃は、大きな音をたてながら魔力で作られた弾丸をバエルに向けた。バエルはそれを剣で受け止めたが、剣が真っ二つに折れた。その隙にアリエルが間合いを詰め、剣を振りかざす。



「裁かれなさい! 地獄長!」



 アリエルの剣がバエルの頭部に当たる直前、バエルは自身を魔力で包み込み、死臭を放ちながら一瞬で蛙の姿へと変身した。目標が突然小さくなり、アリエルの振りかざした剣は蛙になったバエルに当たることは無かった。



「流石に二人の熾天使を相手にするのは分が悪い。一度退散させてもらおう。人間、契約者になる人間の寿命の話は事実である事を忘れてはならないからな」



 バエルはそこまで言うと、蛙の姿のまま魔力で自身を包み込み、ジンたちの目の前から消えた。残された五人は数秒間、沈黙を貫いた。



「……。サキ、それと、花のケーヤクシャ? だっけか、助けてくれてありがとう。そして、オレは今すぐリーダーに会ってアイツを一回ぶん殴らないと気がすまねぇ……!」



 猛の剣を腰に隠すように元の場所にしまい、拳を作るジン。手のひらに爪がくい込み、僅かに血が流れていた。



「事情は何となく把握しています。あなた達はウリエル様の大切なお友達。Aランクもこの有様ですから、一度大天使様の所へ向かいましょう。私たちがご案内します。道中にAランクで大天使様方に起こった出来事を説明させていただきますね」



 ジンに向かって微笑む春紀。ジンはそれを無表情で受け止め、春紀に案内しろと言いながら歩き出した。



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