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108話 鎮魂歌+契約後(2)

 ジンたちEランク出身者は、自宅で紅茶とクッキーを楽しんでいた。Eランクでは想像さえもしていなった飲料水で作られた風味豊かな紅茶。甘みが抑えられジンでも口にできる湿気っていないクッキー。全てが幻の食べ物だった彼らにとって、簡単なブレイクタイムの食べ物でさえEランクではご馳走以上のものだった。



「今日リーダー遅いんだっけ?」



 ジンの向かいに座り、紅茶を飲むハルがジンに問いかける。ジンはクッキーを食べながら頷いた。口元にクッキーの食べカスが付着し、それを親指で拭う。



「あぁ。可憐の家に寄ってくって言ってたぞ。ったく。どーせヒトタラシな事して、可憐に相変わらずの色男ねとか言われてるんだろ」



 相変わらずの色男ね、の部分を若干可憐の口調に寄せながら言うジン。それを聞いたハルとアイは同時に吹き出した。




「確かに。リーダーは無意識におんなおとこ関係なく落としにいきそうだもんな。でも、可憐は落とせない、可哀想な男だよ」



「可憐、リーダーの事、トモダチとして大好き。それ以上の関係、望んでいない。リーダー、可憐の事、女の子として見てる。噛み合わない、悲しい二人」




 それぞれの感想を笑い声を混ぜながら話す二人。ジンもまたそれにつられて笑った。



「だよなー。ユーキが無いのか、ヘタレなのか、わかんねぇわ」



 笑いながら紅茶を一口飲むジン。今日の紅茶はジンでも飲みやすい果物のフレーバーティーとかではなく、やや渋みの入った緑茶に近い紅茶だった。紅茶を飲みながらふと、ジンはスズの事を思い出した。儚い笑みを浮かべながら弘孝を見つめる彼女の姿は、今でも鮮明に覚えていた。



「……。スズの気持ちに、イチミリでも気付いてやったら、少しは変わったかもしれねぇけどな」



 ふと口にした愛する人を想いやる言葉。それを聞いたハルとアイは笑みが一瞬だけ曇った。



「仕方ないさ。スズは悪魔で、リーダーは神に選ばれた天使なんだろ? あんまり詳しくは分からないけど、敵同士なら、むしろ今の状態が後腐れないんじゃない?」



 ハルが精一杯のフォローをするが、ジンの瞳はやや曇ったままだった。ジンは紅茶を飲み干し、最後の一枚のクッキーを口にした。



「リーダーの事なら、スズに会ったら敵とか味方とかカンケーなくスズとして見てるんだろなぁ。んで、スズは余計苦しんで——」



 ジンが話の続きを言おうとした瞬間、玄関と部屋を繋ぐ扉が勢いよく開いた。そこにいたのはフリルのエプロンをつけた祥二郎の姿。格好に似合わず、顔面蒼白で慌てた表情でこちらを見る。



「大変よ! ジンちゃん! アイちゃんたちを連れて今すぐ逃げなさい! Aランクが——」



 祥二郎が最後まで言う暇もなく突然部屋が大きく揺れた。地震のような揺れは三人のティーカップを揺らし、紅茶をこぼしたりテーブルから落ちて割れていた。



「ハル! アイ! 逃げろ!」



 ジンの叫び声にハルはアイを守るようにしながら落下物の少ない場所まで避難する。ジンは辺りを見渡した。目の部分に意識を全て集中させ、魔力を探る。すると、この部屋を包み込んでいる猛の魔力とは別にスズの魔力と同じ色をした闇と毒を混ぜたような魔力が僅かながら見えた。



「チクショー。猛の言ったトーリかよ」



 腰に隠してある猛から借りている剣に触れながら気配を探るジン。しかし、それはジンたちの住む公共住宅が耐震強度が限界を超え、子どもが組み立てた積み木のように崩壊した事により、ジンたちは足場を失い、真っ逆さまに落ちていった。



「ハル! アイ!」



 ジンがハルたちが向かった方向に顔を向ける。ハルがアイを守るように抱きしめ、落下していた。しかし、ジンもハルもアイも自然落下のスピードではなく、まるでパラシュートでもあるかのようなゆっくりと命を奪う程の落下速度ではなかった。数秒後、三人はゆっくりと地面に足をつけた。



「これが猛の力かよ」



 ジンが独り言を呟き、辺りを見渡す。そこは、全てが氷に包まれた地獄のような光景だった。一番近くにある大きな氷の中をよく見ると、そこは同じ公共住宅に住むAランクの人間が凍ったまま息絶えていた。アイとハルがジンの元へ向かい、合流した。ジンにつられて二人も氷に閉じ込められた死体を見た。



「ジン……これは」



 震え声でジンを尋ねるハル。春に近い冬だったが、三人の口元には白い息が現れた。



「悪魔のシワザって考えるのがセオリーなんだろ。ショーさんも見当たらねぇし、オレがお前たちを守るしかねぇ。ハル、オレが必ず守るから、絶対に離れるなよ」



 腰に隠していた剣を抜き、ジンは構えながら視線をハルに向けた。彼の言葉にハルはゆっくりと頷き、なるべく敵にバレないよう意識しながら辺りを見渡した。すると、そこには氷の地獄を物怖じしない黒猫が一匹。



「……。ネコ?」



 ハルの言葉を黒猫が聞いたかのように黒猫は三人に近付いた。甘えたような鳴き声をあげてハルの脚に擦り寄ろうとしたが、ジンがそれを阻止するように間に入った。目を凝らし、黒猫をみると、そこには悪魔の魔力。



「お前、誰だ」



 ジンの言葉に反応するかのように、黒猫は沸騰した液体のようになって溶けだし、そこから眼鏡をかけた男が現れた。黒猫が溶けている間、死臭が三人の鼻腔を刺激した。



「おやおや。分かる人間もいると思うと、裁きの大天使も捨てたもんじゃないという事か」



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