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番外編 デート(3)

 フォークとスプーンを使い、スプーンの上に器用に一口サイズのパスタを作る可憐。そのままスプーンを弘孝の口元へ運ぶ。無意識にあーんと声に出す可憐に弘孝は飛び出しそうな心臓を深呼吸で抑えながら反射的に口を開ける。



「……。う、美味い」



 先程とは違い、ミルクの風味と明太子の食感が口いっぱいに広がっていたが、弘孝はそれを感じる前に飲み込んでしまった。



「弘孝のも、一口ちょうだい?」



 弘孝のパスタを指さし、口を軽く開ける可憐。弘孝もまた、可憐に同じように自分のパスタを一口サイズにし、スプーンに乗せ、可憐の口に運ぶ。少女らしい小さな口に自分の食べ物を運ぶという行為に弘孝の手は若干震えていた。


 その時、可憐たちから少し離れた席でガタンと勢いよく誰かが立ち上がったような大きな音が聞こえた。一瞬二人が音の方に振り向くが、そこにはやや大柄な少年の姿のみ。他人だと判断した可憐たちは、再度視線をパスタに向ける。



「落ち着け! 光!」



 ジンが光の肩を押さえ込み、立ち上がらせるのを阻止する。体型と腕力の差で光は強制的に座らされた。既に運ばれているパスタが微かに揺れる。幸いにも、可憐たちから見える範囲はジンの上半身程度だったが、彼の特徴である頬の傷跡は反対側にあった為、見つかることは無かった。



「これが落ち着いて居られるわけないじゃないか。ぼくも可憐に、あーんってして欲しいよ……」



 まるでこの世の終わりのように項垂れる光。ジンはため息をつきながら運ばれたパスタを雑に箸を使い、口にする。口元に多少ソースが付着するが、ジンはそれを拭うことなくさらにパスタを口の中に入れた。Aランクで食べた食べ物は、どれも今までにないくらいのご馳走だったが、今はそれ以上に弘孝の様子が気になり、味がわからなかった。



「ったく。バレたら可憐に、二度と口聞いてもらえねぇーことだってありえるんだから。シンチョーになれよ」



 可憐と口を聞いてもらえないを聞いた途端、光は一瞬で顔を上げ、再度可憐たちを魔力を使い、見る。その態度の変わりようにジンは大きなため息をついた。そのまま二人は可憐たちの会話に聞き耳をたてながら、無言で食事を続けた。



「この後、どこに行きましょうか。洋服を一緒に見てもいいし、雑貨でもいいし、悩むわね……」



 パスタを口にしながら話す可憐。弘孝もまた、自分のパスタを口にする。食器が重なる音は最小限に抑えられ、上品に食べる姿は誰が見ても女性そのものだった。



「僕はこのような所に一生行けないと思っていた。ましてや、可憐と行けるなんて、それだけでも夢のような話だ。どこに行っても幸せなのは変わりない」



 ミネストローネを口にする弘孝。これも、トマトの風味と野菜の風味が絶妙なバランスで軽く目を見開くほどの美味だった。



「そう言って貰えて嬉しいわ。あ、そうだ。楽器屋に行きましょう。ちょうど、ここのエリアの三階にあったはずよ。最新の音楽に触れられるわ。それに、楽譜も売ってあるはずだから、弘孝が興味がある曲があるなら、買ってみるのも良いんじゃないかしら」



 パスタとスープをほとんど平らげ、スプーンを使い、最後まで食事を楽しむ可憐。弘孝もまた食器についた野菜をスプーンを使って口にしていた。




「そんな、僕の為に折角の時間を使わせるのはもったいない気がするんだが」



「いいのよ。私が連れていきたいんだから。私のわがままを聞いてくれないかしら」




 悪戯をした子供のような笑みを浮かべる可憐。その笑みだけで、弘孝は思わず結婚してくれ、と口にしそうになるのを水を飲むことで慌てて抑えた。



「……。分かった。では、早速行こう」



 なるべく可憐と目を合わせないように立ち上がり、会計へと向かう弘孝。彼の長い髪が慌てて振り返る度に走る馬の尻尾のように大きく揺れた。可憐もまた立ち上がり、弘孝の後を追う。


 そんな二人を光とジンは無言で見ていた。



「ホント、リーダーはヘタレだなぁ……」



 本日何度目か数えるのが馬鹿らしくなるくらいのため息をつくジン。その間に光は立ち上がり、可憐たちが会計を済ませて退店したタイミングを見計らい、自身も会計を済ませに向かった。



「ぼくのは全部食べていいし、お金も払っとくから、ちょっと時間差で行こう。流石に二人同時に行くと怪しまれるからね」



 早口でジンにそう伝えると、光はそそくさと店を後にした。残されたジンは光の残したパスタの皿に視線を送る。一口食べたかどうかくらいしか減っていないパスタは冷えて若干固くなっていた。



「モッタイネーなぁ、あの天使」



 ジンはひたすら光の残したパスタとミネストローネを自分の胃に詰める作業をした。



もう少し続きます

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